BBTインサイト 2019年10月30日

50代からの学び方・稼ぎ方<第1回>生涯にわたって活躍するための基本戦略とは?



講師:野田 稔(明治大学大学院 グローバル・ビジネス研究科教授)

人類史上例を見ないほどの高齢化が進む日本。低経済成長が続き、国の豊かさにも陰りが出てくる一方で、平均寿命は延び、パラダイムシフトが起きることは確実です。労働60年時代とも言われる今、少なくとも50代からシフトチェンジをして、75歳まで楽しく働けるキャリア自立が求められています。

では、50代からどのように学び、稼いでいけばいいのでしょうか?生涯にわたって活躍するための基本戦略をご紹介します。

1.すでにわかっている未来を前提に基本戦略を立てる

なぜ今、50代からの学び方、稼ぎ方を考えなければいけないのでしょうか?今まで50代、60代は引退の時期で、そこから先の人生は余生と捉えられていました。しかし、寿命がどんどん延びる中で、50代以降が余生だなんてとても言えない時代になりました。このような大きな環境変化の中で、50代でもう一度これからの人生を考えてシフトチェンジをしなければならなくなったのです。

生涯にわたって活躍するための基本戦略を立てるためにはまず、環境変化を考えなくてはいけません。今は、環境が大きく変わろうとしている大変な時代です。それだけではなく、いつからいつまでに、どの方向に何が変わるのかがわからない時代でもあります。

しかし、すでにわかっている未来もあります。例えば人口の大減少。どのくらい減るかというと、ピークの2008年に1憶2808万人だったのが、すでに1憶2500万人くらいにまで減っています。そして1憶人を割り込むのが2046年。日本は社会構造を変えなくてはならないくらいの超人口減少期になるのです。しかも、総人口、労働力人口は減りながら、高齢者人口は増えていきます。

このような環境の中で我々は、50代を迎えるということを頭の中に入れておいてください。

2番目のすでにわかっている未来についてお話します。皆さんの中でも、日本は金持ちというイメージがあるのではないでしょうか?実際に、日本のGDPは世界第3位をキープしています。国全体としての稼ぐ力はあると言いたいところですが、1人当たりのGDP、つまり国民1人当たりの稼ぐ力を国際比較すると、何位くらいになると思いますか?

実は、2010年で日本は20位にまで下がっています。これが2030年に、楽観的なシナリオなら17位にまで躍進し、悲観的なシナリオなら28位まで下がると言われています。この時には、国全体のGDPも9位にまで後退すると想定されています。

つまり2番目のすでにわかっている未来として、日本はいっぱいお金を持っていて、それにぶら下がっていれば何とかなるというシナリオは絶対にないということを押さえておきましょう。

そんな中ですでにわかっている未来がもう1つ、寿命が延びるということがあります。どのくらい延びているかを数字で押さえておきましょう。1950年に男性の平均寿命は58歳でしたが、今男性の平均寿命は22歳延びて80歳。2050年には83歳まで延びると考えられています。一方で平均寿命が延びた割に、定年はせいぜい5年から10年くらいしか延びていないわけです。定年後の人生は明らかに長くなっています。

まとめると、すでにわかっている未来としてこの国では人類史上例を見ないほどの人口減少と高齢化が進んでいます。さらに日本という国は、経済的に余裕を失っています。一方で、我々はまだまだ長く生きていきます。これらのすでにわかっている未来を前提に、いかにして幸せに生き抜くかということを真剣に考える時がきたのです。

2.シニア以降にこそ求められるキャリア自立

このような変化の中で、シニア以降にこそキャリア自立は求められます。逆に言うとそれだけ自由度があるということであり、自分次第で未来に明るい夢を作れるということでもあります。

よく終身雇用と言いますが、終身雇用は自分で創るものです。例えば大企業の部長クラスで、年収を1000万くらいもらっているとしましょう。これがずっともらえるかというとそうではなく、55歳くらいで役職定年になります。役職定年になると、年収は良くて7がけ、多くが半分くらいになります。そして定年を迎え、再雇用になった瞬間にまた年収が大幅に下がります。300万もらえればいい方です。この場合、55歳から65歳までの合計年収は、5000万くらいになります。下のグラフの四角の部分です。

一方で、転職して地方の企業に行ったとします。年収は600万くらいになりますが、人手が足りないので、優秀だったらずっと働けます。そうすると70歳までの合計年収は9000万になります。これこそが自分で創る終身雇用です。人生設計を自分で作る、自分で考えるということです。

さらにお金の話をすると、65歳で引退して年金と貯蓄だけで暮らす場合、月に最低限必要な生活費の平均は22万3000円で、ゆとりある生活費の平均は月36万6000円だと言われています。年金だけでは赤字になり、預貯金、退職金から切り崩していかなければいけません。だから、退職時に3000万円くらい持っていないと駄目という話になりますが、寿命が延びているのでもっと必要になるでしょう。ではどうしたらいいかと言うと、預貯金を切り崩し始める時期を後ろにずらせばいいのです。例えば65歳ではなく75歳まで頑張って働くということになったら、余裕のある生活が送れるはずです。

カリフォルニア大学のロバート・エモンズ教授によると、幸福な人生に必要なものは4つあり、第1は「仕事」です。そして、「目先の利益を超えた理想」、「高い目的意識」があり、4番目が「社会との繋がっている実感」です。これからは、男性も女性も含めて75歳まで楽しく働けるよう、自分のキャリアを考えていくことが基本になります。

3.自分の手でこれからの人生をデザインしよう

それでは、今何を始めればいいのでしょうか。第一歩は、自分のキャリアに対してリーダーシップを発揮することです。自分の手でこれからの人生をデザインしましょう。

戦略ですから、当然戦略ビジョンも経営資源も制約条件も必要です。まずやることは、自分は何ができるのか(CAN)を棚卸しすることです。自分は何がしたいのか(WILL)は最後でいいです。そして、自分のなすべきことは何か(MUST)。これは過大に考えているので縮小しましょう。

基本戦略としてCANから考えていくわけですが、だいたいの方は小さめに見積もっているので拡大します。なぜWILLを後回しにするかと言うと、何がやりたいかとリタイア直前の人に聞いて最も多く出てくるものは、世界1周クルーズです。それは仕事ではありません。しかも、本当にそれがやりたいことなのかどうかもわかりません。

次に出てくるのがボランティアです。これもやったことがないから、ボランティアがどんなにしんどいかわかっていないのです。そうではなく、もっと地に足を着けて堅実に10万、15万をしっかり稼げるようなこと。それがWILLです。しかし、なかなか簡単に見つからないので後回しにするのです。

CAN拡大、WILL後回し、MUST縮小。これが基本戦略です。

よく、WILLとMUSTとCANの重なったところを増やそうと言われますが、WILはなかなか見つかりません。一方でMUSTは肥大化していきます。一番大きいMUSTは「これだけ稼がなければいけない」「今の収入と同じくらい稼がなければいけない」という呪縛です。そしてCANが小さめになり、頭の中は下記のようになっています。

大きすぎるMUSTは縮小する必要があります。年齢を重ねるとあまりお金を使わなくなるので、経済的なMUSTは縮小できる可能性があります。そうすると、今の年収と同じくらい稼げるような仕事でなければ駄目だという呪縛は解けるでしょう。

そしてCAN。この枠をどうやって外すかということが鍵になります。MUSTを縮小して同時にCANを拡大し、可能性の幅を広げましょう。その上で、私は何がやりたいのだろうかとWILLを考えるのです。

ぜひ前向きに明るく基本戦略を考えていただきたいと思います。

※この記事は、ビジネス・ブレークスルーのコンテンツライブラリ「AirSearch」において、2019年4月8日に配信された『50代からの学び方・稼ぎ方 01』を編集したものです。



講師:野田 稔(のだ みのる)
明治大学大学院グローバル・ビジネス研究科教授/一般社団法人社会人材学舎 塾長。
1981年、野村総合研究所入社。同社にて組織人事分野を中心に多数のプロジェクトマネージャーを勤め、経営コンサルティング一部長を経て、現職。2013年に一般社団法人社会人材学舎を設立、日本のミドルの能力発揮支援に取り組む。

  • <著書>
  • 『組織論再入門』(ダイヤモンド社)
  • 『中堅崩壊』(ダイヤモンド社)
  • 『二流を超一流に変える「心」の燃やし方』(フォレスト出版)など