執筆:佐藤祐樹(BBT大学院MBA本科修了、三丸化学株式会社 取締役)
対象科目:戦略的人材マネジメント(川上真史 教授)
精神的に落ち込んだ状態のとき、あなたはどう対処しますか?
わたしはまず、徹底的に他人のせいにします。
「お前はなんて下劣な人間なんだ?」と思わないでください。
これは心理学を利用した「認知変容」というレジリエンスの手法です。
レジリエンスとは、落ち込んでしまった状態から素早く立ち直る力を表す医学用語です。
精神的に落ち込んだ状況が良い成果を生むことはほとんどありません。
レジリエンスはビジネスパーソンの必須スキルだと言えるでしょう。
これまでの日本社会では間違った方向性の努力が励行されていました。
「何があっても落ち込まない強い忍耐力を鍛えろ」という、メンタル・タフネス。あるいは、「精神的に落ち込んでも耐え抜く力をつける」という、ストレス耐性論。または、「カラオケで騒ごう!」という、ストレス解消行動。
これらはレジリエンスとは違いますし、ほとんど意味がない努力です。
いくらメンタルを鍛えてタフになっても、落ち込むときはちゃんと落ち込みます。極限の状況に3日間もガマンできるストレス耐性を作り上げても、4日目には病気になってしまいます。カラオケで一時的にスッキリしても、歌っている間に勝手に問題が解決されているわけではありません。
これらはストレス反応に焦点を当てた、意味のない努力です。
レジリエンスを鍛えるには、ストレス反応ではなく、ストレッサー(ストレス反応の原因となる要素)に注目します。
ストレッサーが特定できていれば、コーピング(対処行動)を試みます。
上司がストレッサーなら異動を希望しますし、会社そのものがストレッサーなら退職すればいいだけです。
これらの行動を「行動的レジリエンス」と言います。
行動することによって立ち直ります。
「そう簡単に言うな」と思いますよね。
その通りです。
異動の希望を出したことが新たな軋轢を生みそうな気がしますし、希望が叶うとは限りません。
退職したら収入がなくなって生活できません。そうなった場合、今以上のストレッサーに悩まされることになりそうです。
このように、総合して考えてコーピングできそうにないストレッサーだとわかった場合、どうすればいいのか?
病気になるまで我慢するしかないのか?
そこで必要なのが、「認知的レジリエンス」です。
冒頭、わたしは「徹底的に他人のせいにする」ことで立ち直ると言いました。これは「認知変容」のひとつの手法です。
常識人には、世の中を正確に認知することが求められます。
自分のせいで失敗したことを人のせいにするなんて最低です。
一方で、精神的に追い詰められ、病気寸前だったらどうでしょう?
サッカーでPKを外してしまっても、落ち込んでいる暇はなく、残り時間は前向きに戦わなければなりません。
そんなときは、常識人としての評価より、まずは自分が立ち直ることが最優先です。
徹底的に他人のせいにする「認知変容」は悪いアイデアではありません。
契約が破棄されたのは社長の名刺の渡し方がよくなかったからで、おれのせいじゃない。
PKを外したのは最後までおれが蹴ると言って聞かなかったチームメイトのせいで気が散ったからだ。
徹底的に自分のせいじゃないと信じ込みます。
やっぱり最低のやつだと思いますでしょうか?
次回、「いや、そうではないですよ」という話をします。
佐藤祐樹
BBT大学院MBA本科 修了 三丸化学株式会社 取締役事業部長
1974年生、宮城県仙台市出身。
大学でデザイン(専門はシルクスクリーン)を学んだ後、写真業界、出版社勤務を経て現企業に転職。営業・マーケティング部門で活躍中、2011年3月に出張先で被災。
その後2年間、企業勤めの傍らボランティアセンターの運営に携わる。
2013年にBBT大学院に入学、2015年MBA取得、同年取締役事業部長に就任。事業活動の責任者としてマーケティングから人事まで幅広く担当している。
また、2015年10月に友人とコーヒーの焙煎販売を行う株式会社リュミヌー珈琲を設立。
その他、コピーライターや事業計画作成支援、大学の補助教員などのフリーランス業務も行う。
「世の中の幸福の総量を力強く増やす仕事人」を目指す愛犬家。愛犬を連れてよく遊びにも行く。
趣味は手作りスモークチーズなどの燻製を作ること。