大前研一メソッド 2024年2月13日

政治資金の透明化に向け、抜本的な改革を断行すべき

political funds

大前研一(BBT大学大学院 学長 / BOND大学教授 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集部

政治とカネの問題で永田町が揺れており、国民の政治不信がますます高まっています。これを奇貨として今こそ抜本的な改革を断行すべきだとBBT大学院・大前研一学長は主張します。

2022年「赤旗」のスクープ記事が裏金の存在を暴く

「しんぶん赤旗」は2022年11月6日号で、自民党の岸田派など主要5派閥が、政治資金収支報告書にパーティー券収入を過少記載していたとスクープした。

【資料】パー券収入 脱法的隠ぺい 2500万円分 不記載 岸田派など主要5派閥

資金調達のために催される派閥パーティーでは、議員は販売したパーティー券の代金全額を派閥に納める。しかし、一部の自民党議員はノルマを超えた代金を派閥に上納せず、自分の懐に入れて裏金化しているというのだ。

スクープ記事を受けて、神戸学院大学法学部教授の上脇博之氏が、刑事告発を行った。東京地検特捜部は、2023年12月に安倍派や二階派の事務所に家宅捜索を行い、2024年1月7日には安倍派の池田佳隆衆議院議員と秘書を政治資金規正法違反で逮捕するなど、捜査を活発化させている。

解決策を提案する前に、なぜ「政治とカネの問題」が起きるのかを押さえておきたい。根底にあるのは、選挙にカネがかかることである。

なぜ「政治とカネの問題」が起きるのか

私は1995年の東京都知事選挙に出馬して、人海戦術の重要性を思い知った。ポスター貼り、ビラ配り、有権者への電話、選挙カーの手配。支援団体と強く結びついている公明党や共産党の候補者は人を容易に動員できるが、そうでない候補者はカネで人馬を雇うしかない。私の場合、6億円が、この選挙で消えてしまった。

実は自民党も人の動員に苦労している。商店主には自民党支持者が多いものの、店頭にポスターを貼ることを許しても、自分でポスターを貼りに回るほど熱心ではない。

自民党に世襲議員が目立つのは、親がつくった後援会を引き継ぐことで人とカネの問題をクリアできるからだ。世襲ではなく、純粋な気持ちで政治家になろうと選挙に出る候補者は、自ら金策しなければ選挙で勝てない。派閥の領袖も、候補者にカネを分配できないようでは、ボスの座から引きずり降ろされる。かくして、政治家、特に自民党議員はカネ集めに必死になるのである。

政治家が金策に走ると、カネを出せる企業や団体との癒着が始まる。

1995年、政党助成制度が始まった。政党に所属する衆議院議員及び参議院議員の数に基づく議員数割と、総選挙又は通常選挙における得票数に基づく得票数割。この2つの基準に応じて、政党に交付金を配るというものだ。

政党助成制度に二つの問題点

政党助成制度には2つの問題点がある。問題点を順番に見てみよう。

問題点1:パーティーによる集金が抜け穴

まず、パーティーによる集金を禁止しなかったことである。もともと同制度は、政治家個人の資金管理団体へ企業献金することを禁止する代わりに作られたものだ。しかし、政治資金パーティーを禁止しなかったために、パーティー券購入という形で企業からの実質的な献金が続いたのだ。

政治資金パーティーはイカサマだらけだ。パーティー券は1枚2万円が相場で、企業はたいてい10枚セットで購入する。政治資金規正法では、1回で20万円を超える支払いを受けた場合に収支報告書への記載を義務づけている。10枚きっかり購入するのは、不記載の範囲内で最大限に買うためだ。

10枚購入した企業はどうするかというと、1人だけパーティーに送り込む。出席したことを議員側に知らせるために、名刺を置いて帰るのだ。

私も付き合いでパーティーには何度か出席したが、当日は会場となるホテルのレストランで事前に腹ごしらえをするのが常だった。そもそもパーティーの会場費は、ホテルから相場より安く提供されている。

コストを抑えたうえで、企業には出席しない人の分までパーティー券を買ってもらう。このようなイカサマで、政治家は利益を出しているのだ。

百歩譲って、パーティーの利益が真っ当に政治活動に使われるなら我慢できる。今回の一番の問題は、派閥から議員へのキックバック分が裏金化し、使途不明になっていることだ。表に出さないカネの使い道は、永田町の常識的に考えると2つ。選挙で票を取りまとめてもらうために買収するか、銀座の高級クラブなどで議員本人の「お楽しみ」に使うかである。現時点では、使い道についてまだ何も明らかになっておらず、今後の解明が待たれる。

問題点2:政治家に相応しくない輩が交付金を得る

今回の件と直接関係はないが、政党助成制度にはもう一つ問題がある。政治家におよそ相応しくない輩にも交付金が行き渡るという問題だ。

2023年6月に暴力行為等処罰法違反などで逮捕されたガーシーこと東谷義和元参議院議員は、当時のNHK党(現・みんなでつくる党)から出馬して当選していた。ガーシー氏は典型的な泡沫候補で、事実、当選後は一度も登院せずに除名された。そんな人物でも、同じような輩と徒党を組んで支持を集め、当選さえしてしまえば交付金を得られるのだ。

解決策:政治に関わるカネの流れを透明化して、市民が監視

政党助成制度には抜け穴が多く、国民が納得できる形で運用されていない。私なら政党助成制度を廃止して、別の手段を取る。徹底した透明化だ。

(1)米国の例:選挙の候補者に、誰がいくら寄付したかを公開

参考になる一例は米国だ。米国は、どんなやり方で政治資金を集めてもいいし、それをどのように使ってもいい。額の大きさも派手である。2024年11月には大統領選挙があるが、共和党の大統領候補の一人であるニッキー・ヘイリー氏は、大富豪チャールズ・コーク氏の支持を取りつけてダークホースに躍り出た。コーク氏率いる政治団体は、大統領選に向けて7000万ドル(約100億円)を用意している。それだけのカネが平気で動くのが、米国の大統領選挙である。

候補者は、集めたカネをテレビやインターネットの広告につぎ込む。内容に規制はなく、時に対立候補を「人殺し」と批判するものまである。やりたい放題だ。ただし、誰がいくら寄付したのかをすべて公開しなければならない。

【資料】連邦選挙委員会(FEC)に報告されている、米大統領候補たちの選挙資金と収支の詳細

ゆえに、不正が見つかりやすいし、ある候補者のカネの集め方に納得できなければ、有権者は対立候補に投票すればいい。そうした考え方で、政治の健全性を保とうというわけだ。

(2)エストニアの例:議員本人の銀行口座や資産台帳を有権者に公開

透明性では、米国よりもっと進んでいる国がある。「世界一透明な政府」を持つ北欧の国エストニアだ。

デジタル先進国として近年注目を集めるエストニアでは、物の売買や給料の振り込みなどのカネのやりとりはすべて、中央銀行である「エスティ・パンク」を通して行われる。手続きはすべて電子化されており、税金の計算も自動。税理士と会計士の出番はない。

このような仕組みなので、個人の収支は政府にすべて把握されているが、もちろん一般には公開されない。しかし、議員は別だ。議員本人の銀行口座や資産台帳が有権者に公開され、いつどこからどのような入金があったのか、簡単に調べることができる。議員の行動が、完全にガラス張りになっている。

政治資金改革によって金集めがしにくくなると選挙に有利になる議員たちも存在する

日本が目指すべきはエストニア型である。

まずは21世紀型のサイバー的な管理で、政治に関わるカネの流れを透明化し、住民が監視できる状態にする。そして、政党助成制度を廃止する。米国のように派手にお金を集めるのは問題があるので、パーティーを抜け道とした企業団体献金も禁止する。個人からの献金は額に上限を設けて認めるが、インターネット振り込みに限定して履歴が残るようにする。そのうえで、献金のリストをすべて公開するのだ。

ここまで抜本的にやらないと、政治とカネの問題は解決できない。

実は、必要な改革はこれだけではない。世襲議員があくせくしていないように見えるのは、「地盤(後援会)・看板(知名度)・鞄(政治資金)」を親から引き継いでいるからだ。それら3つを何も持っていない議員志望者が、政治資金改革によって金集めがしにくくなれば、世襲議員がますます有利になる。政治団体を親族が引き継ぐときは、政治資金にも相続税をかけるべきだろう。

また、特定の支持団体からカネや人の提供を受けている政党も人ごとではない。自民党議員がカネを集めるのは、そのカネで運動員を雇うため。その意味で、労働組合に人とカネを出してもらえる共産党や立憲民主党、創価学会から強力な支持を得られる公明党は、献金を受け取っていることと本質的には変わらない。人もカネも勝手に集まってくる政党に、澄ました顔で自民党を批判する資格はない。

※この記事は、『プレジデント』誌 2024年2月16日号 を基に編集したものです。

大前研一

プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学教授。