MBAダイジェスト 2019年9月5日

サプライチェーン経営論(8)IoTがもたらす購買調達改革

『MBAダイジェス』シリーズでは、国内初・最大級のオンラインMBAである「BBT大学院」、ならびに2つの国際認証を持つ「BOND-BBT MBAプログラム」の修了生が、両校で学ぶMBA科目のエッセンスをまとめ、わかりやすく紹介していきます。将来的にMBAの取得を検討している方や、MBAの基礎知識をインプットしたい方はご活用ください。



執筆:村上昌也(BBT大学院MBA本科修了)
対象科目:サプライチェーン経営論(上原 修 ビジネス・ブレークスルー大学大学院 客員教授、米サプライマネジメント協会(ISM)日本代表理事)

IoT時代に求められる価値転換

前回までは、これまでのサプライチェーン経営論についてお伝えしてきました。最終回の今回は、未来に目を向けて、第4次産業革命がもたらすインパクトをお伝えします。

今後、ブレークスルーが期待される技術として、IoT、ビッグデータ、人工知能(AI)、ロボット等があります。これらの技術のブレークスルーにより様々な変革が期待されています。もちろん、サプライチェーンも例外ではありません。

IoTにより様々な情報が目に見えるデジタルデータとなります。

実世界の様々なデータをデジタル化して活用できるようにするデジタイゼーション(Digitization)が進むと、その活用を元に、ビジネスモデルを変換して新たな利益や価値を生み出すデジタライゼーション(Digitalization)も進みます。

IoT時代には、デジタイゼーションとデジタライゼーションが重要な役割を果たします。

言い換えると、情報をデジタルデータとして収集して分析を行い、そこから高付加価値を生み出すような対処ができるかどうかが重要です。

デジタル技術はサプライチェーンを組織化し管理する方法を変えつつある

それでは、デジタライゼーションが進むと、サプライチェーンにどのようなインパクトをもたらすのでしょうか?

サプライチェーンマネジメントは、企業の枠組みを超え、調達から販売までの事業者がつながって供給の全体最適を目指しますが、デジタライゼーションが進むと、サプライチェーンの全体最適がより自然な形で実現できるようになります。

あらゆる情報がデジタルで共有され、予測機能や可視化機能、人工知能を活用する事で、データを軸とした最適化が実現できます。その結果、サプライチェーンの透明性や意思伝達の精度が高まります。また、様々なリスクも低減できます。

リスク低減の例として、英国競争・市場庁が、英国のデータ分析会社と組んで開発した「談合発見ツール」があります。これまで人が経験に基づいて談合の発見をしていましたが、「談合発見ツール」は、ビッグデータを元に、独自のアルゴリズムで異常な入札額や示し合わせが疑われる入札順位などを発見します。

具体的には、市場の寡占度合いや企業の利益率などからカルテルや談合が起きやすい産業かどうか調べます。その上で、個別分野に焦点を絞り、製品の価格動向や供給量の変化、シェアの変化、これまでの入札履歴や入札金額などからカルテルの兆候がないかを調べます。これらのツールを入札の参加者に無償で提供し、悪意のない参加者が談合に巻き込まれるリスクを減らしています。

サプライチェーンのリスク管理は購買企業側を悩ませる問題ですが、直接のサプライヤーのみならず、2段階先、3段階先のサプライヤーまでは見えないため、社会的責任行動の枠内で多くの課題が出てきています。違法な企業をサプライチェーンに紛れ込まさないよう、継続的にチェックする「談合発見ツール」のような取り組みが必要となります。

このように、ビッグデータを活用した取り組みは、自社のサプライチェーンを組織化し管理する方法を変えつつあります。

デジタル技術の活用で購買機能はビジネスの収益性へ重大で意義ある貢献ができる

大手調査会社が最高購買責任者(CPO)に対して行ったアンケート結果によると、回答者の75%がデジタル活用を通じて、調達部門の役割が拡大すると考えています。また、経営幹部の90%がデジタル技術によって自社の業界に波乱がもたらされると予測しています。

デジタル技術は業界に波乱をもたらしますが、活用方法によっては、競合との間に重大な優位性を築くことができます。そのために、デジタルデータを分析し、そこから高付加価値を生み出す取り組みが必要です。

その取り組みの結果、従来の伝統的なサプライチェーンではなく、統合されたデジタルサプライチェーンの構築ができれば、情報の連続性を基に自律的でリアルタイムな意志決定が可能になります。

また、購買された資材とサービスのイノベーションや新興企業の最終製品の改善への貢献、原価と納期の削減、顧客サービス改善のために、デジタル技術を活用してサプライプロセスを改善していくことも可能となります。

デジタル技術の活用で、今後、購買機能は、売上増大とビジネスの収益性への重大で意義のある貢献をしていくことでしょう。

村上 昌也

BBT大学院本科 修了生。
1975年生、和歌山県東牟婁郡出身。
高校卒業後、IT業界でキャリアをスタート。
コンサルティング会社勤務時代、開発プロジェクトのテクニカルリーダーを務め、顧客企業の業績向上に寄与。
その後、複数の企業に勤務し、企業向けシステムの企画・開発・導入支援、自社のIT企画等、様々な立場から企業の課題解決に関わる。
2013年にBBT大学院に入学、2015年MBA取得。
MBA取得後に転職し、事業部長として事業活動推進のみならず、中堅・若手の育成にも情熱を持って取り組んでいる。
趣味はキーボード・ピアノ演奏。ロックバンドコンテストでの受賞歴を持つ。最近はジャズピアノに傾倒し、休日は仲間とセッションを楽しむ。

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