大前研一メソッド 2020年9月23日

パソナが本社を淡路島に移転する隠れた狙いとは



大前研一(BBT大学大学院 学長 / BOND大学教授 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集部
パソナが本社を淡路島に移転する隠れた狙いとは

人材派遣大手のパソナグループ(以下、パソナ)は、2020年9月から段階的に東京にある本社機能の一部を兵庫県の淡路島に移しています。「東京一極集中の解消が進む」「コロナ後を見据えた新しい働き方」と好意的な見方がある一方、「裏事情があるのではないか」という見方もされています。表に出てこない事情とはどういうことなのか、BBT大学院・大前研一学長に聞きました。

◆「真に豊かな生き方・働き方」の実現、BCP対策で最先端を行く企業なのか?

「真に豊かな生き方・働き方」の実現、BCP対策で最先端を行く企業なのか?
1976年創業のパソナは東京都千代田区に本社があり、人事や広報、経営企画などの社員1800人のうち、経営企画や人事などの社員約1200人が淡路島に常駐する見通し。管理部門の担当役員も含まれる。

2024年5月末をめどに本社機能移転を完了させる方針である。新型コロナの感染拡大をきっかけに、在宅勤務が定着し、地方移転も可能だと判断したという。

自然豊かな淡路島での働き方改革推進に加え、本社機能を分散させることで、BCP(事業継続計画=災害やテロ、システム障害などの有事によって非常事態が生じた際でも、企業が事業を継続できるように行う対策)の観点からも移転するメリットが大きいとみている。

【資料】パソナグループ 本社機能を分散、淡路島に移転開始
https://www.pasonagroup.co.jp/news/index112.html?itemid=3593&dispmid=798

同社はすでに2008年から淡路島に進出し、農地を取得して就農事業も手掛けている。さらに、旧三洋電機が所有していた施設や廃校舎を活用した集客施設のほか、レストランや劇場、アニメと自然を組み合わせた体験型テーマパークなど観光事業を展開している。特に淡路市には、どこに行ってもパソナの施設があるといった様相になっている。

淡路島出身の経営者というと、大手アパレルであるワールドの創業者・畑崎廣敏氏、電子部品大手の黒田電気の創業者・黒田善一郎氏、そして三洋電機の創業者・井植歳男氏らがいる。しかし、どの人も淡路島に本社を置こうなんて思っていなかった。

ただ、淡路出身の人は不思議なことに、どこに行っても「淡路はいいところだ」と言っていた。淡路島に対する思いは、非常に強かった。三洋電機の井植氏は、淡路島がよく見える神戸のジェームス山の上に望淡閣という別荘を持ち、そこから長い時間淡路島を見ていたという。

◆「人件費」「不動産賃貸費」を削減でき、「補助金」「税制優遇措置」にメリットか?

「人件費」「不動産賃貸費」を削減でき、「補助金」「税制優遇措置」にメリットか?
一方、2020年初めから主に淡路島で執務しているパソナ創業者の南部靖之代表は、兵庫県出身である。淡路島に目をつけたのは「あまりにも不便で遠いので退職する人が増える」、すなわち人件費削減が狙いではないか、と思うが、より“パソナ的”な理由としては補助金が目当てなのかもしれない。

もう一つ考えられるのは不動産賃貸費用である。同社の本社が現在入居する日本ビルヂングは1962年竣工で築約60年と古く、再開発のため、解体予定である。同社の不動産賃貸費用は2020年5月期連結決算で約6億円におさまっているが、都内の別のオフィスビルに転居するとなると、日本ビルヂングに支払っていた不動産賃貸費用の倍増は避けられないと言われている。

さらに、淡路島は地域活性化総合特区指定を受け、「あわじ環境未来島特区」になって、さまざまな補助金や税制優遇措置を受けられる。前段で触れた農業の事業でも、兵庫県から「農業人材育成事業」として億単位の予算が出ている。

パソナという会社の周辺には、どうも補助金や給付金のニオイが漂っている。人員削減をする企業の依頼で行うアウトプレースメント(再就職支援)のビジネスでも、次の仕事を紹介すると、補助金が出ることになっている。持続化給付金の委託事業などで政府が丸投げたものを請け負う時に電通とともに常に名前が出ていた。取締役会長に政府の委員会などを歴任している竹中平蔵氏を配するなど「補助金を追いかけるのは、日本一」とも言われている。同社の2020年5月期連結決算によると、補助金収入は8千万円となっている。

ついでに指摘しておくと、淡路島は意外にアクセスに不便なところだ。例えば、新神戸から淡路市に行くまでには車でも1時間以上かかる。かつてサントリーが赤坂見附からお台場に移転したが、営業部隊はすぐに戻ってきた。お台場なんて20分あれば行けるが、淡路島はそうはいかない。東京から行くには飛行場もないので伊丹か徳島から車か、関空からフェリーとなる。

そういう意味でも、この移転、どういう結果になるのか見ていたい。

※この記事は、『大前研一のニュース時評』 2020年9月12日を基に編集したものです。

大前研一

プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学教授。