MBAダイジェスト 2019年8月29日

サプライチェーン経営論(7)サプライ継続計画を考える6つの視点

『MBAダイジェス』シリーズでは、国内初・最大級のオンラインMBAである「BBT大学院」、ならびに2つの国際認証を持つ「BOND-BBT MBAプログラム」の修了生が、両校で学ぶMBA科目のエッセンスをまとめ、わかりやすく紹介していきます。将来的にMBAの取得を検討している方や、MBAの基礎知識をインプットしたい方はご活用ください。



執筆:村上昌也(BBT大学院MBA本科修了)
対象科目:サプライチェーン経営論(上原 修 ビジネス・ブレークスルー大学大学院 客員教授、米サプライマネジメント協会(ISM)日本代表理事)

サプライチェーンの寸断への対処は喫緊の課題

前回は、企業の社会的責任(CSR)の側面から調達の理解を深めてきました。今回は、CSRと並び重要なサプライ継続計画(SCP)について、理解を深めていきましょう。

SCPは文字通り、サプライチェーンの寸断にどう対処するか、その計画を示したものです。

よく似た言葉でBCP(事業継続計画)がありますが、BCPは、競争優位と価値体系の完全性を維持し、組織が内外の脅威にさらされる事態を識別し、防止策と組織回復策を提供するために経営資産を統合する計画の事です。BCPを下から支えるのがSCPです。

SCPを考える上で重要な6つの視点があります。

6つの視点を見ていく前に、その根幹となるリスクマネジメントの考え方から見ていきましょう。

リスクマネジメントとは?

リスクマネジメント(リスク管理)とは、危機発生時の損失を極小化するための経営管理手法です。

経営の安定化を図りつつ、企業・組織として存続・発展していく上で障壁となりうるものをリスクとして把握します。そのリスクが及ぼす影響を正確に把握し、事前に経済的、かつ、合理的な対策を講じることで、危機発生を回避すると共に、危機発生時の損失を極小化します。

一方、企業経営や事業活動、企業イメージに重大な損失をもたらす、また社会一般に重大な影響を及ぼすと予想される事態を「危機」と考えます。万が一、危機が発生した場合に損失を最小化するための活動が、クライシスマネジメント(危機管理)です。

経営管理手法のリスクマネジメントとクライシスマネジメントを含む、「予防・訓練」、「初期対応」、「復旧」の3つの活動を広義のリスクマネジメントと、講義では定義しています。

日本の自然災害リスクは先進国で際立って高い

国連大学が世界171カ国を対象に自然災害の可能性や対処能力を評価した「世界リスク報告書2016年版」によると、日本は総合順位で17位でした。

先進国では米国が127位、カナダが145位、英国は131位、フランスが152位となっており、日本の自然災害リスクの高さが際立っています。熊本地震や東日本大震災では、多くの製造業や部品メーカーが被災したため、当然入ってくるべき原材料や部材が急停止し、サプライチェーンの寸断が発生しました。

それでは、自然災害におけるSCPをどのように考えていけば良いのでしょうか。重要な6つの視点を見ていきましょう。

自然災害におけるSCPを考える上での6つの視点

《1.サプライヤー》
現行サプライヤーの地域分散と仕入れリスクを再検討するため、主要な調達部品に関して以下のポイントをチェックします。

(1) リスク分散のための複数購買を実施しているかどうか
(2) リスク分散のための分散購買を実施しているかどうか
(3) サプライヤーの仕入れ先を把握しているかどうか

特に(3)は注意が必要です。

部品を複数の部品メーカーA社、B社、C社から購入していたとしても、その先の高機能部材メーカーが同一企業のX社であった場合、複数購買の意味がありません。サプライヤーの仕入れ先まできちんと把握した上で、リスク分散できているかどうかを確認します。

《2.代替品・標準化》
代替品を確保しているかどうか、部品の標準化を経営戦略に入れているかどうか、同一業界内で仕様や規格を統一・共通化できているかどうかを検討します。

《3.内製化》
内外策の意志決定プロセスを企業の基本的な経営戦略としているかどうかを検討します。内製化に取り組むテーマとして、社内製造、関連会社製造、地域内共同出資会社による内製があります。

《4.物流》
一部の業種で、業務の効率化や環境対応、コスト削減を超えた同一地域内で物流共同化を検討します。

《5.在庫》
これまで、日本では、在庫=罪子と考えられ、必要以上に在庫を適視する傾向が顕著でした。しかし、災害が頻発し色々なリスクが顕著になってくると、在庫が大事であり、災害に備えるために在庫を持つという考え方にシフトしてきています。

サプライヤーの在庫や自社の在庫はもちろんですが、同一コンビナートや同一地域・業界内共同で一箇所に在庫を集めて保管する共同在庫の動きも見られています。

《6.レジリエンス》
サプライチェーン構造への生産復旧支援、地域内資材融通体制を検討します。危機に迅速に対応し復旧できるかどうかは、普段からの地味な訓練や教育が欠かせません。そのために柔軟なリソースを投入し、サプライチェーンのステークホルダー全体を掌握する事が重要なポイントとなります。

これまで見てきたように、サプライチェーンの寸断に対処するためには、事前の計画・準備が欠かせません。そのために6つの視点を持ち、対策を考え準備しておく事が大切です。

村上 昌也

BBT大学院本科 修了生。
1975年生、和歌山県東牟婁郡出身。
高校卒業後、IT業界でキャリアをスタート。
コンサルティング会社勤務時代、開発プロジェクトのテクニカルリーダーを務め、顧客企業の業績向上に寄与。
その後、複数の企業に勤務し、企業向けシステムの企画・開発・導入支援、自社のIT企画等、様々な立場から企業の課題解決に関わる。
2013年にBBT大学院に入学、2015年MBA取得。
MBA取得後に転職し、事業部長として事業活動推進のみならず、中堅・若手の育成にも情熱を持って取り組んでいる。
趣味はキーボード・ピアノ演奏。ロックバンドコンテストでの受賞歴を持つ。最近はジャズピアノに傾倒し、休日は仲間とセッションを楽しむ。


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