大前研一(BBT大学大学院 学長 / BOND大学教授 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集部
韓国人は日本のことが嫌いだと言われます。しかしながら、韓国人は自国である韓国のことも嫌いなのだと、韓国をよく知るBBT大学院・大前研一学長は言います。そこで、韓国政府と韓国人の世論を分断し、韓国人から見て「“敵”(韓国政府)の“敵”(日本)は味方」と思わせる策で、韓国国民を日本にひきつけることはできないだとうか、大前研一は提案します。
韓国統計庁は2020年に同国で生まれた子供の数(出生数)が前年比10%減の27万2400人で、過去最少と発表した。死亡者数も30万5100人と出生数を上回った。1970年の統計開始以来初の人口減となった。
また、1人の女性が生涯に生む子供の推定人数を示す「合計特殊出生率」も、韓国はもともと低かったが、さらに0.84と過去最低を更新した。これはOECD(経済協力開発機構)加盟37カ国の中で最下位。人口を維持するには、合計特殊出生率2.07が必要とされる。
ちなみに少子化が問題視されている日本は1.36(2019年)である。韓国の合計特殊出生率の低さは際立っている。今後は香港、シンガポールも韓国レベルになってくるのではないかと思う。
【図】各国の合計特殊出生率の推移
韓国政府が2016年に出した予想よりも9年も早く、韓国は人口減社会に突入した。その原因は、重い教育費の負担や就職難、住宅価格の高騰といった社会の構造的問題が解消できず、若い世代が先行きの不安を覚え、結婚や出産を選択しない単身世帯が増えているからだといわれる。
また、超エリートが牛耳る社会ということも影響していると思う。有名大学を卒業した人は、最終的には大財閥か政府に入ることを目指す。そのために、中学、高校から米国に留学する人も多い。
そのとき、父親は韓国に残り、母親が子供の留学先国についていくことも起こる。家庭が分断され、何人も育てるわけにはいかなくなる。多くの家庭で2人目を生むよりも1人目により多くの投資をすることになるわけである。
もう1つ、私は韓国に数百回行っているが、韓国の人たちはアルコールが入ると、すぐに政府の悪口を平気で言い始める。韓国の人は日本の悪口を言っているときにも一致するのだが、それ以上に自分の国を強く非難している。
かつて朝鮮王朝は、側室に数多くの子供を生ませ、側室が多人数な分、何百人もの子孫が「王朝」を名乗って、国がバラバラに分断されていたことがあった。その歴史も影響しているのではないか。
韓国の国民は、「為政者は絶対に良いことはしない」と思っている。国や為政者に対する不信感が非常に根強い。これも人口減少の隠れた要因になっていると思う。
ある意味、同情すべきところがあるが、この韓国社会の特徴を踏まえたうえで、韓国の人たちの気持ちを日本にひきつける方法を考えたらどうか。つまり、日本に向けた悪口を別の方向に向かわせ、味方につけるという策だ。
韓国お得意の日本に対する悪口に対し、日本政府の切り返し方はうまくない。韓国最高裁が日本企業に賠償を命じた「いわゆる元徴用工」訴訟を巡っても、「1965年の日韓請求権協定によって解決済み」と主張を繰り返すだけである。
元慰安婦の問題についても似たようなものである。旧日本軍の元従軍慰安婦の韓国人女性らが日本政府に損害賠償を求めた訴訟の弁論が2021年3月24日、ソウル中央地裁で開かれ、裁判長は同年4月21日に判決を言い渡すことを決めた。同種訴訟では、同年1月8日に日本政府に賠償を命じた判決が既に確定している。今回の訴訟でも原告が勝訴するとの見方が強い。
2件の裁判では、「国家は外国の裁判権に服さない」とされる国際法上の「主権免除」の原則が適用されるかが焦点となった。同年1月の判決において「慰安婦動員は『反人道的犯罪行為』で主権免除は適用できない」と判断した。判決に対して日本政府は「国際法違反だ」と強く反発している。
しかし、この辺り、言葉遣い1つとっても、韓国の人の納得するような言い方を考えるだけで違ってくる。これが「外交」というものである。
文在寅(ムン・ジェイン)政権になって北朝鮮との距離を埋める事に一心で対日政策で日韓両国の亀裂は深まるばかりで、関係は冷え込んだままである。韓国の人口減少のニュースに触れて、改善への糸口を考えてみた。
※この記事は、『大前研一のニュース時評』 2021年3月13日 および大前研一ライブ#1058 2021年3月7日放映 を基に編集したものです。
大前研一
プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学教授。