野球日本代表「侍ジャパン」の事業/広報の運営を担当していた加藤さん。BBT大学大学院入学時はプロ野球球団・東京ヤクルトスワローズの広報として活躍していましたが、入学後の2014年、野球日本代表「侍ジャパン」のプロモーションを専業とする株式会社NPBエンターブライズに出向となり、「侍ジャパン」のマーケティング担当に抜擢されました。 歴史が浅く十分にファンが育っていないため、当時は主催試合での観客動員に苦戦が続いていた侍ジャパン。そんな中、どのような工夫をしてこの集客課題を突破したのでしょうか?その考え方を伺いました。

修了生プロフィール

加藤謙次郎 さん
株式会社R.E WORKS 代表取締役社長
神奈川県海老名市出身。2003年4月に新卒で東京急行電鉄株式会社へ入社。広報業務を4年間担当したのち、株式会社ヤクルト球団へ転職。ヤクルト球団では広報担当を行いながら、マスコット「つば九郎」のプロモーションをはじめとしたファンサービスを企画推進。「エンターテイメントとしてのプロ野球」を意識しながら、いかに世の中に発信していくかを模索。2014年1月より株式会社NPBエンタープライズへ出向。
野球日本代表「侍ジャパン」事業に携わる。
2017年9月末でNPBエンタープライズと出向元のヤクルト球団を退職し、株式会社R.E WORKSの代表取締役社長に就任。

MBAを取得するさながらランニングやボディメイキングに目覚め、月に100~150kmのランニングを日課とする。また、「生涯スポーツ」を目指し、サッカーなどにも挑戦。高校まで10年続けてきた野球に関する才能はほぼゼロと自覚するも、年に数回の草野球での活躍を妄想する日々。

CASE1 全体のうち最も改善ポテンシャルがある箇所を構造化して見つける

過去の事例が当てはまらない?ゼロから情報を収集/構造化して事実を整理する

皆さん「侍ジャパン」の名前を一度は耳にしたことがあると思います。侍ジャパンとは全世代・プロアマを問わない野球日本代表のことを指しています。トップチームはプロ野球選手を中心に構成されていますが、U-23やU-18などといった年齢別や女子チームのカテゴリがあり、それぞれのカテゴリにおいて世界と戦うチームの総称なのです。

そんな侍ジャパンですが、この組織は2013年から始動したためまだ歴史が浅く、他のスポーツや海外事例を研究しながら、手探りでマーケティングを行っている状態でした。特にマーケティング面においては、トップチームを含めた主催試合の観客動員が伸び悩んでおり、集客改善は喫緊の課題として認識されていました。

また同じ野球というスポーツですが、プロ野球とは異なるアプローチを取る必要性を感じていました。なぜなら侍ジャパンは「地域性が無い」「試合が恒常的に開催されていない」など、プロ野球と前提条件が異なる部分がいくつかあるからです。

次に、観客席を分解した要素から2つを選び、縦軸と横軸を作ってみましょう。例えば、横軸に【席の種類】の各要素を、縦軸に【場所】【販売状況】【販売経路】の各要素を置きます。すると下図のようなマトリックスができます。

したがって、従来の「プロ野球」というフレームワークにはめて打ち手を考えるのではなく、ゼロベースで事実を明らかにしながら打ち手を創出していくというプロセスを踏むことにしました。ここでは、その際に考えていたことや集客改善における事例などの一部をお話しできればと思います。

さて、まずは集客の全体像を把握するためにMECEに情報を整理することからスタートしました。MECEとは、は論理的思考の基本で、「モレなく・ダブりなく」という英語の頭文字を取ったものです。トランプを例に挙げると、「スペード」、「ハード」、「ダイヤ」、「クローバー」「ジョーカー」の5種類に分類できますね。これは漏れもダブりもない状態なのでMECEといえるでしょう。では職業の分類はどうでしょうか。仮に「学生」「会社員」「自営業」という属性を挙げた場合、これはMECEと言えません。なぜなら社会人学生という存在がありますし、会社員が副業で自営業をしているケースもあるでしょう。分類がダブっていますよね。多くの情報を整理する時、MECEの考えで分類することは、対象を正しく理解するための重要なテクニックとなります。

構造化して解決の糸口を発見する

まずはこのMECEの考え方で、観客席を考えられる限り多くの切り口で分解します。この時、分解の切り口がダブっていないか、抜けはないか、をチェックしながら考える事がポイントです。例えば、上記のように観客席に座る人を職業別に分解しようと思っても、職業自体が社会人学生のようにダブりがあるので、分解できません。また「試合の見やすさ」という切り口はどうでしょうか。テレビ中継の視点であるバックネット裏は見やすいかもしれませんが、人によって見たいポイントが異なるので、これも分解軸としては適しません。

このように軸を取って情報を整理する際は、一発でピッタリとハマる軸を出せるわけではありません。まずは色々な分解軸を出し、仮説を立てながら進めます。

さて、下図は観客席をMECEで分解する時の「切り口」の例を示しています。【席の種類】【場所】【販売状況】【販売経路】などを挙げました。まずは自由席か指定席かという【種類】で分解できますね。また、スタジアムの観客席をバックネット裏、ライト側、レフト側、一塁側、三塁側という形で【場所】で分解することもできます。

今回のテーマである「観客動員」の視点からは【販売状況】という視点でも分解できます。売れた席、売れなかった席という形です。さらに売れた席は、【性別】【年代】などで分解することができます。他にも【販売経路】など、どのような切り口で分解できるか、思いつく限り整理しました。これらは全て思考の切り口であり、次のステップに繋がる「軸」と考えることができます。

同様に他の切り口を元にマトリックスを作ります。4つの切り口があると、合計6通りのマトリックスのパターンができます。

そこで、出来上がったマトリックスから今回の課題に適切な組み合わせを考えてみました。今回の課題は「観客席を埋めること」なので、【販売状況】は重要な軸です。また、もう1つの軸は計測しやすく効果性の見込める【場所】を採用しました。

このようなプロセスを通して、観客席という大きな塊を【販売状況】と【場所】の2軸で切り取り、問題をより具体的に考えていくことができるようになりました。

そして、過去の壮行試合の結果をこのマトリックスに当てはめると、三塁側・レフト側席の販売状況が課題であることを発見しました。そしてこの原因は、野球観戦独自の事情によるものでした。野球観戦はまずバックネット裏をコアなファンが購入します。そしてホーム球場側の応援団が一塁側、ライト側を、ビジター側の応援団が三塁側、レフト側を購入します。例えば東京ドームで巨人阪神戦が行われた場合、一塁側・ライト側に巨人ファンが、三塁側、レフト側は阪神ファンが購入します。

一方、侍ジャパンの試合の場合は、ホーム側は日本代表の応援団が座りますが、ビジター側は対戦国の応援団の席になります。するとビジター側は対戦国のファンが少ないので、空席率が比較的高くなってしまいます。 これらのプロセスを経て、優先すべき課題はレフト側、三塁側の販売ということが明らかになりました。

ここまで、問題の対象になる塊を複数のMECEとなる切り口で分解し、2つ以上の分解した軸を組み合わせて検証するプロセスをご紹介しました。一見複雑に見える問題から、シンプルな原因を見出だせ得る方法です。上手くハマる分類の切り口を出すことが難しいのですが、構造化・分解を習慣的に行うことでそのセンスは徐々に磨かれていくと思います。

CASE2 「誰」を顧客に「何」をすれば集客インパクトがあるか?

ターゲットの特徴から見えてきたプロモーションの切り口

CASE1の分析で、主にビジター側であるレフト側、三塁側の集客を強化するという課題設定ができました。では、ビジター側の空席率を下げるにはどのようにすれば良いのでしょうか。対戦国のファンの集客が見込めないので、それ以外の「新規」の顧客層を球場に呼び込まなくては行けません。また前述の通り、侍ジャパンの試合はシーズンごとの定期開催ではなく1ショットの随時開催となるため、一試合ごとの集客目標を短期的にクリアし続けることも現実として考慮する必要があります。そのため従来のプロ野球とは異なる、以下のような整理でプロモーション施策を企画しました。

しかし一試合ごとの来場ポテンシャルを秘めた非ファンと言っても、単に言葉を置いただけでは具体的に誰?どこにいるの?となってしまいます。結論から言うと当時流行していたTVアニメ「おそ松さん」のファン、というターゲット設定にしました。

これは、広告代理店による市場調査レポートや、自身の生活における観察により分かってきた情報、そして「野球の垣根を広げるため従来とは異なる層を集客したい!」という私の想いを掛け合わせて判断した結果です。

このターゲット層は、スマートフォンなどデジタルメディアとの接触が多い一方で、テレビに代表される既存メディアとの接触時間は少ない特徴があると調査から分かっていました。またTwitterをはじめとするSNSにおいて「商品/サービス/体験などのクチコミの発生源」となる傾向も持ち合わせていました。実際に、おそ松さんがTVで放送される翌日のTwitterのトレンドには同番組のキーワードが必ずと言ってよいほどランクインしていました。

このような事実から、おそ松さんのコンテンツと侍ジャパンでタイアップを企画することで戦略的にクチコミを発生させられるのではないか?それによって「ビジター席を1試合ごと確実に埋める」という課題の解決策になり得るのではないか?と考えたのです。

クチコミについてはAISASのフレームワークが有名です。Attention(注目)、Interest(関心)、Search(検索)、Action(購買)、Share(共有)のステップに購買プロセスを分解するモデルですが、これはユーザーの「体験を共有したい」という心理に基づくものです。近年のWEBメディア、とりわけソーシャルメディアの発達によって、それまでの代表モデルであったAIDMA(アイドマ)に続いて数年前に登場しました。

皆さんも、どうしても欲しいものを買ったときや、美味しい食事が出来たときなど、SNSを通じてシェアした事があるのではないでしょうか?最近は「インスタ映え」などという言葉もありますよね。このシェアされる情報が「デジタル上のクチコミ」として拡散し、モノやサービスの販売に貢献する重要な要素となります。なおこのような購買プロセスのフレームワークは日々変化を遂げており、AISCEASやDECAXモデルなども最近は提唱されています。

クチコミのトリガーとなる企画開発に向けて

他にも色々な切り口でターゲットと集客企画を検討してみましたが、当時のトレンドや企画の新規性/話題性、実現可能性などの観点から、おそ松さんファンをターゲットに置き、タイアップ企画を実際に実行していけることとなりました。

具体的な企画の一つとして、侍ジャパンの壮行試合において、公式コラボグッズを開発し、それらが当たる専用シートを3塁側、レフト側に準備したことなどが挙げられます。また、おそ松さんの各キャラクターが侍ジャパンのユニフォームを着ているオリジナルのイラストも作家に描いていただきました。さらに試合では、始球式をおそ松さんのキャラクターが務めるなどのイベントも実施できました。

このような取り組みを続けることにより、「おそ松さんファン」という新規顧客を試合に動員することができました。またおそ松さんファンがSNS上でクチコミを起こすことによって更なる波及効果を生み出すことにもつながり、一定の成果を上げることができました。気づけばスポーツメディアだけでなく、一般メディアも興味を持っていただける現象となりました。

なおこの拡散において獲得したデジタル上の情報は試合毎に分析し、次の試合への取り組みの参考にしました。試合を重ねるに従い、他のキャラクターとのコラボを増やすなどの実験的な打ち手を増やし、取り組みを始めてから1年後の壮行試合では、一塁側三塁側の販売数に差がない状態になったのです。

マーケティングに携わる方であれば、「集客」に苦戦することは多々あるかと思います。そのとき従来の顧客に対するロジカルな集客改善はもちろん大切なのですが、それだけではいつか頭打ちになってしまいます。そのときこそ「既存―新規」という真逆の軸を取って考え、「まったく新しい顧客層の設定とそれに適した企画開発」というチャレンジを検討してみることも良いと思います。

Interview1:学びを振り返って

日本のプロスポーツ界を「ドリームジョブ」にするために


アメリカではスポーツ業界で働くことは「ドリームジョブ」と呼ばれており、MBAホルダーなども多く在籍しています。その中の一部の人達が日本に来て大活躍していることに刺激を受けて、私はMBAの学びをスタートしました。また、プロスポーツ球団で働くことは、まだまだ「スポーツ好きな人」が働く特殊な業界と見られることが多いのですが、人材の質で他の業界に負けていないことを証明したい、という思いもありました。ただ仕事柄時間が不規則なため、決まった場所、時間に通学することが難しかったため、実践的かつ場所と時間に縛られないと聞いたBBT大学院を選択しました。

学びはアウトプットから得るもの

入学前は、大学生の時の授業の印象から、インプット主体の学びをイメージしていました。しかし実際はインプット以上にアウトプットが求められる世界でした。例えば、入学してすぐに「あなたが○○社の社長だったらどうするか?」というテーマで毎週レポートを提出するリアルタイムオンラインケーススタディ(RTOCS)という課題が始まったことです。これは自分が実際の会社や組織のリーダーになったとして、その立場で売上拡大や収益確保に向けてどのような打ち手を考えるのか?という内容の課題です。テーマに関してクラスメートとディスカッションを行い、自分なりの結論を導き出します。始めのころは、クラスメート達の膨大なアウトプット量に呆然として何を発言していいかわからずにPCの前で呆然としたことを覚えています。そのような体験の積み重ねでインプット先行ではなく、アウトプットを求められる環境ということに気付きました。

またマーケティングに関する科目も同様に、講義を元に「自分だったらどうするか」を常に考え、アウトプットをする科目でした。アウトプット習慣が身についたので、今回の壮大なプロジェクトをすすめるにあたって、事前に「思考の型」は出来ていたと思います。

このようにじっくりと1つひとつの課題に取り組み、しっかりとした「思考の型」を作り上げるために、卒業を2年計画から3年計画に延長し、1つの科目にかける時間を増やしました。

学ぶということはインプット主体からアウトプット主体のイメージに変化したことは、自分の中で目的と手段が入れ替わったぐらいの大きなインパクトだったことを覚えています。

BBT大学院で学んだ結果、前提条件にとらわれること無く、ゼロベース思考で本質的な問題点を特定し、解決策を提示し実行することを心がけるようになりました。日常でMBAホルダーであることは特に強調はしていませんが、仕事仲間や取引先の方からは、会議や日頃の発言などを評価していただいた上で、MBAホルダーであることを打ち明けると、信頼感が一気に向上することを実感しました。

「変わり者」が未来を変える

お金を払い、膨大な時間をかけてMBAを取得する人間は、まだ「変わり者」の部類だと思います。そのような「変わり者」が周りを巻き込み、共感を呼び起こしたとき、大きな力を生み出し、強いリーダーになれると思っています。

MBAを志す時点で「変わり者」の世界に一歩踏み込んだ事になりますが、世の中を動かしていくのは常に「変わり者」です。変わり者が行動をすることで、本当に世の中を変えることができると信じています。

ではどうやって自分を変えていけば良いのでしょうか?大前学長は、自己変革は「時間配分を変える」「住む場所を変える」「付き合う人を変える」ことが大事で、決意表明ほど意味が無いものは無いと発言しています。すなわち、これに習うと気持ちを新たにするのではなく、行動することが一番重要になるのです。

実は最近、私は事業会社を立ち上げました。いまスポーツ業界では、2020年の東京オリンピックに向けて変革・成長の波が押し寄せています。この機会に旧弊に囚われること無く行動し、多くの人を巻き込みながら世界に誇れる日本のスポーツ文化の発展に積極的に関りたいという思いがより強くなり、2017年9月末でNPBエンタープライズを退職し、スポーツやエンターテイメントを事業領域とする会社を設立したのです。

学び、考え、そして行動すること。これまでのようにこのスタイルを大切にし続けていきたいです。皆さんも、皆さん自身の世界を変える学びに是非トライしてみてください。

Interview2:周囲の評価
――学びを実務に活かしているMBAホルダーを見て


荒木 重雄さん / 株式会社スポーツマーケティングラボラトリー 代表取締役

侍ジャパンマーケティングチームのリーダーとして発想力、実行力すべてが素晴らしかった

加藤さんと野球日本代表「侍ジャパン」のWEBマーケティングの一環として、侍ジャパンのウェブサイトを公式ニュース発表の場から「メディア」に変えていこうとしていたことがあります。ファンとのコミュニケーションなどを含めた野球日本代表のマーケティングの中心として機能させる、という方針です。

そこでこの施策を実行に移すために、「WEB編集部」を発足しました。この編集部は加藤さんを中心に、社外の広告代理店や制作会社、デジタルマーケティングツールを開発しているITベンチャー企業などで構成されていました。

「WEB編集部」は普段はメールなどでのやりとりが中心でしたが、毎月皆が揃って定例打合せを行っていました。やはり顔を合わせて議論することが重要と考えていたのでしょう。その場ではキャラクターの選定について議論したりSNSの効果測定の研究などを重ねたり、1つ1つ取り組みを実現していきました。マーケティング上必要となる米国WBC関連の写真素材の入手など、複雑な権利関係の課題もありましたが、加藤さんは巧みに解決していましたね。

このようなチームは得てして「発注者」と「受注者」という関係になりがちですが、加藤さんを中心とした一体感のあるチームにまとまっていたのは加藤さんの侍ジャパンにかける想いからくる「強いリーダーシップ」によるものだったと思います。振り返っていて思い出しましたが、定例会合後の飲み会で気づいたらハイボールを合計180杯注文していたこともありましたね(笑)。そんな側面もあるメリハリの効いた良いチームだったと思います。

このような強い絆があってこそ成し得たプロジェクトでした。この絆は加藤さんがいたからこそ作れたと思います。

事業を成功させた人は、得てして物事の決断にあたっては「直感的」に決めたという話を聞きます。 しかし決断の際、それをサポートする経験や感性、知識、洞察力があるからこそ、その「直感」が出てくるのだと思います。 「おそ松さん企画」についても最終的には論理を超えたジャンプで考えているはずです。論理と直感を上手くバランスさせ、深く考えられる力をMBAで養ったのではないでしょうか。

加藤さんは起業を通じて新たな道を踏み出しました。 これまでは日本代表のブランドの元で進めてきたことが、当面は自分自身の力だけで進めなければなりません。 しかし加藤さんの考え方、行動力を持ってすれば必ず成功すると信じています。


野球日本代表「侍ジャパン」の事業/広報の運営を担当していた加藤さん。BBT大学大学院入学時はプロ野球球団・東京ヤクルトスワローズの広報として活躍していましたが、入学後の2014年、野球日本代表「侍ジャパン」のプロモーションを専業とする株式会社NPBエンターブライズに出向となり、「侍ジャパン」のマーケティング担当に抜擢されました。 歴史が浅く十分にファンが育っていないため、当時は主催試合での観客動員に苦戦が続いていた侍ジャパン。そんな中、どのような工夫をしてこの集客課題を突破したのでしょうか?その考え方を伺いました。

修了生プロフィール

加藤謙次郎 さん
株式会社R.E WORKS 代表取締役社長
神奈川県海老名市出身。2003年4月に新卒で東京急行電鉄株式会社へ入社。広報業務を4年間担当したのち、株式会社ヤクルト球団へ転職。ヤクルト球団では広報担当を行いながら、マスコット「つば九郎」のプロモーションをはじめとしたファンサービスを企画推進。「エンターテイメントとしてのプロ野球」を意識しながら、いかに世の中に発信していくかを模索。2014年1月より株式会社NPBエンタープライズへ出向。
野球日本代表「侍ジャパン」事業に携わる。
2017年9月末でNPBエンタープライズと出向元のヤクルト球団を退職し、株式会社R.E WORKSの代表取締役社長に就任。

MBAを取得するさながらランニングやボディメイキングに目覚め、月に100~150kmのランニングを日課とする。また、「生涯スポーツ」を目指し、サッカーなどにも挑戦。高校まで10年続けてきた野球に関する才能はほぼゼロと自覚するも、年に数回の草野球での活躍を妄想する日々。

CASE1 全体のうち最も改善ポテンシャルがある箇所を構造化して見つける

過去の事例が当てはまらない?ゼロから情報を収集/構造化して事実を整理する

皆さん「侍ジャパン」の名前を一度は耳にしたことがあると思います。侍ジャパンとは全世代・プロアマを問わない野球日本代表のことを指しています。トップチームはプロ野球選手を中心に構成されていますが、U-23やU-18などといった年齢別や女子チームのカテゴリがあり、それぞれのカテゴリにおいて世界と戦うチームの総称なのです。

そんな侍ジャパンですが、この組織は2013年から始動したためまだ歴史が浅く、他のスポーツや海外事例を研究しながら、手探りでマーケティングを行っている状態でした。特にマーケティング面においては、トップチームを含めた主催試合の観客動員が伸び悩んでおり、集客改善は喫緊の課題として認識されていました。

また同じ野球というスポーツですが、プロ野球とは異なるアプローチを取る必要性を感じていました。なぜなら侍ジャパンは「地域性が無い」「試合が恒常的に開催されていない」など、プロ野球と前提条件が異なる部分がいくつかあるからです。

次に、観客席を分解した要素から2つを選び、縦軸と横軸を作ってみましょう。例えば、横軸に【席の種類】の各要素を、縦軸に【場所】【販売状況】【販売経路】の各要素を置きます。すると下図のようなマトリックスができます。

したがって、従来の「プロ野球」というフレームワークにはめて打ち手を考えるのではなく、ゼロベースで事実を明らかにしながら打ち手を創出していくというプロセスを踏むことにしました。ここでは、その際に考えていたことや集客改善における事例などの一部をお話しできればと思います。

さて、まずは集客の全体像を把握するためにMECEに情報を整理することからスタートしました。MECEとは、は論理的思考の基本で、「モレなく・ダブりなく」という英語の頭文字を取ったものです。トランプを例に挙げると、「スペード」、「ハード」、「ダイヤ」、「クローバー」「ジョーカー」の5種類に分類できますね。これは漏れもダブりもない状態なのでMECEといえるでしょう。では職業の分類はどうでしょうか。仮に「学生」「会社員」「自営業」という属性を挙げた場合、これはMECEと言えません。なぜなら社会人学生という存在がありますし、会社員が副業で自営業をしているケースもあるでしょう。分類がダブっていますよね。多くの情報を整理する時、MECEの考えで分類することは、対象を正しく理解するための重要なテクニックとなります。

構造化して解決の糸口を発見する

まずはこのMECEの考え方で、観客席を考えられる限り多くの切り口で分解します。この時、分解の切り口がダブっていないか、抜けはないか、をチェックしながら考える事がポイントです。例えば、上記のように観客席に座る人を職業別に分解しようと思っても、職業自体が社会人学生のようにダブりがあるので、分解できません。また「試合の見やすさ」という切り口はどうでしょうか。テレビ中継の視点であるバックネット裏は見やすいかもしれませんが、人によって見たいポイントが異なるので、これも分解軸としては適しません。

このように軸を取って情報を整理する際は、一発でピッタリとハマる軸を出せるわけではありません。まずは色々な分解軸を出し、仮説を立てながら進めます。

さて、下図は観客席をMECEで分解する時の「切り口」の例を示しています。【席の種類】【場所】【販売状況】【販売経路】などを挙げました。まずは自由席か指定席かという【種類】で分解できますね。また、スタジアムの観客席をバックネット裏、ライト側、レフト側、一塁側、三塁側という形で【場所】で分解することもできます。

今回のテーマである「観客動員」の視点からは【販売状況】という視点でも分解できます。売れた席、売れなかった席という形です。さらに売れた席は、【性別】【年代】などで分解することができます。他にも【販売経路】など、どのような切り口で分解できるか、思いつく限り整理しました。これらは全て思考の切り口であり、次のステップに繋がる「軸」と考えることができます。

同様に他の切り口を元にマトリックスを作ります。4つの切り口があると、合計6通りのマトリックスのパターンができます。

そこで、出来上がったマトリックスから今回の課題に適切な組み合わせを考えてみました。今回の課題は「観客席を埋めること」なので、【販売状況】は重要な軸です。また、もう1つの軸は計測しやすく効果性の見込める【場所】を採用しました。

このようなプロセスを通して、観客席という大きな塊を【販売状況】と【場所】の2軸で切り取り、問題をより具体的に考えていくことができるようになりました。

そして、過去の壮行試合の結果をこのマトリックスに当てはめると、三塁側・レフト側席の販売状況が課題であることを発見しました。そしてこの原因は、野球観戦独自の事情によるものでした。野球観戦はまずバックネット裏をコアなファンが購入します。そしてホーム球場側の応援団が一塁側、ライト側を、ビジター側の応援団が三塁側、レフト側を購入します。例えば東京ドームで巨人阪神戦が行われた場合、一塁側・ライト側に巨人ファンが、三塁側、レフト側は阪神ファンが購入します。

一方、侍ジャパンの試合の場合は、ホーム側は日本代表の応援団が座りますが、ビジター側は対戦国の応援団の席になります。するとビジター側は対戦国のファンが少ないので、空席率が比較的高くなってしまいます。 これらのプロセスを経て、優先すべき課題はレフト側、三塁側の販売ということが明らかになりました。

ここまで、問題の対象になる塊を複数のMECEとなる切り口で分解し、2つ以上の分解した軸を組み合わせて検証するプロセスをご紹介しました。一見複雑に見える問題から、シンプルな原因を見出だせ得る方法です。上手くハマる分類の切り口を出すことが難しいのですが、構造化・分解を習慣的に行うことでそのセンスは徐々に磨かれていくと思います。

CASE2 「誰」を顧客に「何」をすれば集客インパクトがあるか?

ターゲットの特徴から見えてきたプロモーションの切り口

CASE1の分析で、主にビジター側であるレフト側、三塁側の集客を強化するという課題設定ができました。では、ビジター側の空席率を下げるにはどのようにすれば良いのでしょうか。対戦国のファンの集客が見込めないので、それ以外の「新規」の顧客層を球場に呼び込まなくては行けません。また前述の通り、侍ジャパンの試合はシーズンごとの定期開催ではなく1ショットの随時開催となるため、一試合ごとの集客目標を短期的にクリアし続けることも現実として考慮する必要があります。そのため従来のプロ野球とは異なる、以下のような整理でプロモーション施策を企画しました。

しかし一試合ごとの来場ポテンシャルを秘めた非ファンと言っても、単に言葉を置いただけでは具体的に誰?どこにいるの?となってしまいます。結論から言うと当時流行していたTVアニメ「おそ松さん」のファン、というターゲット設定にしました。

これは、広告代理店による市場調査レポートや、自身の生活における観察により分かってきた情報、そして「野球の垣根を広げるため従来とは異なる層を集客したい!」という私の想いを掛け合わせて判断した結果です。

このターゲット層は、スマートフォンなどデジタルメディアとの接触が多い一方で、テレビに代表される既存メディアとの接触時間は少ない特徴があると調査から分かっていました。またTwitterをはじめとするSNSにおいて「商品/サービス/体験などのクチコミの発生源」となる傾向も持ち合わせていました。実際に、おそ松さんがTVで放送される翌日のTwitterのトレンドには同番組のキーワードが必ずと言ってよいほどランクインしていました。

このような事実から、おそ松さんのコンテンツと侍ジャパンでタイアップを企画することで戦略的にクチコミを発生させられるのではないか?それによって「ビジター席を1試合ごと確実に埋める」という課題の解決策になり得るのではないか?と考えたのです。

クチコミについてはAISASのフレームワークが有名です。Attention(注目)、Interest(関心)、Search(検索)、Action(購買)、Share(共有)のステップに購買プロセスを分解するモデルですが、これはユーザーの「体験を共有したい」という心理に基づくものです。近年のWEBメディア、とりわけソーシャルメディアの発達によって、それまでの代表モデルであったAIDMA(アイドマ)に続いて数年前に登場しました。

皆さんも、どうしても欲しいものを買ったときや、美味しい食事が出来たときなど、SNSを通じてシェアした事があるのではないでしょうか?最近は「インスタ映え」などという言葉もありますよね。このシェアされる情報が「デジタル上のクチコミ」として拡散し、モノやサービスの販売に貢献する重要な要素となります。なおこのような購買プロセスのフレームワークは日々変化を遂げており、AISCEASやDECAXモデルなども最近は提唱されています。

クチコミのトリガーとなる企画開発に向けて

他にも色々な切り口でターゲットと集客企画を検討してみましたが、当時のトレンドや企画の新規性/話題性、実現可能性などの観点から、おそ松さんファンをターゲットに置き、タイアップ企画を実際に実行していけることとなりました。

具体的な企画の一つとして、侍ジャパンの壮行試合において、公式コラボグッズを開発し、それらが当たる専用シートを3塁側、レフト側に準備したことなどが挙げられます。また、おそ松さんの各キャラクターが侍ジャパンのユニフォームを着ているオリジナルのイラストも作家に描いていただきました。さらに試合では、始球式をおそ松さんのキャラクターが務めるなどのイベントも実施できました。

このような取り組みを続けることにより、「おそ松さんファン」という新規顧客を試合に動員することができました。またおそ松さんファンがSNS上でクチコミを起こすことによって更なる波及効果を生み出すことにもつながり、一定の成果を上げることができました。気づけばスポーツメディアだけでなく、一般メディアも興味を持っていただける現象となりました。

なおこの拡散において獲得したデジタル上の情報は試合毎に分析し、次の試合への取り組みの参考にしました。試合を重ねるに従い、他のキャラクターとのコラボを増やすなどの実験的な打ち手を増やし、取り組みを始めてから1年後の壮行試合では、一塁側三塁側の販売数に差がない状態になったのです。

マーケティングに携わる方であれば、「集客」に苦戦することは多々あるかと思います。そのとき従来の顧客に対するロジカルな集客改善はもちろん大切なのですが、それだけではいつか頭打ちになってしまいます。そのときこそ「既存―新規」という真逆の軸を取って考え、「まったく新しい顧客層の設定とそれに適した企画開発」というチャレンジを検討してみることも良いと思います。

Interview1:学びを振り返って

日本のプロスポーツ界を「ドリームジョブ」にするために


アメリカではスポーツ業界で働くことは「ドリームジョブ」と呼ばれており、MBAホルダーなども多く在籍しています。その中の一部の人達が日本に来て大活躍していることに刺激を受けて、私はMBAの学びをスタートしました。また、プロスポーツ球団で働くことは、まだまだ「スポーツ好きな人」が働く特殊な業界と見られることが多いのですが、人材の質で他の業界に負けていないことを証明したい、という思いもありました。ただ仕事柄時間が不規則なため、決まった場所、時間に通学することが難しかったため、実践的かつ場所と時間に縛られないと聞いたBBT大学院を選択しました。

学びはアウトプットから得るもの

入学前は、大学生の時の授業の印象から、インプット主体の学びをイメージしていました。しかし実際はインプット以上にアウトプットが求められる世界でした。例えば、入学してすぐに「あなたが○○社の社長だったらどうするか?」というテーマで毎週レポートを提出するリアルタイムオンラインケーススタディ(RTOCS)という課題が始まったことです。これは自分が実際の会社や組織のリーダーになったとして、その立場で売上拡大や収益確保に向けてどのような打ち手を考えるのか?という内容の課題です。テーマに関してクラスメートとディスカッションを行い、自分なりの結論を導き出します。始めのころは、クラスメート達の膨大なアウトプット量に呆然として何を発言していいかわからずにPCの前で呆然としたことを覚えています。そのような体験の積み重ねでインプット先行ではなく、アウトプットを求められる環境ということに気付きました。

またマーケティングに関する科目も同様に、講義を元に「自分だったらどうするか」を常に考え、アウトプットをする科目でした。アウトプット習慣が身についたので、今回の壮大なプロジェクトをすすめるにあたって、事前に「思考の型」は出来ていたと思います。

このようにじっくりと1つひとつの課題に取り組み、しっかりとした「思考の型」を作り上げるために、卒業を2年計画から3年計画に延長し、1つの科目にかける時間を増やしました。

学ぶということはインプット主体からアウトプット主体のイメージに変化したことは、自分の中で目的と手段が入れ替わったぐらいの大きなインパクトだったことを覚えています。

BBT大学院で学んだ結果、前提条件にとらわれること無く、ゼロベース思考で本質的な問題点を特定し、解決策を提示し実行することを心がけるようになりました。日常でMBAホルダーであることは特に強調はしていませんが、仕事仲間や取引先の方からは、会議や日頃の発言などを評価していただいた上で、MBAホルダーであることを打ち明けると、信頼感が一気に向上することを実感しました。

「変わり者」が未来を変える

お金を払い、膨大な時間をかけてMBAを取得する人間は、まだ「変わり者」の部類だと思います。そのような「変わり者」が周りを巻き込み、共感を呼び起こしたとき、大きな力を生み出し、強いリーダーになれると思っています。

MBAを志す時点で「変わり者」の世界に一歩踏み込んだ事になりますが、世の中を動かしていくのは常に「変わり者」です。変わり者が行動をすることで、本当に世の中を変えることができると信じています。

ではどうやって自分を変えていけば良いのでしょうか?大前学長は、自己変革は「時間配分を変える」「住む場所を変える」「付き合う人を変える」ことが大事で、決意表明ほど意味が無いものは無いと発言しています。すなわち、これに習うと気持ちを新たにするのではなく、行動することが一番重要になるのです。

実は最近、私は事業会社を立ち上げました。いまスポーツ業界では、2020年の東京オリンピックに向けて変革・成長の波が押し寄せています。この機会に旧弊に囚われること無く行動し、多くの人を巻き込みながら世界に誇れる日本のスポーツ文化の発展に積極的に関りたいという思いがより強くなり、2017年9月末でNPBエンタープライズを退職し、スポーツやエンターテイメントを事業領域とする会社を設立したのです。

学び、考え、そして行動すること。これまでのようにこのスタイルを大切にし続けていきたいです。皆さんも、皆さん自身の世界を変える学びに是非トライしてみてください。

Interview2:周囲の評価
――学びを実務に活かしているMBAホルダーを見て


荒木 重雄さん / 株式会社スポーツマーケティングラボラトリー 代表取締役

侍ジャパンマーケティングチームのリーダーとして発想力、実行力すべてが素晴らしかった

加藤さんと野球日本代表「侍ジャパン」のWEBマーケティングの一環として、侍ジャパンのウェブサイトを公式ニュース発表の場から「メディア」に変えていこうとしていたことがあります。ファンとのコミュニケーションなどを含めた野球日本代表のマーケティングの中心として機能させる、という方針です。

そこでこの施策を実行に移すために、「WEB編集部」を発足しました。この編集部は加藤さんを中心に、社外の広告代理店や制作会社、デジタルマーケティングツールを開発しているITベンチャー企業などで構成されていました。

「WEB編集部」は普段はメールなどでのやりとりが中心でしたが、毎月皆が揃って定例打合せを行っていました。やはり顔を合わせて議論することが重要と考えていたのでしょう。その場ではキャラクターの選定について議論したりSNSの効果測定の研究などを重ねたり、1つ1つ取り組みを実現していきました。マーケティング上必要となる米国WBC関連の写真素材の入手など、複雑な権利関係の課題もありましたが、加藤さんは巧みに解決していましたね。

このようなチームは得てして「発注者」と「受注者」という関係になりがちですが、加藤さんを中心とした一体感のあるチームにまとまっていたのは加藤さんの侍ジャパンにかける想いからくる「強いリーダーシップ」によるものだったと思います。振り返っていて思い出しましたが、定例会合後の飲み会で気づいたらハイボールを合計180杯注文していたこともありましたね(笑)。そんな側面もあるメリハリの効いた良いチームだったと思います。

このような強い絆があってこそ成し得たプロジェクトでした。この絆は加藤さんがいたからこそ作れたと思います。

事業を成功させた人は、得てして物事の決断にあたっては「直感的」に決めたという話を聞きます。 しかし決断の際、それをサポートする経験や感性、知識、洞察力があるからこそ、その「直感」が出てくるのだと思います。 「おそ松さん企画」についても最終的には論理を超えたジャンプで考えているはずです。論理と直感を上手くバランスさせ、深く考えられる力をMBAで養ったのではないでしょうか。

加藤さんは起業を通じて新たな道を踏み出しました。 これまでは日本代表のブランドの元で進めてきたことが、当面は自分自身の力だけで進めなければなりません。 しかし加藤さんの考え方、行動力を持ってすれば必ず成功すると信じています。