大前研一メソッド 2021年2月16日

“定年消滅法”が2021年4月に施行へ!あなたの老後はどうなる?


大前研一(BBT大学大学院 学長 / BOND大学教授 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集部

「世界でおそらく初めて、定年のない国が誕生することになる」とBBT大学院・大前研一学長は指摘します。2021年4月、「私たちの定年が何歳に延びるのか?」という重要な改正法が施行されるのですが、ほとんど脚光を浴びていません。この改正法が施行されると、日本の定年制度は事実上消滅するのだと大前氏は言います。

日本の定年制度が事実上消滅へ

2021年4月、改正高年齢者雇用安定法(通称「70歳就業法」)が施行され、希望する社員が70歳まで働けるようにする努力義務が企業に課せられる。

高齢者雇用について、現行法では企業は「定年制の廃止」「65歳までの定年引き上げ」「65歳まで契約社員などで再雇用する継続雇用制度」の3つのうち、いずれかを講じることが義務づけられている。今回の改正はそれをさらに70歳までに引き上げる。

ただし、会社側にも配慮して、「個人事業主などとして業務委託契約を結ぶ」「他企業への再就職支援」などコストを抑えられる選択肢も加わっている。

日本の高齢者の就業率は、70歳以上で約20%、65〜69歳は50%近くに及んでいる。



【図1】日本における、高齢者の就業率の推移

昔は55歳定年だった。それが60歳、65歳となった。ここから先もさらに仕事ができるようにするわけだ。

国が「生涯現役」にこだわるのは、少子高齢化による人手不足と社会保障費の増加が深刻になっているからだ。

政府の思惑は、年金の支出が減ること。年金の支給開始年齢の原則は65歳だが、2022年4月から60〜75歳(現行は70)まで選択できるようにしている。また、いつまでも働いてくれれば、税金も払ってくれる。

ということで、これはある意味、政府の仕掛けにハマるということでもある。そういう思惑が極めて露骨に現れたのが、この70歳就業法だ。しかし、そんなことを嘆いていても仕方ない。

おそらく、70歳までの継続雇用制度の導入をする企業が多いだろう。この場合、契約社員として再雇用されると大幅に賃金が減らされる。一方、個人事業主として契約すると、会社員ではいられなくなる。ある意味、「世界で初めて定年のない国になる」ということだ。

「いつまでも働いていたい」日本人

こういう時代は自ら道を切り開く必要がある。肩をたたかれて「はい、個人事業主として契約しましょう。さようなら」と言われて悲惨な人生を歩むことがないようにしなければいけない。「あなた、ウチの会社にきてください」と言われるよう、30代、40代のうちから腕を磨いて準備しておかないといけない。

日本の場合、蓄えが十分ではなく、年金も大してもらえない。60歳を過ぎて収入がなくなることに不安に思っている人が多い。だから、いつまでもダラダラと仕事をしていたいと思っている。

主要国の65歳以上男女の労働力率をみると、約24%の日本は韓国、シンガポールに次いで第3位だ。低いのはフランスの3%である。



【図2】主要国における、65歳以上男女の労働力率

「定年を5歳延ばす」と言われたら、フランスやイタリアでは暴動が起こるだろう。フランス人はピタッと仕事を辞め、あとは「何のために生まれたのか」と言いつつ、人生をエンジョイしている。

ロシアでも3年前、年金の開始年齢を段階的に引き上げると提案した途端、ウラジーミル・プーチン大統領の支持率が下降した。こういうことに対して、かの国の国民は敏感に反応する。そのくらい重要な話だ。

日本人は文部科学省の教えが良かったのか、政府に文句を言わないで、むしろ「いつまでも働いていたい」と言う人が圧倒的に多いのだ。会社にいる方が家にいるよりもアルファ波が出て精神的に安定している、という調査もあるくらいだ。

いつまでも働けるスキルを身につけながら、稼いだカネで人生をエンジョイする技も身につけてもらいたい。

※この記事は、『大前研一のニュース時評』 2021年2月12日号を基に編集したものです。

大前研一

プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学教授。