BBTインサイト 2019年4月2日

ホントにやさしい統計教室(2)単相関係数について学ぶ「練習するほど腕立て伏せの回数は増えるといえるかを教えて」



執筆:菅民郎(BBT大学大学院教授、株式会社アイスタット代表取締役)

第2話は雪乃が入社してから半年、だいぶいろいろなことがわかってきて、所長のアシスタントとしてやっていけそうと思い始めたころのお話しである。

雪乃の学生時代の友人美咲は小学校の先生をしている。久しぶりに会って食事をしたときに頼まれた相談ごとがあった。

美咲:「私は6年生を受け持っているのだけど、最近の生徒は非力だと思う。懸垂や腕立て伏せができない子、けっこういるの。練習すれば鍛えられることを教えてあげたいと思て、ご両親の了解を得て、実験したの。」

雪乃:「美咲はすごくいい先生だね。生徒に人気あるでしょう。」

美咲:「それほどでもないけど。とても毎日が楽しいよ。」

雪乃:(私は毎日厳しい所長に見張られているのよ・・うらやましいわ)

美咲:「現在腕立て伏せが10回ぐらいできる子を選んだの。その子たちに、家で毎日腕立て伏せ50回を、朝でも夜でも時間を空けてよいから、10日間練習するようにお願いしたの。」

雪乃:「いまどき、ちゃんと、毎日練習する子いるの?」

美咲:「10日の間で、毎日した子はいなかったけれど、多い子で9日、少ない子で4日練習してくれたわ。」

雪乃:「私たちの子供の時と比べるとえらいわね。」美咲:「そうかも。そして、10日間の練習が終わった時点で、腕立て伏せの回数を測定した結果がこの表よ。この測定結果から、【練習する日数が多い子ほど腕立て伏せの回数は多くなる】ということを言ってもいいかを教えて。」

雪乃は美咲から料金をもらえないので、自宅で所長に相談せず分析をした。一週間後、所長の了解を得て事務所で、雪乃は美咲に分析結果を説明した。

雪乃:「これは私がExcelで作成した散布図よ。」

美咲:「これ、なーに。どう見るの。」

雪乃:「図の中のA~Jは生徒の名前。図の縦軸は腕立て伏せ回数の目盛り、横軸は練習日数の目盛だよ。」

美咲:「図から、例えばEの生徒は練習日数が4日、腕立て伏せ回数が9回ということがわかるわね。」

雪乃:「そう、図を見ると、Eは練習日数が少なく腕立て伏せ回数が少ない子、Dは練習日数が多く腕立て伏せ回数が多い子であることがわかるでしょ。」

美咲:「あら、Bは練習日数が8日と多いのに腕立て伏せ回数は9回と少ないわ。可哀そう。原因を調べないと。」

雪乃:「まー、とても大事なことだと思うけど、美咲が知りたいのは、練習すれば腕立て伏せ回数が増えるかどうかでしょう。」

美咲:「そうそう」

雪乃:「Bのような生徒もいるけど、ざっくりみると、練習日数が多い生徒ほど腕立て伏せの回数が多くなる傾向がみられるでしょ。図表2.3をみて。傾向が分かるでしょう。」

美咲:「分かるわ。」

雪乃:「さらに、2つの事柄の関係を調べるのに、単相関係数というものがあるの。」

美咲:「えっ、なに、それ?」

雪乃:「単相関係数とは2つの事柄の関係の強さを示す値で、0から1の間にあるの。単相関係数が1の時に相関関係が最もあり、0の時に相関関係が全くないの。練習日数と腕立て伏せの単相関係数を求めると0.55だったわ。この値は0.5以上だと相関関係があると考え、練習日数が多ければ腕立て伏せ回数が多くなると言えるのよ。」

美咲:「ありがとう。自信を持って生徒に練習を薦めるわ。雪乃って、すごい。相関係数の出し方、私でもわかるかしら。簡単なら教えてくれる?」

雪乃:「実は、Excelで計算したので、どのように計算するのか上手く説明する自信がないわ。所長がいるから説明してもらおう。」

美咲:「所長に説明してもらうなんて、緊張するし、謝礼費なんて払えないよ。」

雪乃:「大丈夫、所長って美人に弱いから。」

そして、雪乃は美咲を所長に紹介した。

雪乃:「私の友人、美咲を紹介します。単相関係数の求め方を、肩たたき5分のサービスでお願いします。」

所長:(しぶい声で)「予力測太郎です。よろしく。君は雪乃と違ってずいぶんおしとやかなお嬢さんだね。」

雪乃:(ふん、どうせわたしはガキンチョですよ)

所長:「雪乃が説明できないんじゃ、しょうがないな。それでは不肖の弟子に替わって説明しよう。」

二人:(声をそろえて)「お願いしまーす。」

所長:「では、計算方法を説明する前に雪乃が説明した単相関係数について補足しよう。まず、雪乃の描いた散布図の中に、腕立て伏せ回数の平均値を横線で、練習日数の平均値を縦線で描き加えてみなさい。」

雪乃:「腕立て伏せ回数の平均は13回、練習日数の平均は7日です。線を描きました。これでよいですか?」

所長:「OK。平均線で分けられた4つの領域を、Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳとしよう。練習日数と腕立て伏せ回数が無関係であるならば、点は4つの領域のⅠからⅣに均等にばらついて存在するはずだよね。」

雪乃:「いわれれば、そうですね。」

所長:「練習日数と腕立て伏せ回数の間に関係がある、すなわち練習日数が増加すると腕立て伏せ回数も増加する傾向がある場合は、点はどのように散らばるかな。」

雪乃:「点はⅠとⅢに多く、ⅡとⅣに少なくなります。」

所長:「雪乃が作った散布図では、領域ⅠとⅢに点が多く、Ⅱにひとつしか存在しないので、練習日数と腕立て伏せ回数とは関係が強いと推察することができる。統計学ではこの関係を相関関係という。相関関係の強さを示すのが単相関係数だ。」

所長:「それでは手計算による相関係数の求め方を示そう。まずは、点が縦線より右にあるか左にあるかを調べることだ。縦線は練習日数の平均だということを忘れちゃいけないよ。」

雪乃:「練習日数のデータから練習日数の平均を引けばいいんですか?」

所長:「そうだ、引いた値がプラスなら右、マイナスなら左だろ。」

雪乃:「ちょっと待ってください。計算してみます。」

雪乃:「Aの差は0、ということは平均線の上にあるということね。」

所長:「美咲さん、同じようにして、腕立て伏せ回数が横線より上にあるか下にあるかを調べてください。」

雪乃:「できました。」

所長:「いいですね。」

雪乃:(なによ、返す言葉が私と全くちがうわ、ぷんぷん)

所長:「二人が求めた値を掛け算してみて。値がプラスの点はⅠかⅢに位置しているだろう。

雪乃:「アラマー、不思議」(ちょっと感動)

所長:「値がマイナスの点はどこにあるかな。」

美咲:「Ⅱです。」

所長:「そうだね。そして値が0の点は線上にあるね。

所長:「掛け算した値を合計するといくつかな。」

雪乃:「23です。」

所長:「ここで問題だ。もし点がⅠ,Ⅱ、Ⅲ、Ⅳにばらついていたとしたら、合計はどのような値になるかな?」

雪乃:「ⅠとⅢに位置する点はプラス、ⅢとⅣに位置する点はマイナスだから、Ⅰ,Ⅱ、Ⅲ、Ⅳにばらついていたとすれば、プラスもマイナスもあり、合計は0に近い値になると思います。」

所長:「そうだね。全ての点がⅠとⅢだけにあれば全てプラスなので合計は大きくなる。ということは、この合計が相関関係の強さを表しているんだ。」

美咲:「今回のケースは合計が23だから、相関係数は23というんですか?」

所長:「美咲さん、単相関係数の最大は1なので、もう一つ計算を加えるんだ。さっきお二人が求めた「平均との差」を2乗する。」

美咲:「2乗って?」

雪乃:「例えば4なら、4×4とすることよ。-4なら-4×-4でこれは16となるわ。0(ゼロ)の2乗は0(ゼロ)だよ。」

美咲:「OK了解」

所長:「そして、2乗された値を合計する。」

雪乃:「練習日数の合計は26、腕立て伏せ回数は68となりました。」

所長:「2つを掛け算してみてごらん。」

雪乃:「26×68で1768です。」

所長:「1768のルートの値はいくつ?」

美咲:(小声で、雪乃、ルートって何)

雪乃:「2乗の反対よ。例えば16であれば、ルートの値は4。2回かけて16になる数なの。」

美咲:「おもいだしたわ。だけど1768のルートはどうするの。」

雪乃:「電卓にルートボタンがあるでしょ。ほらここに。」

美咲:「あらほんと。1768とたたいてルートのボタンを押すと42.05となったわ。」

所長:「お二人さん。もういいかい。」

二人:(雪乃、美咲、二人そろって)「はいどうぞ。」

所長:「先ほど求めた相関の強さを表す23をこの42.05で割った値が単相関係数なんだ。」

雪乃:「23÷42.05を計算すると0.55です。」

所長:「わかったかい。」

雪乃:「相関の強さを表す23までのことは理解できたんですけど、最後のところがわかりません。なぜ42.05で割るんですか。」

所長:「ピアソンというイギリスの学者が、相関関係が最も強いデータで今行った最後の計算を加えると、単相関係数が1になることを発見というか、考えだしたのだよ。時間があったら図表2.10のデータで、今勉強した手順で計算してごらん。単相関係数は1になるよ。」

雪乃:「はい、わかりました。」

所長:「最後に大切なことを言っておこう。ちょっと信じられないと思うけど、単相関係数が0以外の値、0.1でも0.2でも弱いながら相関関係がある。大事なのはいくつ以上なら明確に相関関係があると言えるかだ。しかしながら統計学では相関係数がいくつ以上あればよいといった基準はないんだ。」

雪乃:「そうなんですか。」

所長:「そこで、私は経験的に次の表の基準で判断しているんだ。」

雪乃:「私が最初に行ったこと、【練習日数と腕立て伏せ回数の相関係数は0.55なので、相関関係がみられ、練習すれば腕立て伏せの回数は多くなるという結論】が間違っていなかったので安心したわ。」

* * *

その日は、雪乃と美咲は居酒屋でもりあがった。

美咲:「雪乃って幸せだわ。所長から、いつも今日みたいに丁寧に教えてもらって。」

雪乃:「とんでもないわ。いつもはぶっきらぼうなの。今日は美咲がいたから特別よ。これからたっぷり所長の悪口いうから聞いてね。」

菅 民郎

ビジネス・ブレークスルー大学大学院 教授。1966年東京理科大学理学部応用数学科卒業、2009年3月中央大学理工学研究科で理学博士取得。2011年6月市場調査・統計解析・予測分析・コンサルティング・セミナー・ソフト販売を行う会社として、株式会社アイスタットを設立。現在アイスタット代表取締役社長、株式会社ケアネット顧問。