BBTインサイト 2019年4月3日

ホントにやさしい統計教室(3-1)前編:CS分析について学ぶ「美容院の店舗や従業員で改善すべき点はどこか教えて」



執筆:菅民郎(BBT大学大学院教授、株式会社アイスタット代表取締役)

第3話はアンケート調査がテーマである。美容院経営者から、店舗の改善点の調査を依頼される。

雪乃:「所長いまどこにいるんですか。お客様がお待ちになっていますよ。」

所長:「約束した時間までには事務所にもどる。早く来られたのはお客さんの方だ。こっちには責任がない。」

雪乃:「そんなこといっていいんですか。すごい美人ですよ。」

所長・予力は急に走りだし、予力統計探偵事務所には約束の時間より5分前に着いた。統計事務所の一角に年代物の大きな木の衝立(ついたて)がたっており、その向こうには狭い事務所を塞(ふさ)ぐようにソファとテーブルの四点応接セットが置かれている。

そのソファに座っている女性は所長を見ると、長いつけ睫毛(まつげ)を瞬かせ優雅な身のこなしで立ち上がった。丹念にメークアップされた顔はエキゾチックな美しさをたたえ、所長を見据えた。

依頼人:「はじめまして。明星小百合です。」

所長:(名前も姿も映画スターみたいだなと思いつつ)「予力測太郎です。どなたのご紹介でしょうか?」

明星:「予力様の奥様と親しくさせていただいており、あなた様のご活躍はお聞きしておりました。一度お目にかかって私の悩みごとを聞いていただきたいと思いまして。」

所長:「ホー、家内のご友人ですか。それは失礼しました。」

明星:「大学時代に知り合ったのですが、奥様とつるんでヤンチャしてましたのよ。奥様にきいておりませんか。」

所長:「全くきいておりません。明星さんからお二人のヤンチャブリをお聞きしたいですな。まー、今日は明星さんの悩みをお聞かせください。」

明星:「私、美容院を経営しています。」

明星:「オープンしてから5年経ちますが、お客様は少しずつではありますが増え、わずかですが黒字が出せるようになりました。」

所長:「それは何よりですな。」

明星:「お客様が増えているとはいえ、1回だけしか利用しないお客様も結構おります。」

所長:「固定客を増やしたいということですね」

明星:「はいその通りです。」

所長:「お客様が他の美容院に移られる原因は何だと思いますか。」

明星:「料金は他の美容院に比べけっして高いと思いません。おそらく、私はじめ従業員に問題があるのだと思います。」

所長:「従業員だけの問題ではないでしょう。店舗の内装・外装の評価、競合店の新規開店、広告の仕方など色々な要因が影響していると思いますよ。」

明星:「お店の満足度を上げて固定客を増やすためには、色々なことを改善しなければなりませんが、一挙に全部を改善するのはコスト、時間において無理だと思います。優先的に改善すべきことが何であるかを教えていただきたいと思います。」

所長:「了解しました。あなたの店で何が問題かは、お客様の声を聴くのが一番です。」

明星:「正直に答えてくれるかしら。」

所長:「顔を突き合わせて聞いたら答えてくれないでしょう。聞きたいことを質問紙にしてアンケート調査をしてください。」

明星:「どのようにしたらよいか分からないのでお仕事として、アンケート調査を依頼したいと思います。」

所長:「分かりました。早速ですが、進め方は次の手順で行います。」

【アンケート調査の手順】
1 アンケート調査の質問項目と選択肢を決める。
2 調査票を作成し、100部印刷する。
3 来店者がお帰りの際、アンケート調査ご協力のお願いをして、調査票と返信用の封筒を手渡す。返信先は予力統計分析研究所とし、返信封筒に切手を貼ります。
4 回答は無記名でしてもらい、誰が回答したか分からないようにします。
5 調査開始から1ヵ月後、調査を打ち切ります。
6 データ入力、集計、解析をします。
7 報告書を作成し、何を優先的に改善すべきかをご報告させていただきます。

明星:「全てお任せしてよいのでしょうか。」

所長:「もちろんです。実務担当者を紹介します。」

雪乃:「統分雪乃です。」

明星:「あらまー、可愛いお嬢さんだこと。雪乃さん、よろしくね。」

所長:「子どもっぽいですけど、仕事はできますのでご安心ください。」

雪乃は所長のアドバイスを受け、次の質問紙を作成した。

1ヵ月後、予力統計分析研究所に送られてきた調査票は20票だった。雪乃がExcelに入力したデータは次の通りである。

ただし、問1は〇の付いた要素を1点、〇の付かない要素を0点として入力した。問2の項目名は総合評価という名称にして、データは次に示す得点で入力した。

所長:「雪乃くん、集計と分析をしてください。」

雪乃:「えっ、私がするんですか。」

所長:「あたりまえだ。入社して間もないころ、CS分析の仕方を教えたと思うが。」

雪乃:「はい、そうでした。その時のノートを見て挑戦します。」

所長:「頼むぞ。」

雪乃はノートを取り出し “4月××日顧客満足度調査の分析方法について学ぶ(CS分析とはCustomer Satisfactionの略)” と書かれたページを開いて復習した。

雪乃:「集計と分析をしたので、所長チェックしてください。」

所長:「では結果を聞こう。」

雪乃:「問2のお店全体の総合評価について集計し、グラフを描きました。」(図表3-4、3-5参照)

雪乃:満足と回答した人は10%、やや満足は30%で二つ合わせた2topの満足率は40%です。不満とやや不満を合わせた不満率は45%で、不満率が満足率を上回りました。1点から5点の得点データの平均値を計算すると2.9点で、真ん中にあたる「どちらともいえない」の3点を下回りました。総合評価の満足率や平均値から判断すると、明星さんの美容院は問題があると思います。」

所長:「雪乃君、ここまでは順調だ。」

雪乃:「はい、うれしいです。次に、問1の各要素について、1点を回答した人の全体20人に占める割合を満足率として計算しました。」(図表3-6参照)

所長:「OK」

雪乃:「満足率を降順で並べ替え横棒グラフを描きました。」(図表3-7参照)

所長:「OK、それで?」

雪乃:「あいさつの満足率が最も高く、次に設備の充実度、店舗の清潔感が続きます。技術の高さ、室内のゆとりは30%を切りました。私は、優先的に改善すべき要素は評価の最も低い室内のゆとりだと考えました。」

所長:「バカモン。」

雪乃:「えっ、間違いですか。誰がみても、室内のゆとりの満足率は5%と低いので改善要素だと思いますが。」

所長:「CS分析を勉強したとき、CS分析で重要なことをノートにメモしていたと思うが。」

雪乃:(パラパラとノートをめくり)「ありました。CS分析は総合評価を高めるのに重要な要素で評価の低い要素を改善すると書いていました。」

所長:「ではどうする。」

雪乃:「問2の総合評価と問1の各要素との関係を調べ、どの要素が総合評価を高めるの
に重要かを調べます。」

所長:「そうだ。例えば総合評価と”あいさつと”の関係を分析してごらん。」

雪乃:「ウーム、関係ですか。(芸能人同士の関係はわかるんだけど。こちらの方の関係は
どうするの?)」

所長:「うなっているだけではだめだ、データをいじくり廻すんだ。」

雪乃:「あいさつを”良いと思っている人”と”良いと思っていない人”で総合評価に違いがあ
るかを調べてみました。」

所長:「それで、両者の違いは?」

雪乃:「あいさつを”良いと思っている人”について見ると、総合評価が満足(4点と5点)の割合は60%、不満(1点と2点)の割合は30%で、総合評価は不満者より満足者が多いです。」

所長:「ふむふむ」

雪乃:「あいさつを”良いと思っていない人”について見ると、総合評価が満足(4点と5点)の割合は20%、不満(1点と2点)の割合は60%で、総合評価は不満者より満足者が少ないです。」

所長:「だから?」

雪乃:「”あいさつ”を良いと思っていただければ総合評価は高くなり、”あいさつ”を良くないと思われれば総合評価は低くなるということです。だから、あいさつは総合評価に影響を及ぼしている要素といえると思います。」

所長:「いいねー。他の要素についても調べてみてください。」

雪乃は全ての要素について計算し、結果を解釈してみた。

雪乃:「総合評価の不満割合と満足割合を比較すると、どの要素も1点(良い)の回答者は満足が不満を上回り、0点(良くない)の回答者は満足が不満を下回っています。どの要素も総合評価を高めるのに重要な要素といえます。」(図表3-9参照)

所長:「全て重要なのはわかった。雪乃君、重要度のランキングを付けてよ。」

雪乃:「重要度のランキング?」

所長:「雪乃くん。両者の関係の強弱を数値で表す統計手法は何かな。」

雪乃:「えーと」

所長:「忘れたの?」

雪乃:「前に私の親友美咲さんに相談を受けたとき用いた単相関係数でしょうか。」

所長:「そうだが、単相関係数を使うのに何かためらいがあるのか。」

雪乃:「単相関係数は数量データと数量データの関係を調べるものと思っていました。あいさつに対する評価は”良い”、”良くない”の2分類で数量データでないと思いました。」

所長:(こいつ結構着眼点がいいな)「そうだね、分類データはカテゴリーデータともいうが、カテゴリーデータと数量データの相関は相関比を適用する。だけど2分類に限っては1点、0点と数量データとして、単相関係数を算出してもかまわないんだ。」

所長:「今回のように多数の評価項目でどの要素が重要かを調べる場合、相関比と単相関
係数の値は異なるが両者の大小順位は同じになることが分かっているので、相関比、単相関
係数どちらを使ってもよいということだよ。」

雪乃:「分かりました。前(第2話)に教えてもらった方法で単相関係数を算出します。」

所長:「手計算で単相関係数を算出するのは大変だよ。アイスタットのフリーソフトで簡単に計算できるよ。」

雪乃:「前にアイスタットのホームページから【統計解析ソフトウェア】をダウンロードしていたけど、一度も使ったことがないです。」

所長:「それはもったいないな。次の手順で操作していって。」

【統計解析ソフトの使用方法】
・美容院のデータをExcelのシートに入力する。
・統計解析ソフトウェア.xlsmを開く。
・Excelのメニューバー「アドイン」に、下記のメニューが表示される。
・相関分析を選択し、実行ボタンを押す。
・相関分析を選択し、実行ボタンを押す。
・データを指定する。
・分析実行を押すと基本統計量と相関係数が出力される。

所長:「じゃあ次に出力された単相関係数(図3-12・相関行列表の総合評価)を降順で並べ替え、横棒グラフを描いてみて。」

雪乃:「総合評価を上げるのに重要なのは、技術の高さ、店舗の入りやすさ、設備の充実度で、重要でないのは店舗の清潔感、室内の落ち着き、室内の明るさということですね。」

所長:「その通り。」

第3話後編につづく……
▶ホントにやさしい統計教室(3-2)後編

菅 民郎

ビジネス・ブレークスルー大学大学院 教授。1966年東京理科大学理学部応用数学科卒業、2009年3月中央大学理工学研究科で理学博士取得。2011年6月市場調査・統計解析・予測分析・コンサルティング・セミナー・ソフト販売を行う会社として、株式会社アイスタットを設立。現在アイスタット代表取締役社長、株式会社ケアネット顧問。