2026年8月4日

なぜ官民ファンドは「必ず失敗する」のか?

Main investment projects of the Cool Japan Organizationこの論文から学ぶべき「大前研一メソッド」
<「前提を逆転させる」(発想の転換)>

・一般的な発想:
日本の魅力を“発信する”
・大前研一の発想:
日本の魅力は“外国人が勝手に見つける”
・結論:
問題の前提を疑うと、コストは1/100になる

官民ファンドのクールジャパン機構(海外需要開拓支援機構)が虫の息です。出資金総額1513億円に対して2025年度決算では累積540億円の赤字を発表しました。それを受けて統廃合の検討が始まる予定です。クールジャパン機構に限らず、「官民ファンドは必ず失敗する」とBBT大学院・大前研一学長は断言します。失敗する根本原因について大前学長に聞きました。

大前研一(BBT大学大学院 学長 / BOND大学教授 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集部

血税を溶かした12年。クールジャパン機構の末路

安倍晋三首相(当時)の肝いりでクールジャパン機構が設立されたのは2013年11月。人口が減っていく日本は、海外需要を取り込まないと成長が難しい。そこで日本の生活文化の魅力――いわゆるクールジャパンを活かした事業にリスクマネーを供給して、日本のブランド化を進めることがこのファンドの目的だった。

成績は散々である。エグジット済み案件も投資中の案件も損失だらけで、2024年度時点の累積赤字は383億円だった。そこからさらに1年で累積赤字が540億円まで膨らんだのは、クモの糸にヒントを得た新繊維を開発していたスパイバーが2026年3月に私的整理に入ったからだろう。ほかにも、日本のコンテンツを現地語で発信するWAKUWAKU JAPAN(4億円出資)は2022年に放送・配信が終了するなど死屍累々。目立つ成功例は、ラーメン店「一風堂」を展開する力の源ホールディングスがIPOしたくらいだ。

【表】クールジャパン機構の主な投資案件
クールジャパン機構の主な投資案件

現在投資中の案件も気を抜けない。クールジャパン機構は森岡毅氏率いる刀に80億円出資しているが、鳴り物入りで2025年開業したテーマパーク「ジャングリア沖縄」は開業半年間の来場者数が65万人にとどまり、初年度の目標を大幅に下方修正せざるをえなくなった。刀はすでにお台場の「イマーシブ・フォート東京」の営業を終了している。

問題は、出資する側の目利き力だ。投資は百発百中とはいかないものだが、それにしてもクールジャパン機構の累積赤字540億円はひどすぎる。出資の原資は税金であり、これでは税金をドブに捨てているようなものだ。

目利きが下手な理由は簡単だ。官民ファンドだからである。日本でもっともリスクを取らない職業の一つが役人だ。一度なってしまえば一生安泰。安定志向の人生設計をしている役人に、リスクがある事業の評価ができるわけがない。クールジャパン機構実働隊は民間出身者だが、背後に控えるのが役人ならば、投資判断はやはり甘くなる。

同じ問題は他の官民ファンドも抱えている。海外でインフラ事業を手がける企業を支援するJOIN(海外交通・都市開発事業支援機構)は2023年度で累計赤字が955億円に。農業ベンチャーなどに投資してきたA-FIVE(農林漁業成長産業化支援機構)は2025年度に累積赤字が162億円に達して、2025年度末に解散した。いずれも安倍政権時代に発足した官民ファンドだが、役人が絡んでいる時点でこうなる未来は見えていた。

ロジックより直感が勝つ。800社で学んだ投資術

私はこれまでアタッカーズ・ビジネススクールの卒業生を中心に約800社のスタートアップを支援してきた。卒業生はそのことを知っているから、私のもとに「起業するので500万円貸してください」とよく直談判に来る。しかし私は貸さないことに決めている。

支援するなら融資ではなく出資だ。しかも本人が50%、すなわち過半数の株を持ち、社長として会社を背負う気概があることが条件だ。「友達3人と共同で会社を立ち上げました」ではダメだし、「ベンチャーキャピタルが過半」も迷走する原因になる。それを了承したものだけ事業内容を精査し、おもしろいと思えば出資する。その判断は、ロジックというより勘や直感に近い。本人の能力や人柄、事業内容や市場環境などを総合的に見て、ピンと来たらお金を出すのだ。良しとしているのは、「こいつはおもしろいやつだ」と直感が告げるからである。

スタートアップへの投資判断も、最後は直感だ。私はそのスタイルで出資をして、成功率は7%だ。千三つ(1000の新規事業のうち3つしか残らない)と言われるスタートアップの世界では誇っていい数字だろう。率だけでなく、500万円の出資がIPOで億円単位になって返ってきたこともある。当然、累積では大きな黒字だろう。

ちなみに現在、出資を望む卒業生に関してはBBT(ビジネス・ブレークスルー)の評価委員会が投資判断を下している。ただ、今のところ成功率は低い。委員会になるとみんなを納得させる論理が必要になり、個人の直感を抑えてしまう。BBTのファンドでさえそうなのだから、感性からほど遠いところにいる役人が絡む官民ファンドが失敗するのはあたりまえだ。

魅力は外国人が見つける。政府がすべき唯一のこととは?

クールジャパンについては従来と発想を変えなくてはいけない。ものづくりの時代は、日本の製品がいかに優れているかをこちらからアピールする必要があった。

しかしクールジャパンは逆で、海外の人が勝手に発見してくれる。こちらからアピールするのは、インバウンド客にとって余計なお世話だ。2025年5月、日本経済新聞がアニメの地を地域活性化に生かしている自治体ランキングを発表したが、1位に輝いたのは北海道の洞爺湖町だった。地域の皆さんには申し訳ないが、私から見ると特筆すべき観光資源があるとは言いがたい町である。しかし海外のアニメファンは一般の日本人とは違う感性で魅力を見出して聖地巡礼しているのだ。

ほかにも海外の人が自分で見つけたクールジャパンは多い。富士山・桜・五重塔の三点セットが臨める新倉富士浅間神社(山梨県)が人気だが、インバウンド客が押しかけるまで、ほとんどの日本人はその存在を知らなかった。

先日、東京ミッドタウン日比谷にある超高級懐石料理屋に行ったら、周りはすべて中国語だった。大声でうるさかったので家内も私も落ち着いて食べられなかったし、何を食べたのかも覚えていないくらいであった。2025年、都内某所においしい鮨店がオープンして贔屓にしていたが、海外のネットでバズったらしく、ついに予約が取れなくなった。日本人以上に海外の食通たちのほうが日本食のおいしい店を知っているのである。

インバウンド客は、それらのスポットや店を日本発信で知ったわけではない。おそらく海外の感度の高い人たちが見つけて、SNSや動画配信を通して広がったのではないか。先日もインバウンドに人気があるということで五島列島の小値賀島のある旅館を見に行った。行くのも大変、滞在するのも大変でどこが魅力的なのか、結局私には全くわからなかった。

ならば、日本の魅力をこちらから発信するより、見つけてもらいやすくすることにお金をかけたほうがいい。私なら海外のインフルエンサーたちを呼んで好きに観光させ、気に入ったカルチャー、サービス、商品を発信してもらう。そしてバズったら成果報酬でお金を払う。クールジャパン機構の出資額の100分の1、1億5000万円で十分に足りる。

政府が支援するのはその程度でよく、事業そのものは起業家自身が磨き込んでいけばいい。お金を配ることが仕事だと思っている役人が幅を利かせているかぎり、クールジャパン戦略はうまくいかないと心得るべきだ。

※この記事は、『プレジデント』誌 2026年8月14日号、「大前研一ライブ ♯1321」2026年7月26日配信 を基に編集したものです。

大前研一

プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学教授。