イシダメディカル株式会社の國崎さんは、計量機器メーカーの株式会社イシダに1999年に入社され、2009年~2015年に商品企画を担当されていました。

その時に医療業界への新規参入を起案、BBT大学院の卒業研究を活かして新規事業を立案し、売上を大きく伸ばしました。その後スピンオフし、医療機器事業会社、イシダメディカル株式会社を創設、社内ベンチャー第1号として日々奮闘されています。

そんな國崎さんも、「以前、経営陣とのコミュニケーションにジレンマを抱えていた」と言います。どのような苦悩を感じ、BBT大学院に入学され、現在の活躍をされるようになったのでしょうか?お話を伺いました。

修了生プロフィール

國崎 嘉人(くにさき よしと)さん

2013年4月BBT大学院入学、2015年3月修了。入学時37歳、現在46歳。
2009年より株式会社イシダで商品企画部にて主に赤外線通信方式電子棚札を担当。その後医療業界への新規参入を企画・商品を開発。
BBT大学院の卒業研究で新規事業を起案、大きく売上を伸ばし、現在社内ベンチャーであるイシダメディカル株式会社代表取締役社長を担う。

苦悩の末の異業種参入と経営陣を説得できないジレンマ…BBT大学院法人派遣との出会い

ーーイシダメディカル株式会社の経営を担っておられる國崎社長ですが、BBT大学院で学ばれて、数年間で現在まで躍進されています。これまでの経緯について教えていただけませんか。

2009年ごろから株式会社イシダ(以下、イシダ)で商品企画に携わっていました。なかでも主に担当していたのが、電子棚札という商品でした。スーパーマーケットや家電量販店の店頭の棚に無線で値段表示するデバイスなんですけれども、イシダはシェアが高かったんですね。

イシダは1998年に日本で初めて電子棚札を食品スーパーに導入して2007年ごろまで多くの導入実績を上げたものの、リーマンショック以降、食品小売業の業績が振るわなくなり、私が商品企画担当になった時は電子棚札の冬の時代でした。

一番苦しくて、もがいている時期でした。他の業界で使い道はないのかと考えていたその頃、参加した展示会で薬科機器の大手企業と運良くご縁をいただいて、電子棚札の既存技術を医療業界で転用する可能性に行き着きました。


(提供:イシダメディカル株式会社)

まず最初に製品化したのが、注射薬自動払出装置で払い出される患者さんごとのトレーに電子棚札を取り付け、行先を表示するというアイデアでした。病院では、医師は外来患者向けに錠剤・散薬を処方しますが、入院患者向けには液剤である注射薬を処方します。薬剤部は医師の処方オーダーに合わせて患者さんに必要な薬剤セットを作っていくんです。注射薬自動払出装置はこの作業を、より正確に効率よく作業をするための装置です。

医師が電子カルテに処方をオーダーすると、薬剤部に注射薬自動払出装置にデータが流れ、薬剤をピッキングし、トレーに取り付けられた電子棚札に行先が表示され、運搬された病棟側で返品や変更があった際には「返品」と表示することでで誤投薬等のミスを防ぎます。

スーパーマーケットで商品の値段を表示していた機器が、病院で患者さんの名前や行き先の病棟を案内する。こうして運良く医療業界での転用ができました。

ただ、同時に非常にジレンマ、ストレスを感じていた時代なんです。異業種顧客からお金をいただいての受注では会社は動いてくれるのですが、経験のない業界向けの新製品開発に投資をするという判断を経営陣から引き出すことは難しかったです。わたしも熱意だけはあったんですけども、なかなか説得的な言葉に落とし込めませんでした。

医療業界という世界でなんとかあたらしいものを開発し、風穴を空けたい。どういう風にしていけばいいのか、事業開発とはどうすべきものなのか。悩んでいたときに、当社でBBT大学院への派遣が始まったっていう機会があったんです。一番最初の社員として応募したことが大きなきっかけでした。

ーーBBT大学院で学ばれて、その課題感は解決されたでしょうか。

その後非常にBBT大学院に助けられましたし、役に立ちましたね。今でもそう思っています。


↑國崎さん(左)と、卒業研究担当教員の廣瀬教授(右)。

BBT大学院の卒業研究(※1)で新規事業を起案し、実際にイシダで事業化しました。それが2016年に開発した外来患者案内システムです。


(提供:イシダメディカル株式会社)

総合病院に来た患者さんは、待合室で2~3時間待たないといけないんですね。いつ呼ばれるかわからないので、トイレにもいかずに我慢している患者さんもいます。

この製品はそんな患者さんのストレスを解放することができます。患者さんは病院内のカフェやレストランやコンビニなど好きな場所で過ごすことができ、機器が電子カルテと連携されていて、検査、採血、診療、会計まで呼出受信機が都度案内してくれます。患者さんが家に持って帰れたら、診察日のリマインド・お薬の種類も提示でき、見守り機能にもなる。そんな事業プランを卒業研究で起案しました。

今では病院での呼出システムとして実際に製品化しました。一式それなりの価格がするのですが、今では自治医科大学病院、秋田大学病院、神戸市立医療センター中央市民病院、都立多摩総合医療センター、国立がん研究センターなど、地域の中核病院10病院で導入いただいています。

BBT大学院に行かなかったら、この新規事業につながっていませんし、そもそもマインド、気持ちの面でチャレンジできていませんでした。成功体験を積ませてもらったことに対して、本当に感謝しています。

編集者註
※1「卒業研究」:BBT大学院の卒業研究。およそ1年かけて実務家教員との1on1を通じ、実戦で価値を生む新規事業計画を立案するカリキュラム。

「年間売上100億の事業プラン」を半年で提出。ファクトの集め方、課題への迫り方はRTOCSで学んだ

ーー素晴らしいサクセスストーリーですね…!しかも実際に学びが活きていて、とても印象的です。

いえいえ、かなり強引にやって社内的に無理をさせてしまいました。きっかけとして会社のお金でBBT大学院に派遣してもらったことは卒業後にチャンスをもらえることにつながったと思います。私は修了した2015年の春に社長の石田に呼ばれまして、こう言われました。

「現在の会社を取り巻く環境や自社を分析すると、2つやるべきことがある。1つは海外売上比率を50%以上にすること、もうひとつは、新しい事業の柱を作ることだ。」と。当時、イシダはグローバル展開していたものの海外売上比率は30%くらいでした。日本国内の人口はピークアウトしていますし、市場は縮小の一途をたどります。一方、海外ではアジア、アフリカ地域などまだまだ拡大余地がある。それを50%以上にしたい。

もうひとつは、今後売上を1500億、2000億と上げていくことを考えると食品産業一本足だと足りない。だからもうひとつ事業の柱を作りたい、医療・医薬業界がいいと思っている、だから君にはそちらを任せるから勉強したことを活かせ、と言われたんですね。

「半年後の役員会で、年間100億円の売上が5年で達成できる事業プランをもってこい」、というお題をもらいました。これって、BBT大学院で散々取り組んだRTOCSじゃないですか。

事業プランの立案にあたっては、社内でプロジェクトチームとして5人集めることやシンクタンクに戦略構築支援を依頼するなど、大きな人的、金銭的投資をするということで石田の本気度を強く感じました。その時の5人の一人がBBTの仲間である森井氏です。

それから半年間、製薬会社やいろんなところにインタビューに出かけて、多くの情報を集めて分析し、ディスカッションして「2021年3月期に、自力成長で20億、M&Aで80億」というプランを出したんですね。私は2020年に新会社に転籍したので見届けられませんでしたが、私がいた頃で18.5億、その後20億を達成しています。

立案されたプランの実現のために設立された専門部署「医療・医薬事業企画室」で様々な新製品を手掛けました。その中で、ある病院のニーズを形にした「排尿計測記録システム」という医療機器を企画しました。医療機器になりますと、業許可や製品の許認可などハードルが一気に高まりますが、臆せずに仲間とチャレンジしました。


(提供:イシダメディカル株式会社)

そうしたこれまでの新事業開発へのチャレンジを見ていた社長の石田から、ベンチャー1号として君たちに投資するからあとは自律的にやってほしいと背中を押してくれたことが嬉しかったです。

ーー「半年で100億の事業プランを作れ」ととても難易度の高い課題を課され、しかもすでに20億は達成は凄いですね…。

RTOCS(※2)なんて1週間で戦略立案をしなければいけないじゃないですか。だけど、この件は半年もありましたから(笑)。

特にファクトを集めるということの重要性はRTOCSから学んだ大きな学びのひとつです。事業プランを作る際、本当に多くの企業、製薬会社へ足を運びました。BBT大学院では製薬業界のネットワーキングも強固で、色々話を聞きました。事業計画策定の一環として、事業について教えを請いに、BBT大学院在学中にお世話になった益山さん(※3)にもプロジェクトメンバーの森井さんと共に話を伺いに行きました。


↑益山さんに医薬品業界や医薬品向けビジネスについて教えをいただいた日。

いくら情報収集をしても、集まったファクトが誤ったものだと、導き出す結論や仮説は誤ったものになります。正確な情報を集めることに腐心した半年間でしたね。

人は提案、企画についてOKかNGか判断するとき、それぞれ自分の過去の経験に基づいて判断しますよね。リスクの有無も、その人自身の感覚に紐付いています。だけどそれって、やっぱり間違っていると思っているんです。

過去の経験に基づいて判断するのではなくて、未来はこうなるという予測・仮説に対して、現在起きている事実がこうだからOKかNGか、という判断をしなければいけないじゃないですか。

既存事業の場合には、過去の経験則、社員同士の人間関係、義理人情などがあらゆる判断に関わる要素になってきますが、新規事業をやるときには裏目に出てしまう。だからこそ、正確なファクトを集めることが大事だと思いました。

編集者註
※2「RTOCS(アールトックス)」:「Real Time Online Case Study」の略称で、BBT独自のケースメソッドです。答えの出ていない「現在進行形の企業課題」をケースとして扱い、当該企業に関する調査・分析・戦略考案を自ら実施します。大前研一学長の戦略系科目において、卒業までに2年間毎週1題=合計約100題を繰り返し行います。

※3「益山さん」:2012年にBBT大学院を終了された益山進さん。以下は益山さんのインタビュー記事です。
企業参謀にとってMBAはベーススキル。欧州メーカー執行役員が語る経営の「知る・やる・できる」

役員会は総合格闘技のリング。BBT大学院のMBAは戦う上で必要な「矛と盾」

ーー経験則で判断するのではなく、未来に価値を出せる仮説を立てるためのファクト収集、というのは高度な話ですね。

そうです、そのファクトを並べて、何が言えるかを導き出して、人を説得しなきゃいけないじゃないですか。その手法を学べたのも、BBT大学院でした。

私の感覚でいうと、役員会は総合格闘技のリングなわけですよ。メンバーそれぞれが豊富な実績や仮説を持っています。それに対して自身で集めてきたファクトと仮説で応酬し、「参った」と言わせなければいけません。そのためにはロジカルな説明がないと納得させられないんですね。

BBT大学院では、「ロジカルに考え、伝えるとはどういうことか」を学ばせてもらいました。物事をMECEに考え、時にはフレームワークを駆使して分析し、事の本質に迫っていく。その迫り方を学ばせてもらいました。

ーー役員会はさぞ激しい場だったのだろうとお察しします。

役員会での質疑応答は最初は身構えて、「なんとか論破してやろう」くらいに思っていたんですけども(笑)、さまざまな質疑をもらって気づけなかったことに気づかせてもらいました。非常にレベルアップさせてもらいました。

そんななかでもボードメンバーがなにを見ているかというと、やっぱりこいつが逃げずにやるかどうか、という覚悟を見ているんだなと思うに至りました。本気か、やりきる覚悟があるかどうか。そのためにロジカルな説明を用意し、できる準備をすべてしていくのだという。

BBT大学院に入学したことを振り返ると、「あのとき入学すると決断しておいて本当によかったな」と未だに思うんです。例えるなら素手で裸で戦場に出るか、武器を持ち鎧を着ているかみたいな違いを感じます。

ビジネスの場は、戦場ですし、日々直面するのは戦闘のワンシーンのように思います。だから適切な武器も、防具も持っていないといけません。BBT大学院入学前までは素手で裸一貫で戦っていたようなものでした。いまでは、武器をいくつか持っていて、選べる。全然違うという感覚を持ちました。

戦略ひとつ立てるにも、大きくて真っ白なキャンバスにガイドなしで絵を書くよりも、頭の中で升目を作ると、こういう風に考えればこういう策しかないよねとイメージできます。それがすごく大きかった。

イシダメディカル株式会社の戦略としてアメリカに進出しようと思っています。日本は間違いなく人口縮小していくじゃないですか。大前研一学長もおっしゃっていますが、可能性が一番大きなところで勝負すること。アメリカには医療産業で世界一の市場があります。ポジショニングのとり方、どこでチャレンジするべきかなど人口動向や市場規模だけでなく、様々なファクトを集めて分析して打ち手を決めています。

BBT大学院は比叡山。源流から学べ

ーー最後にMBAを検討中のみなさまにメッセージをお願いできますか。

経営のフレームワークの多くを開発したのは大前研一学長じゃないですか。BBT大学院はそういった意味で比叡山みたいなものなんですよ。MBA、経営の学びも今や色々な宗派が出てきていますよね。私は比叡山が好きで月イチで通っているのですが、浄土宗も浄土真宗も臨済宗も曹洞宗も日蓮宗も、すべての宗派は比叡山から生まれ、別れているんです。

わたしが幸運だったのは、BBT大学院といういわば比叡山で直接学べたこところですよね。経営の考え方、伝え方、共感の得方…ビジネススキルのルーツがそこにはありました。色々な宗派から色々なことを学ぶのもいいですが、まず源流から学ぶことの意味は凄く大きいです。

それがBBT大学院の凄さだと思うんですよね。

イシダメディカル株式会社の國崎さんは、計量機器メーカーの株式会社イシダに1999年に入社され、2009年~2015年に商品企画を担当されていました。

その時に医療業界への新規参入を起案、BBT大学院の卒業研究を活かして新規事業を立案し、売上を大きく伸ばしました。その後スピンオフし、医療機器事業会社、イシダメディカル株式会社を創設、社内ベンチャー第1号として日々奮闘されています。

そんな國崎さんも、「以前、経営陣とのコミュニケーションにジレンマを抱えていた」と言います。どのような苦悩を感じ、BBT大学院に入学され、現在の活躍をされるようになったのでしょうか?お話を伺いました。

修了生プロフィール

國崎 嘉人(くにさき よしと)さん

2013年4月BBT大学院入学、2015年3月修了。入学時37歳、現在46歳。
2009年より株式会社イシダで商品企画部にて主に赤外線通信方式電子棚札を担当。その後医療業界への新規参入を企画・商品を開発。
BBT大学院の卒業研究で新規事業を起案、大きく売上を伸ばし、現在社内ベンチャーであるイシダメディカル株式会社代表取締役社長を担う。

苦悩の末の異業種参入と経営陣を説得できないジレンマ…BBT大学院法人派遣との出会い

ーーイシダメディカル株式会社の経営を担っておられる國崎社長ですが、BBT大学院で学ばれて、数年間で現在まで躍進されています。これまでの経緯について教えていただけませんか。

2009年ごろから株式会社イシダ(以下、イシダ)で商品企画に携わっていました。なかでも主に担当していたのが、電子棚札という商品でした。スーパーマーケットや家電量販店の店頭の棚に無線で値段表示するデバイスなんですけれども、イシダはシェアが高かったんですね。

イシダは1998年に日本で初めて電子棚札を食品スーパーに導入して2007年ごろまで多くの導入実績を上げたものの、リーマンショック以降、食品小売業の業績が振るわなくなり、私が商品企画担当になった時は電子棚札の冬の時代でした。

一番苦しくて、もがいている時期でした。他の業界で使い道はないのかと考えていたその頃、参加した展示会で薬科機器の大手企業と運良くご縁をいただいて、電子棚札の既存技術を医療業界で転用する可能性に行き着きました。


(提供:イシダメディカル株式会社)

まず最初に製品化したのが、注射薬自動払出装置で払い出される患者さんごとのトレーに電子棚札を取り付け、行先を表示するというアイデアでした。病院では、医師は外来患者向けに錠剤・散薬を処方しますが、入院患者向けには液剤である注射薬を処方します。薬剤部は医師の処方オーダーに合わせて患者さんに必要な薬剤セットを作っていくんです。注射薬自動払出装置はこの作業を、より正確に効率よく作業をするための装置です。

医師が電子カルテに処方をオーダーすると、薬剤部に注射薬自動払出装置にデータが流れ、薬剤をピッキングし、トレーに取り付けられた電子棚札に行先が表示され、運搬された病棟側で返品や変更があった際には「返品」と表示することでで誤投薬等のミスを防ぎます。

スーパーマーケットで商品の値段を表示していた機器が、病院で患者さんの名前や行き先の病棟を案内する。こうして運良く医療業界での転用ができました。

ただ、同時に非常にジレンマ、ストレスを感じていた時代なんです。異業種顧客からお金をいただいての受注では会社は動いてくれるのですが、経験のない業界向けの新製品開発に投資をするという判断を経営陣から引き出すことは難しかったです。わたしも熱意だけはあったんですけども、なかなか説得的な言葉に落とし込めませんでした。

医療業界という世界でなんとかあたらしいものを開発し、風穴を空けたい。どういう風にしていけばいいのか、事業開発とはどうすべきものなのか。悩んでいたときに、当社でBBT大学院への派遣が始まったっていう機会があったんです。一番最初の社員として応募したことが大きなきっかけでした。

ーーBBT大学院で学ばれて、その課題感は解決されたでしょうか。

その後非常にBBT大学院に助けられましたし、役に立ちましたね。今でもそう思っています。


↑國崎さん(左)と、卒業研究担当教員の廣瀬教授(右)。

BBT大学院の卒業研究(※1)で新規事業を起案し、実際にイシダで事業化しました。それが2016年に開発した外来患者案内システムです。


(提供:イシダメディカル株式会社)

総合病院に来た患者さんは、待合室で2~3時間待たないといけないんですね。いつ呼ばれるかわからないので、トイレにもいかずに我慢している患者さんもいます。

この製品はそんな患者さんのストレスを解放することができます。患者さんは病院内のカフェやレストランやコンビニなど好きな場所で過ごすことができ、機器が電子カルテと連携されていて、検査、採血、診療、会計まで呼出受信機が都度案内してくれます。患者さんが家に持って帰れたら、診察日のリマインド・お薬の種類も提示でき、見守り機能にもなる。そんな事業プランを卒業研究で起案しました。

今では病院での呼出システムとして実際に製品化しました。一式それなりの価格がするのですが、今では自治医科大学病院、秋田大学病院、神戸市立医療センター中央市民病院、都立多摩総合医療センター、国立がん研究センターなど、地域の中核病院10病院で導入いただいています。

BBT大学院に行かなかったら、この新規事業につながっていませんし、そもそもマインド、気持ちの面でチャレンジできていませんでした。成功体験を積ませてもらったことに対して、本当に感謝しています。

編集者註
※1「卒業研究」:BBT大学院の卒業研究。およそ1年かけて実務家教員との1on1を通じ、実戦で価値を生む新規事業計画を立案するカリキュラム。

「年間売上100億の事業プラン」を半年で提出。ファクトの集め方、課題への迫り方はRTOCSで学んだ

ーー素晴らしいサクセスストーリーですね…!しかも実際に学びが活きていて、とても印象的です。

いえいえ、かなり強引にやって社内的に無理をさせてしまいました。きっかけとして会社のお金でBBT大学院に派遣してもらったことは卒業後にチャンスをもらえることにつながったと思います。私は修了した2015年の春に社長の石田に呼ばれまして、こう言われました。

「現在の会社を取り巻く環境や自社を分析すると、2つやるべきことがある。1つは海外売上比率を50%以上にすること、もうひとつは、新しい事業の柱を作ることだ。」と。当時、イシダはグローバル展開していたものの海外売上比率は30%くらいでした。日本国内の人口はピークアウトしていますし、市場は縮小の一途をたどります。一方、海外ではアジア、アフリカ地域などまだまだ拡大余地がある。それを50%以上にしたい。

もうひとつは、今後売上を1500億、2000億と上げていくことを考えると食品産業一本足だと足りない。だからもうひとつ事業の柱を作りたい、医療・医薬業界がいいと思っている、だから君にはそちらを任せるから勉強したことを活かせ、と言われたんですね。

「半年後の役員会で、年間100億円の売上が5年で達成できる事業プランをもってこい」、というお題をもらいました。これって、BBT大学院で散々取り組んだRTOCSじゃないですか。

事業プランの立案にあたっては、社内でプロジェクトチームとして5人集めることやシンクタンクに戦略構築支援を依頼するなど、大きな人的、金銭的投資をするということで石田の本気度を強く感じました。その時の5人の一人がBBTの仲間である森井氏です。

それから半年間、製薬会社やいろんなところにインタビューに出かけて、多くの情報を集めて分析し、ディスカッションして「2021年3月期に、自力成長で20億、M&Aで80億」というプランを出したんですね。私は2020年に新会社に転籍したので見届けられませんでしたが、私がいた頃で18.5億、その後20億を達成しています。

立案されたプランの実現のために設立された専門部署「医療・医薬事業企画室」で様々な新製品を手掛けました。その中で、ある病院のニーズを形にした「排尿計測記録システム」という医療機器を企画しました。医療機器になりますと、業許可や製品の許認可などハードルが一気に高まりますが、臆せずに仲間とチャレンジしました。


(提供:イシダメディカル株式会社)

そうしたこれまでの新事業開発へのチャレンジを見ていた社長の石田から、ベンチャー1号として君たちに投資するからあとは自律的にやってほしいと背中を押してくれたことが嬉しかったです。

ーー「半年で100億の事業プランを作れ」ととても難易度の高い課題を課され、しかもすでに20億は達成は凄いですね…。

RTOCS(※2)なんて1週間で戦略立案をしなければいけないじゃないですか。だけど、この件は半年もありましたから(笑)。

特にファクトを集めるということの重要性はRTOCSから学んだ大きな学びのひとつです。事業プランを作る際、本当に多くの企業、製薬会社へ足を運びました。BBT大学院では製薬業界のネットワーキングも強固で、色々話を聞きました。事業計画策定の一環として、事業について教えを請いに、BBT大学院在学中にお世話になった益山さん(※3)にもプロジェクトメンバーの森井さんと共に話を伺いに行きました。


↑益山さんに医薬品業界や医薬品向けビジネスについて教えをいただいた日。

いくら情報収集をしても、集まったファクトが誤ったものだと、導き出す結論や仮説は誤ったものになります。正確な情報を集めることに腐心した半年間でしたね。

人は提案、企画についてOKかNGか判断するとき、それぞれ自分の過去の経験に基づいて判断しますよね。リスクの有無も、その人自身の感覚に紐付いています。だけどそれって、やっぱり間違っていると思っているんです。

過去の経験に基づいて判断するのではなくて、未来はこうなるという予測・仮説に対して、現在起きている事実がこうだからOKかNGか、という判断をしなければいけないじゃないですか。

既存事業の場合には、過去の経験則、社員同士の人間関係、義理人情などがあらゆる判断に関わる要素になってきますが、新規事業をやるときには裏目に出てしまう。だからこそ、正確なファクトを集めることが大事だと思いました。

編集者註
※2「RTOCS(アールトックス)」:「Real Time Online Case Study」の略称で、BBT独自のケースメソッドです。答えの出ていない「現在進行形の企業課題」をケースとして扱い、当該企業に関する調査・分析・戦略考案を自ら実施します。大前研一学長の戦略系科目において、卒業までに2年間毎週1題=合計約100題を繰り返し行います。

※3「益山さん」:2012年にBBT大学院を終了された益山進さん。以下は益山さんのインタビュー記事です。
企業参謀にとってMBAはベーススキル。欧州メーカー執行役員が語る経営の「知る・やる・できる」

役員会は総合格闘技のリング。BBT大学院のMBAは戦う上で必要な「矛と盾」

ーー経験則で判断するのではなく、未来に価値を出せる仮説を立てるためのファクト収集、というのは高度な話ですね。

そうです、そのファクトを並べて、何が言えるかを導き出して、人を説得しなきゃいけないじゃないですか。その手法を学べたのも、BBT大学院でした。

私の感覚でいうと、役員会は総合格闘技のリングなわけですよ。メンバーそれぞれが豊富な実績や仮説を持っています。それに対して自身で集めてきたファクトと仮説で応酬し、「参った」と言わせなければいけません。そのためにはロジカルな説明がないと納得させられないんですね。

BBT大学院では、「ロジカルに考え、伝えるとはどういうことか」を学ばせてもらいました。物事をMECEに考え、時にはフレームワークを駆使して分析し、事の本質に迫っていく。その迫り方を学ばせてもらいました。

ーー役員会はさぞ激しい場だったのだろうとお察しします。

役員会での質疑応答は最初は身構えて、「なんとか論破してやろう」くらいに思っていたんですけども(笑)、さまざまな質疑をもらって気づけなかったことに気づかせてもらいました。非常にレベルアップさせてもらいました。

そんななかでもボードメンバーがなにを見ているかというと、やっぱりこいつが逃げずにやるかどうか、という覚悟を見ているんだなと思うに至りました。本気か、やりきる覚悟があるかどうか。そのためにロジカルな説明を用意し、できる準備をすべてしていくのだという。

BBT大学院に入学したことを振り返ると、「あのとき入学すると決断しておいて本当によかったな」と未だに思うんです。例えるなら素手で裸で戦場に出るか、武器を持ち鎧を着ているかみたいな違いを感じます。

ビジネスの場は、戦場ですし、日々直面するのは戦闘のワンシーンのように思います。だから適切な武器も、防具も持っていないといけません。BBT大学院入学前までは素手で裸一貫で戦っていたようなものでした。いまでは、武器をいくつか持っていて、選べる。全然違うという感覚を持ちました。

戦略ひとつ立てるにも、大きくて真っ白なキャンバスにガイドなしで絵を書くよりも、頭の中で升目を作ると、こういう風に考えればこういう策しかないよねとイメージできます。それがすごく大きかった。

イシダメディカル株式会社の戦略としてアメリカに進出しようと思っています。日本は間違いなく人口縮小していくじゃないですか。大前研一学長もおっしゃっていますが、可能性が一番大きなところで勝負すること。アメリカには医療産業で世界一の市場があります。ポジショニングのとり方、どこでチャレンジするべきかなど人口動向や市場規模だけでなく、様々なファクトを集めて分析して打ち手を決めています。

BBT大学院は比叡山。源流から学べ

ーー最後にMBAを検討中のみなさまにメッセージをお願いできますか。

経営のフレームワークの多くを開発したのは大前研一学長じゃないですか。BBT大学院はそういった意味で比叡山みたいなものなんですよ。MBA、経営の学びも今や色々な宗派が出てきていますよね。私は比叡山が好きで月イチで通っているのですが、浄土宗も浄土真宗も臨済宗も曹洞宗も日蓮宗も、すべての宗派は比叡山から生まれ、別れているんです。

わたしが幸運だったのは、BBT大学院といういわば比叡山で直接学べたこところですよね。経営の考え方、伝え方、共感の得方…ビジネススキルのルーツがそこにはありました。色々な宗派から色々なことを学ぶのもいいですが、まず源流から学ぶことの意味は凄く大きいです。

それがBBT大学院の凄さだと思うんですよね。