BBTインサイト 2019年4月4日

ホントにやさしい統計教室(3-2)後編:CS分析について学ぶ「美容院の店舗や従業員で改善すべき点はどこか教えて」



執筆:菅民郎(BBT大学大学院 教授、株式会社アイスタット代表取締役)

雪乃:「ここまでは分かりました。だけど、総合評価を高めるのに重要な要素で評価の低い要素を改善すると教えられましたが、どのようにすれば改善要素を見つけることができるかわかりません。」

所長:「あまり難しく考えないこと、私の言う通りに散布図を描いてください。この散布図を見れば改善要素が分かるんだ。」

雪乃:「どんな散布図を描けばよいですか。」

所長:「まずは散布図を描くためのデータを一覧表にしよう。次のような表を作成して。」

1列目:要素名
2列目:各要素の満足率(図表3-12・基本統計量表の平均)
3列目:各要素と総合評価との単相関係数(図表3-12・相関行列表の総合評価)※パーセント表示

雪乃:「作成しました。」(図3-14参照)

所長:「縦軸を満足率、横軸を単相関係数にとり、散布図を描く。」

雪乃:「できました。」(図表3-15参照)

所長:「今、雪乃君が作成した数表で満足率と単相関係数の平均値を算出してください。」

雪乃:「満足率の平均値は32%、単相関係数の平均値は0.42です。」

所長:「縦軸において、満足率の平均値32%を通る横線を引いてみて。横軸において、単相関係数の平均値0.42を通る縦線を引く。横線より右、縦線より下に位置する領域に着目するんだ。」(図表3-16参照)

雪乃:「右下の領域には”技術の高さ”があります。」

所長:「“技術の高さ”はどのような要素だと思う?」

雪乃:「右下の領域には”技術の高さ”があります。」

所長:「“技術の高さ”はどのような要素だと思う?」

雪乃:「えーと、”技術の高さ”は縦平均線より右側に位置しているので単相関係数は高く、総合評価を高めるのに重要な要素です。そして、横平均線より下側に位置しているので”技術の高さ”の満足率は低いです。」

所長:「ということは?」

雪乃:「”技術の高さ”は総合評価を高めるのに重要な要素であるのに評価が低いので改善しなければいけない要素だと思います。」

所長:「雪乃君が改善すべきだといった”室内のゆとり”はどのような要素かな。」

雪乃:「”室内のゆとり”は縦平均線より左側に位置しているので単相関係数は高くなく、総合評価を高めるのにそれほど重要な要素といえません。そして、横平均線より下側に位置しているので”技術の高さ”の満足率は低いです。ということは、”室内のゆとり”は、評価は低いが重要要素でないので改善する必要がないといえます。」

所長:「改善する必要がないというのは、いいすぎで、評価の低い要素は改善すべきであるが、優先順位として、”室内のゆとり”より”技術の高さ”を先に改善すべきということだ。」

雪乃:「全ての要素に改善する順番を付けることはできないでしょうか。」

所長:「いい質問だね。改善度指数という値がある。アイスタットのフリーソフトで改善度指数の計算ができるので算出してみよう。チョチョイのチョイ。ほら結果だ。」(図表3-17参照)

所長:「改善度指数がプラスは改善、マイナスは改善不要だ。値が10以上は即改善、5以上は要改善、5未満は改善検討だ。」

雪乃:「明星さんの美容院での改善要素は5つで”技術の高さ”は即改善、”室内のゆとり”は要改善、”店舗の入りやすさ” ”設備の充実度” ”言葉遣い”は改善検討ということですね。」

所長:「そうだ。」

雪乃:「所長、改善度指数の求め方を教えてください。」

所長:「ソフトウエアを使っての求め方はマスターすべきだが、どのような計算式で算出しているかまでは理解しなくていいよ。」

雪乃:「難しくてわたしには理解できないということですか。」

所長:「うーむ、難しいが挑戦してみる?」

雪乃:「はい、ぜひ。」

所長:「6つの工程を経て改善度指数は求められる。」

①偏差値の計算
②偏差値の散布図作成
③散布図中心から散布点までの距離計算
④角度計算
⑤修正指数の計算
⑥改善度指数の計算

雪乃:(しまった。難しそう、今から聞くの、断ろうかしら)

所長:「もう引き返せないぞ、覚悟して聞きなさい。」

所長:「満足率と単相関係数の偏差値を計算して。偏差値は前(第1話)で使用したから計算できるね。」

雪乃:「はいできます。・・・計算しました。」(図表3-18参照)

注1 満足率偏差値=10×(満足率-平均)÷標準偏差+50。室内のゆとりは、10×(5%-32.2%)÷13.0%+50=29
注2 単相関偏差値=10×(単相関-平均)÷標準偏差+50。室内のゆとりは、10×(0.38-0.42)÷0.18+50=48

所長:「そしたら偏差値の散布図を描いて。」

雪乃:「描きました。どんな場合でも偏差値の平均は50となるので、偏差値50のところで横線、縦線を引きました。」(図表3-19参照)

所長:「偏差値の散布図バッチリOKだ。」

雪乃:「先ほど作成した散布図と散布点の位置関係は同じですが、偏差値の散布図を作ったということは、何か意味があるんですね。」

所長:「そうだよ。改善度指数は偏差値の散布図から計算するんだ。」

雪乃:「やっぱしね。」

所長:「”技術の高さ”について改善度指数の求め方を説明しよう。まずは偏差値の散布図において、中心点(50、50)から技術の高さの散布点(65、44)までの直線を引いて、そして2点間の距離を求めて。」(図表3-20参照)

雪乃:「ものさしで長さを測るのですか。」

所長:「それでもよいが、中学3年か高校1年のとき距離を求める公式【ピタゴラスの定理(別名三平方の定理)】を習ったと思う。これを使ってみよう。」

雪乃:「なんとなく覚えています。ネットで検索してみます。」

雪乃:「これを使って計算すると、15.8となりました。」

所長:「OK、雪乃君。散布図の中心から右下の点(80、20)までの線を引いて。この線を基準線というよ。」(図表3-21参照)

雪乃:「右下の点の座標はどんな場合も(80、20)と決まっているのですか。」

所長:「そうだ。偏差値は大概の場合20点~80点の間におさまるので、右下の座標は(80,20)としているんだ。」

雪乃:「了解しました。」

所長:「基準線と先ほど引いた”技術の高さ”までの直線とのなす角度を求めてください。」

雪乃:「角度ね。角度を測る分度器を持ちいればいいんですよね。」

所長:「その通り。Excelの関数でも計算できるから、私はそっちの方で算出してみよう。角度は24.4度だ。」

雪乃:「Excelでそんことできるんですか。教えてください。」

所長:「高校生のとき数学でsin(サイン)、cos(コサイン)、tan(タンジェント)を勉強したと思うが覚えているかな。」

雪乃:「三角関数ですよね。ほとんど覚えていません。」

所長:「Excelで角度を求める場合、三角関数が計算できるExcelの関数を使うんだ。三角関数を知らないと理解できないよ。」

雪乃:「私、高校時代、数学で三角関数が一番嫌いでした。三角関数をマスターしたいので教えてください。」

所長:「了解。ここで、右下の座標点(80,20)について、もう少し考えてみよう。ある要素がこの座標点(80,20)だったとしよう。この要素は満足率が最も低く、単相関係数が最も高い。すなわち総合評価を高めるのに最も重要な要素であるのに満足率が最も低いので、他の座標点の要素に比べ、改善を最も早くすべき要素といえる。」

雪乃:「ということは、座標点(80,20)に近い位置にある要素ほど改善し、遠い位置にある要素ほどは改善しなくてよいということですか?」

所長:「すごいじゃないか。その通り。さらにいうならば、改善する要素は基準線に近く中心点からの距離が大きいものだ。」

雪乃:「まとめると、角度が小さく距離が大きいほど改善度指数は大きくなるということですね。」

所長:「そうだ。【角度が小さいほど改善度指数が大きくなる】を【角度が大きいほど改善度指数は大きくなる】としたいために、修正角度指数というものを導入する。」

雪乃:「修正角度指数?」

所長:「基準線からの角度を図に示すように90度→0、45度→0.5、0度→1と変換する。この角度を修正角度指数と呼ぶことにする。数式では、修正角度指数=(90度-角度)÷90度で求められるんだ。」

雪乃:「”技術の高さ”の角度は24.4度だから、修正角度指数は0.729です。」(90度-24.4度)÷90度=0.729

所長:「改善度指数は次の式で求められるぞ。」改善度指数=距離×改善度指数

雪乃:「距離は15.8なので、15.8×0.729=11.5です。ワー、所長が算出した結果と同じになりました。」

所長:「おめでとう!」

* * *

後日、雪乃はパワーポイントで報告書を作成し、明星さんに説明した。

CS調査報告:
お店に対する総合的評価は満足と回答した人が40%で不満の45%を下回っている。
お店の総合評価を上げるのに重要な要素は技術の高さである。
明星さんの美容院は重要要素の技術の高さの評価が25%と低い。
改善度指数を計算すると11.5で即改善が必要と思われる。(1)
次に改善度指数が高いのは室内のゆとりである。
店舗改善には費用がかかるので配置換えなどして、室内のゆったり感をかもし出すこと。(2)
1、2を改善すれば獲得した顧客の継続利用が見込める。


雪乃は明星さんにすっかり気に入られ、サービスで雪乃に似合うヘアスタイルをアドバイスまでしてもらった上、実際にそのスタイリングにしてもらった。月曜日出社すると所長は目ん玉を大きくし、変身した雪乃にどこのお嬢様だと絶句したのだった……。

菅 民郎

ビジネス・ブレークスルー大学大学院 教授。1966年東京理科大学理学部応用数学科卒業、2009年3月中央大学理工学研究科で理学博士取得。2011年6月市場調査・統計解析・予測分析・コンサルティング・セミナー・ソフト販売を行う会社として、株式会社アイスタットを設立。現在アイスタット代表取締役社長、株式会社ケアネット顧問。