大前研一メソッド 2019年3月1日

国民に対する三つの重大なごまかし~自民党政府が戦後ずっと嘘で塗り固めてきた負の遺産



大前研一(BBT大学大学院 学長 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集部

沖縄県で2019年2月24日、宜野湾市に位置する米軍普天間飛行場の移設を巡る県民投票が行われました。即日開票の結果、名護市辺野古の沿岸部の埋め立てへの「反対」が72%を超えました。

安倍首相は翌25日「結果を真摯に受け止める」とし、「日米が普天間基地の全面返還に合意してから20年以上実現されていない。もうこれ以上先送りすることはできない」と述べ、県民の「理解」を得られるように取り組んでいきたいと語りました。

沖縄の米軍基地を巡る問題は、自民党政府が戦後ずっと嘘で塗り固めてきた負の遺産の弊害の一つです。同問題を含む、国民に対する重大なごまかしを三つとりあげ、大前研一学長が真実を明らかにします。

ごまかしその1:沖縄の軍政の主権は、今も米国が握り続けている

玉城デニー知事は政府と改めて協議したり、米国を訪れて国務省や国防総省の要人と会談するなど、沖縄の普天間基地の返還を求めるとともに名護市辺野古への移設する工事を中止するために駆けずり回っているが、ハッキリ言って無駄な努力でしかない。

普天間基地の返還・辺野古移設は日米両政府が締結した日米安保・地位協定というフレームワークの中で合意したことだ。代替地として日本政府が白羽の矢を立てたのが辺野古であり、すでに先回りして、一世帯当たり1億円近い補償金を政府は配っている。

元首相の鳩山由紀夫氏が「(普天間基地の移設先は)最低でも県外」とうわごとを口にして何一つ動かせなかった。総理大臣さえ、何もできないのだ。普天間基地の辺野古移設は沖縄の知事が関与できるレベルの問題ではない。

「沖縄の民意を無視するのか」という批判も当たらない。沖縄の民意は関係ないのである。なぜなら、1972年の沖縄返還で日本に戻ってきたのは施政権、つまり民政だけで、軍政の主権は今もなお米国が握っているからだ。

「軍政をアンタッチャブルにしたから沖縄は帰ってきた」とも言えるのだが、この安倍首相の大叔父(佐藤栄作元首相)が結んだ密約を日本政府は国民、沖縄県民に知らせてこなかった。おそらく玉城知事もそのことを知っていて、そのうえで沖縄の民意を代表するリーダーとして振る舞っている。

ごまかしその2:日本の主張=「北方領土は我が国固有の領土」は誤り

領土問題と平和条約を巡って、共に長期政権を築いたリーダー同士、ロシアのプーチン大統領と安倍首相は緊密な話し合いを重ねてきた。両首脳は「平和条約締結後に歯舞、色丹の二島を日本に引き渡す」という1956年の日ソ共同宣言に立ち返って交渉を加速させることで合意した。

しかし、プーチン大統領とラブロフ外相以下ロシア側は「南クリル諸島(日本の主張するところの「北方領土」)の主権は第二次世界大戦の結果、ロシアが得たものだ。まずは日本が第二次世界大戦の結果と国連憲章を受け入れなければ話は進まない」との姿勢を崩さず、日本政府にもハッキリ伝えている。

安倍首相はそれを理解したうえで、ロシアとの交渉を解決する方法である。第二次世界大戦の結果を受け入れることを交渉の入口とするなら、「日本がポツダム宣言を受諾した後にソ連軍が北方四島に侵攻して不当占拠した」というこれまでの日本政府や外務省の説明は「嘘だった」と国民に謝罪すべきである。

しかし、安倍首相は国民にそんな説明をすることもなく、「日ロ関係は新しいフェーズに入った」としれっと言い放って平和条約締結と二島“返還” (正確には「引き渡し」)の道筋を通すのだろう。

「場合によっては平和条約が先で、その後に二島“返還”ということもありうる」という世論操作も既に始めている。ロシアが平和条約締結と二島“返還”に合意する最大の理由は、日本の経済協力よりも、返還した二島に米軍が駐留しないこと。つまり、二島を日米安保の適用外にすることだ。

ごまかしその3:自衛隊は軍隊ではない?

韓国海軍の駆逐艦が日本の海上自衛隊の哨戒機に対して火器管制用レーダーを照射したとされる問題。防衛省が公開した証拠映像で、海上自衛隊が韓国の駆逐艦に「This is Japan Navy(こちら日本海軍)」と呼びかけている音声が確認された。

海上自衛隊の正式な英語名称は「Japan MaritimeSelf-Defence Force(JMSDF)」。多国籍軍や共同軍事演習などの実務で自衛隊が「Japan Navy」と自称するケースは以前からあったが、図らずも今回、「自衛隊」=「軍隊」という世界の現実を国民の前にさらけ出した。

自衛隊は世界からは軍隊と見られている。しかし、日本政府は「自衛隊は軍隊ではない」と言い張ってきた。「自衛のための必要最小限度の実力」であって、憲法第9条2項で不保持を謳っている「陸海空軍その他の戦力」に該当しない。従って合憲である、と。

そう言いながら防衛庁から防衛省に格上げし、世界第8位の軍事費をかけて「実力」を磨いてきた。自衛隊の海外派遣の道を拓いて、国連PKOや米軍の後方支援ができるようにした。安保法制では集団的自衛権の行使が可能となり、自分の身を守るための武器使用だけでなく、任務を遂行するための武器使用もOKになった。

世界第8位の軍事費を投じながら「軍隊を持っていない」というのは納税者に失礼である。外国からも馬鹿にされる。しかし、戦後長らく続いた自民党政府は軍隊の必要性を国民に問うてこなかったし、憲法を変えなければいけない理由も説明してこなかった。「戦争しません」「軍隊は持ちません」と建前を言いながら、憲法を拡大解釈して、じりじりと軍事大国化してきた。

「2020年までに憲法を改正し、自衛隊の存在を明文化したい」と安倍首相は言うが、自衛隊を日陰者にしてきたのはほかならぬ自民党政府なのである。

都合のいいことだけをアピールして都合の悪いことは国民に隠す。密約外交は自民党政府の得意技である。

ロシアが歯舞、色丹の二島を日本に引き渡す場合、日米安保の適用を逃れるために、施政権だけ日本に引き渡して、軍政はロシアがそのまま維持するという沖縄方式をロシアが求めてくる可能性もある。この場合、沖縄返還と同様、日ロ政府間の「密約」ということで、日本国民には真実が知らされないだろう。

大前研一

プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学名誉教授。