大前研一メソッド 2019年3月15日

築地再開発構想~築地周辺を、世界一の臨海スポットに生まれ変わらせる



大前研一(BBT大学大学院 学長 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集部

旧築地市場の跡地を再開発する方針の素案「築地まちづくり方針(素案)」が2019年1月に東京都から発表されました。

▼資料:築地まちづくり方針素案(最終アクセス:2019/03/15)
http://www.toshiseibi.metro.tokyo.jp/bosai/toshi_saisei/data/saisei0802_14-1.pdf

大前研一学長は石原慎太郎知事時代にCGを使って提案したプランがありました。今回はそのプランの内容を聞きます。

築地跡地の再開発は、世界有数の臨海スポットに生まれ変わるチャンス

面積23haの旧築地市場跡地を取り扱うだけではスケールが小さい。築地に隣接している勝どきと晴海、ここは都有地なのだから、三位一体で開発すべし、というのが石原慎太郎知事時代に私がCGを使って提案したプランである。

石原都政では跡地をバラして切り売りする案もあったが、そんなことをしたら味気ないオフィスビルが立ち並んで土日は閑古鳥が鳴く東京・大手町のようになるだけ。

私のイメージにあるのはニューヨークの「バッテリーパーク」、ロンドンの「カナリーワーフ」、シドニーの「ダーリングハーバー」といった大規模な港湾開発によって生まれ変わった臨海スポットだ。世界的な大都市の再開発では、港湾開発が重要な役割を果たすケースが多い。

寂れ果てた港湾がウォーターフロントの人気スポットに生まれ変わって世界中からヒト、モノ、カネを呼び込む。都市の新たな「顔」になるのだ。築地、勝どき、晴海の湾岸エリアも構想次第でそうなる可能性を秘めている。

「築地、勝どき、晴海の三位一体開発プラン」に盛り込むべき三つの要素

築地、勝どき、晴海の三位一体開発プランに盛り込むべき要素が以下のように三つある。

(1)東京を象徴するランドマーク的な建造物
パリと言えば凱旋門とエッフェル塔、ニューヨークと言えばセントラルパークにかつてのワールドトレードセンター、シドニーならダーリングハーバー、オペラハウス、シドニーブリッジなど。世界的な大都市にはシンボリックな建造物が必ず存在して、街の「格」というものを誇示している。

東京にはそれがない。スカイツリーは貧相だし、東京タワーは多少貫禄はあるが、エッフェル塔の格には及ばない。「これぞ東京」というランドマークが欲しいところだ。

(2)職住近接
海外の企業やビジネスパーソンを呼び込むには、職場と居住場所が近いことが重要になる。外国人は通勤に1時間もかけることを嫌がる。職住近接を好むのだ。アジアで言えばシンガポールの街は職住近接しているし、香港も職場と住居が近い。シンガポールや香港に奪われた多国籍企業のアジア本社機能を奪い返して東京に取り込もうというなら、職住近接のコンセプトは不可欠だ。

築地、勝どき、晴海エリアはビジネスの中心地に近いから、住宅を整備すれば職住近接のライフスタイルが提供できる。

(3)食
築地のオリジンは何かと言えば、基本は魚市場であり、海鮮料理を中心とした食の街というのはやはり訴求ポイントになる。世界中からやってくる観光客はもちろん、近辺で働く大勢のビジネスパーソンも利用できるような圧倒的な規模のレストランゾーンが必要だろう。

美食の聖地と言われるスペインはバスク地方のサン・セバスチャンは、碁盤の目のような区画に200軒ものバルやレストランが軒を連ねていて、観光客はそこをそぞろ歩き、酒とおのおのの名物料理を楽しむ。私がイメージするのはサン・セバスチャンのような美食街で、墨田川の河口辺りの海を見ながら食事ができる街を作る。

お台場のヴィーナスフォートを構想した経験から言えば、このレストラン施設はエンクローズドモール(屋根付き、空調付きのモール)にしたほうがいだろう。日本の冬は結構寒いし、梅雨時は雨が多く、夏は酷暑。エンクローズドモールのほうが通年で快適に利用できる。

ボードウォークでエリアを結び、徒歩で行き来するのを楽しむ

ランドマーク、職住近接、食の街――。この3つのコンセプトで築地、勝どき、晴海を一体開発すれば、シドニー湾やカナリーワーフに匹敵するような世界中からヒト、モノが集まる魅力的な街ができると思う。

ちなみに、街はボードウォーク(木の板張りの遊歩道)でつないで、ビジネスエリア、レストランエリアなどを徒歩で行き来できるようにする。ボードウォークを歩いてどこにでも行けるというのも外国人が好む大事なコンセプトなのだ。

平日はボードウォークを伝って通勤、通学し、土日になるとボードウォーク沿いにあるカフェで緩やかな日差しを浴びながら新聞を読む――。

ボードウォークのある世界の街々でよく見かける光景だ。これが案外重要な出会いの場になっていて、そこで意気投合したビジネスパーソンが会社を辞めて、新しい会社を興すこともある。

関東大震災や先の大戦を経て再建された現代の東京に、世界都市の風格は感じられない。今後は性根を据えて東京をヒト、モノ、カネが集まる世界都市へとつくり変えていかなければならない。その東京の価値を最大限に引き上げてくれるのが、旧築地市場跡地の再開発である。

中央区と江東区の合作で築地、勝どき、晴海をボードウォークでつなげば人々の憩いと出会いの場になる。安心、安全でいつでもレストランやコンビニなどが開いている24時間都市なんて、世界中にそうはない。うまく一体開発できれば、世界都市として100年先、200年先まで高い評価を受けるだろう。

大前研一

プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学名誉教授。