大前研一メソッド 2021年3月22日

東京都心部のマンションが平均7,000万円台! 不動産バブルなのか?


大前研一(BBT大学大学院 学長 / BOND大学教授 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集部

東京都23区内の新築マンション分譲価格が高騰しています。不動産経済研究所によると、2021年2月の平均価格は7,431万円、平米当たり分譲単価は117.8万円でした。東京都23区内のマンション需給、そして23区内のオフィス需給にも大きな変化が起きています。BBT大学院・大前研一学長に聞きました。



マンハッタン化しつつある東京都心部

「転入超過」が続いているとはいえ、2020年は転入超過数が過去最少にとどまった東京。転入組の主流は依然30歳以下の若年層で、中高年層の転入は激減している。

一頃、埼玉、神奈川、千葉など東京近郊に家を買ったビジネスパーソンが、定年後に都内のマンションに移り住む都心回帰パターンが増えた。子どもが独立して広くなった家を持て余すより、狭くてもいいから都心のマンションで老後を便利で豊かに過ごそうというわけである。逆に通勤時間片道最大1時間20分くらいのところにできた、かつてのベッドタウンはどんどん人口が減り、寂れてあちこちでゴーストタウン化している。

しかし、コロナ禍でその流れも変わった。リスクの高い密な都心にわざわざ引っ越す中高年層は減り、東京から近県の埼玉、神奈川、千葉への転出が目立つようになった。

それでも2013年の日銀金融緩和以降、上昇傾向が続いてきた都内のマンション価格が下がる様子はない。コロナ以前から新築、中古物件ともに供給量が抑え気味だったこともあって、コロナ禍の影響は一時的にあったものの、相場は高止まりしている。

特に好調なのは、依然として引退した高齢者に人気のある都心3区の小さなマンションと、何億円もするハイエンドの新築マンションである。米国の格差とは桁が違うが日本でも格差は広がっていて、株高の影響で金持ちはますます金持ちになっている。金持ちからすれば2億円のマンションも10億円のマンションもさして変わらない。「現金を残して死ぬのか、不動産資産を残して死ぬのかの違いだけだ」と考える高所得者層が増えているのだろう。

米国ニューヨーク市マンハッタン地区にあるセントラルパークを見下ろす高級マンションは、世界中の金持ちが買うから値段が高騰するばかりだが、今や東京都心部もマンハッタン化しつつある。アジアにも得体の知れない金持ちがいて香港の超高級マンションを買い漁ったりしていたが、デモや国家安全維持法施行で香港に見切りをつけた金持ちは安全な東京都心のハイエンド物件を欲しがるのだ。

マンハッタン化する都心部の高級マンションは普通の勤め人ではとても手が出せない。必然的に中古物件や東京郊外もしくは近県の物件を求めるようになるから、そうした物件の価格もしばらくは堅調と思われる。


【図1】超高額物件の販売が不動産相場を引き上げている

東京都心部のオフィスビルは価格の暴落に備えよ

都心の高級マンションは安泰だが、心配なのはオフィスビルである。

電通が港区の本社ビルの売却を検討していると報じられた。テレワークの推進で社員の出社率が2割程度に減少して余剰スペースが生じたことなどが原因とも言われている。ほかにもリクルート、日本通運などの所有するビルの売却・売却検討が報道されている。

仮に報道が真実で本社ビルを売却するとしても、ソニーのようにリースバック(売却後にリース契約して賃貸料を払ってそのまま住み続けること)して本社機能は維持するだろう。ただし、使うスペースは半分以下になるだろう。

都心の自社ビルを売却したり、本社を縮小する動きは今後も加速するだろう。人材派遣大手のパソナが本社機能を東京都千代田区から兵庫県淡路島に段階的に移転、横浜ゴムは本社ビルを売却して平塚製造所に移転、という発表もあった。コロナ禍の厳しい経営環境に直面して、本社機能の見直しに取り組む企業が増えているのだ。

私の知り合いで会社にフリーアドレスを導入した経営者がいる。フリーアドレスとは、社員が固定した席を持たずに、自分の好きな席を活用して効率的に働くワークスタイルのことだ。私の記憶では日本IBMの箱崎事業所が最初であったと思うが、外回りが多い営業部門で取り入れられることが多かった。

しかしその後は、働き方改革を推進する施策の1つとして多様なセクションで導入が進んでいた。これをさらに加速したのが新型コロナである。週に1〜2日の出社率なら、席を固定するほうが非効率。フリーアドレスにすれば、オフィススペースは半分以下で済む。

数量的に検討してオフィススペースが今ほど必要ないという結論に達すれば、自社ビルを売却して手元資金を増やしたうえでリースバックして本社機能をコンパクトに維持する場合もあるだろうし、もっと賃料の安い物件に本社機能を移転する会社も出てくる。

私の感覚では、坪あたり賃料が2万円を超えるようなオフィスビルはもはや高すぎる。「賃料が人件費の50%を超えるくらいなら安いところに転居して手当を充実したほうがいい」と考える経営者も増えているのだろう。狭い土地に建てられたペンシルビルの賃料はすでに坪1万円台にまで下落している。賃料が高い最新鋭の大型オフィスビルは借り手が減っていくし、借りる必要面積も縮小していくだろう。

大手デベロッパーが狂ったように都心にオフィスビルを建築しているのは、こうした状況が見えていなかったからだろう。テレワークが常態化して賃料やオフィススペースを半分以下にしたいという動きがまとまってきたときには、金融危機の再来が危惧される。今は都心の空室率が5%を超えて相場が下落し始めている。10%を超えたら1990年代の半ばに起きた不動産の暴落が起こると思われるので、空室率を追跡しておくことを推奨する。


【図2】東京を中心に、オフィス空室率が上昇し、賃料が下落している



※この記事は、『プレジデント』誌 2021年4月2日号、および大前アワー#457 2021年3月20日放映 を基に編集したものです。

大前研一

プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学教授。