大前研一メソッド 2021年2月8日

中国で理由なく当局に捕まっても日本政府は助けてくれない


大前研一(BBT大学大学院 学長 / BOND大学教授 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集部

中国でスパイ罪などに問われ、一審の実刑判決を不服として上訴した日本人2人の判決公判が、2020年11月に北京市高級人民法院(高裁に相当)で開かれ、2件とも棄却されました。上訴が棄却されて懲役刑が確定しました。加藤勝信官房長官が2021年1月13日の記者会見で明らかにしました。

中国側に「早期帰国の実現、司法プロセスの透明性確保などを働き掛けている」と加藤氏は述べましたが、中国がこうした暴挙に出たとき、日本政府はまったく頼りになりません。米中の戦いなら、米国は同じくらいの人数を逮捕して抑止力を働かせるところです。日本政府は中国政府に対してどうして弱腰なのか、BBT大学院・大前研一学長に聞きました。

【資料】加藤長官、2邦人の帰国要請 中国で実刑確定

日本人に対して、中国が理由不明の逮捕・収監

実刑が確定した1人は2019年に懲役6年の判決を受けた日中青年交流協会理事長。もう1人は2018年に懲役12年を言い渡された札幌市の男性。中国は二審制のため、これで懲役刑が確定した。

中国では反スパイ法が施行された翌年の2015年以降、これまでに少なくとも15人の日本人が拘束された。うち9人が起訴され、今回の2人を含め全員の刑が確定した。その中には温泉探査の仕事で出張中の会社員もいる。

いずれの裁判もどのような行為が罪に問われたのか、どのような経緯で拘束されたのかは明らかにされていない。

多くの日本人が中国で生活をしている。どういう理由で捕まって、どういう理由で刑期が決まるのか。このことがわからないのでは、怖くて何もできない。民主化活動をして逮捕され、中国本土に移送された——など最近は日本でも香港市民に対する中国のやり方に関心が高いが、日本人自体も理由不明の逮捕・収監が驚くほど多いことには、あまり注目されてこなかった。

中国大使を目指すチャイナ・スクール外務官僚は、中国に歯向かわない

本来、外務省は中国在住の日本人、および中国でビジネス展開する日本企業の立場になって、中国政府に対し、「なぜ日本人が捕まったのか、明確にしろ」と迫らなければならない。そして、日本の国民に向けて、「中国の言い分はこうです」と説明する義務がある。

こういったことを放置して、「新聞によりますと」なんてことをやっている。外務省は何のためにあるのか!? こんな単純なこと一つできないのは、外務省の中の一大勢力「チャイナ・スクール」の存在が強く影響しているからだ。

「チャイナ・スクール」は、外務省で中国語を研修言語とした外交官たちのこと。いわゆる親中派だ。外務省は親中派と親米派に分かれていて、実はこの2つの派閥は仲が悪い。

外務官僚の最終目標コースは米国大使になること、または中国大使になることだ。ただし、中国大使に任命されたとしても、中国政府から「われわれに対して敵愾(てきがい)心を持っているから、大使としては認めない」とされれば着任できず、アグレマン(同意)が必要となる。

そのためにチャイナ・スクールの人々はレッテルを貼られないように、いやもっと進んで「お目覚えがめでたいように」中国政府要人との関係構築にひたすら励む。

中国で捕まって刑務所に入っても、日本政府は救ってくれない

だから、外務省が毅然とした態度で「何だ! 身柄拘束なんてとんでもない」と臨むことは期待できない。外務省の中のいわゆる中国通の人たちは、中国がこういった暴挙に出たとき、まったく頼りにならないのだ。米中の戦いではお互いに同じくらいの人数を逮捕して抑止力を働かせているが、そのような動きを日本の外務省に期待しても無駄なのだ。

というわけで、中国で捕まって刑務所に入っても、日本政府は救ってくれないことになる。このことをわれわれは知っておくべきだ。ちなみに、外務省の親米派も、米国に対してはやはり何も言えない。

それ以外の国ならある程度強い態度に出ることはあるが、外務省が海外の日本人を基本的には守ってくれない「自己目的化した役所」だということは記憶しておいた方がいい。

※この記事は、『大前研一のニュース時評』 2021年1月24日 を基に編集したものです。

大前研一

プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学教授。