MBAダイジェスト 2019年6月11日

戦略的人材マネジメント1(6)涙の数だけ強くなれるというのは嘘

『MBAダイジェス』シリーズでは、国内初・最大級のオンラインMBAである「BBT大学院」、ならびに2つの国際認証を持つ「BOND-BBT MBAプログラム」の修了生が、両校で学ぶMBA科目のエッセンスをまとめ、わかりやすく紹介していきます。将来的にMBAの取得を検討している方や、MBAの基礎知識をインプットしたい方はご活用ください。


 
執筆:佐藤祐樹(BBT大学院MBA本科修了、三丸化学株式会社 取締役)
対象科目:戦略的人材マネジメント(川上真史 教授)

解決できない問題が原因の精神的トラブルをどう乗り越えるか

精神的に落ち込んだとき、その状態から素早く立ち直る力が求められます。この力をレジリエンスと呼びます。

立ち直るためには、ストレス反応への対処はほとんど意味がありません。ストレスの原因であるストレッサーへのコーピング(対処行動)が重要になります。

しかし、コーピングできないストレッサーはたくさん存在します。

上司を変えてくれという対処は難しいです。サッカーの試合でPKを外してしまったという過去の出来事がストレッサーだった場合、過去の事実を変えるのは不可能です。自分の国籍や身長、性別などがストレッサーだった場合もなかなか厄介です。

そんな時に使える手法が「認知変容」です。

これを使いこなすことで、現状を変えられなくても幸せに生きられる可能性が飛躍的に高まります。

認知変容の3つの方向性

認知変容とは、世界そのものを変えるわけではなく、自分の見え方を変える、というものです。
ようは「ゴマカシ」のようなものか、と思うかもしれません。

でも、今、あなたに見えている世界は、正確に認知されたものだ、という自信がありますか?

人間の認知力なんて儚いものです。

認知を変容するだけで幸せに生きられるなら、それをしない手はありません。

そう思いませんか?

認知変容には3つの方向性があります。

どれも全く違うベクトルなので、全て同時に取り組むことができます。

<ネガティブな自動思考をストップさせる>
解決できないストレッサーがあると、それによる悲観的展望を認知し、ネガティブな結論に帰結する、という思考パターンが一般的です。誰しもが持っているこの思考パターン(自動思考と呼びます)を、意識して完全に封印します。

コントロールできないことをコントロールしようとしたり、それに対してウジウジと悩んだりするのは、意味のない行動であるばかりか、危険です。投下する資源に対する見返りがゼロなので費用対効果がありませんし、ネガティブな自動思考(マインドセットのようなもの)が定着してしまうからです。

そして、「だからこの先、自分はどうするべきか?」という点だけに集中します。コントロール可能なものだけに、あなたの時間や体力、思考力といった資源を投下するのです。

<あえて認知を歪ませてポジティブ側面だけを見る>
徹底的に他人のせいにするというのはこの手法のひとつです。まずは自分が立ち直ることが最優先ですから、現状を正確に認知しようとして、自分に追い打ちをかけることを一切やめます。

自分は悪くない、と認知を歪ませるのは基本です。

さらに踏み込んで、他人のせいにするというところまで行うと効果的です。

この手法は2つの注意点があります。

ひとつは、あなたがひとりで行う場合、それを周囲に気付かれないようにすること。一時的であれ、認知変容を行っていることがバレてしまうと、今後の人間関係に悪影響が出ます。

もうひとつは立ち直ったあとです。歪ませてしまった認知を正しく矯正し、ネガティブな側面への対処を検討することが求められます。立ち直った後であれば、冷静に対処行動を考えられるはずです。この手続を怠ると、なんでも他人のせいにするというマインドセットが固定化されてしまうので注意が必要です。本当に「最低の人間」になってしまっては、幸せに生きることが困難になります。

この手法は、複数名でブレストするという方法も有効です。

仲間と一緒に、「でも、わたしたちはやっぱり幸せだよね」「われわれがまだ最悪な状況ではない証拠に…」などと話し合うことで、ポジティブな側面に注目して前向きになります。宗教の勧誘などで行われる一般的な手法ですね。

<絶対的に自分を受け入れてくれる存在をつくって大事にする>
外的な要因のみで関係ができている人はいざというとき頼りになりません。どんなことをやらかしても、自分という存在をそのまま肯定してくれる存在は最強の味方です。何があっても受け入れてくれる存在を日頃から多く作ることが重要です。

できれば、家族などの近親者であることが望ましいと言われています。家族を大事にしましょうということです。

幸せに生きるには自尊心が大事

多くの研究では、レジリエンスは自尊感情との強い相関が報告されています。一方で、ネガティブ・ライフイベント(恋人との別れや挫折経験など)の経験数とは相関を持たないこともわかってきました。

ようは、涙の数だけ強くなれるよ、というのは嘘だということです。

負けないこと、投げ出さないこと、逃げ出さないこと、信じ抜くことで自尊心が育まれます。ダメになりそうなときは、それがいちばん大事だということです。

佐藤祐樹

BBT大学院MBA本科 修了 三丸化学株式会社 取締役事業部長
1974年生、宮城県仙台市出身。
大学でデザイン(専門はシルクスクリーン)を学んだ後、写真業界、出版社勤務を経て現企業に転職。営業・マーケティング部門で活躍中、2011年3月に出張先で被災。
その後2年間、企業勤めの傍らボランティアセンターの運営に携わる。
2013年にBBT大学院に入学、2015年MBA取得、同年取締役事業部長に就任。事業活動の責任者としてマーケティングから人事まで幅広く担当している。
また、2015年10月に友人とコーヒーの焙煎販売を行う株式会社リュミヌー珈琲を設立。
その他、コピーライターや事業計画作成支援、大学の補助教員などのフリーランス業務も行う。
「世の中の幸福の総量を力強く増やす仕事人」を目指す愛犬家。愛犬を連れてよく遊びにも行く。
趣味は手作りスモークチーズなどの燻製を作ること。

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