大前研一メソッド 2019年3月29日

米、世界各国の人権状況に関する2018年版の年次報告書を公表~中国の人権侵害はケタ外れ



大前研一(BBT大学大学院 学長 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集部

米国務省は3月14日、2018年の世界各国の人権状況をまとめた年次報告書『2018 Country Reports on Human Rights Practices』を公表しました。

同報告書などから、どの国で人権状況が悪化しているのかを、大前研一学長に聞きました。

▼資料:2018 Country Reports on Human Rights Practices(最終アクセス:2019年3月29日)
https://www.state.gov/j/drl/rls/hrrpt/2018/index.htm

中国の「人権侵害はケタ外れ」

米国のマイク・ポンペオ国務長官は人権状況が悪化しているとして、中国、イラン、南スーダン、ニカラグアを名指しして批判した。特に中国については「人権侵害はケタ外れ」と指摘した。

この中でイランが上位に挙がっているのは、米政府の意見がかなり反映したのだろう。もうひとつ、ニカラグアを挙げるなら、グアテマラも上位に入れてほしかった。そんなわけで、米国の指摘には少し異論もある。しかし、中国が人権侵害で抜きんでていることは間違いない。

新疆のウイグル人およびその他の少数民族に対する宗教的自由の抑圧、チベット自治区および他のチベット人地域に対する言論、宗教、結社の自由の抑圧は、他の地域よりも悪化し、より深刻である。

新疆ウイグル自治区のイスラム教徒を「中国化へ再教育」

2018年、中国は新疆ウイグル自治区のイスラム教徒の少数派集団メンバーの集団拘束キャンペーンを大幅に強化した。当局は、宗教的および民族的アイデンティティを抹消するように設計された収容所に80万人からおそらく200万人以上のウイグル人、カザフ民族、およびその他のイスラム教徒を恣意的に拘束したと報告されている。強制収容のうえ、虐待や拷問によって「中国化への再教育」が進められているという。

一方、中国政府の新疆ウイグル自治区をめぐる「白書」によると、「ウイグル族が不当に拘束されている」という外国からの指摘に対して、「テロを予防するための職業訓練が目的だ」と反論して事実上拘束を正当化している。

チベットの言論、宗教を支配

習近平国家主席が政権を握ってから、ウイグル族だけでなく、チベット族など少数民族への圧迫はさらに悪化したといわれている。

今週の米誌「TIME」の表紙の人物について、「だれかな?」と思ってよくよく見たら、チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世だった。現在83歳。非常に年をとった印象もある。今月はインドに亡命する契機となった「チベット動乱」から60年。それで表紙に選ばれたわけだ。

チベット亡命政府があるインド北部のダラムサラから「故郷の村に帰りたい」と祈りをささげているかもしれないが、この人が故郷に帰ることはないだろう。

ダライ・ラマが高齢になり、後継者についての論議もある。本来なら、ダライ・ラマが承認した「神のお告げの少年」が後継者だが、すでに中国政府がそのパンチェン・ラマ11世(当時6歳)を1995年に両親共々連行して以来、居場所は不明のままである。中国政府はチベットを都合のいいように操ろうとしている。

これに対し、ダライ・ラマは「次の不幸な人を選ぶことはしません。私限りでダライ・ラマは終わりです」と悟りきったようことを言っている。

この人は世界を旅して「中国政府を何とかしてください」と訴えているが、私はなぜ中国政府と直接話し合わないのか、不思議で仕方がない。米国のドナルド・トランプ大統領ではないが、そこでディール(取引)をすればいい。

中国がしたたかに後継者を意のままにしようとする中、私はダライ・ラマの政治力にも、ちょっと足りない部分があるのではないかと思う。

現在、中国の決済は顔認証になっているが、そのデータは共産党政権に渡さなくてはならず、集会を開いた場合、誰がいるかということが瞬時にわかってしまう。

また、「信教の自由」もない。共産党という宗教を信じなさい、と言っているだけだ。さらに「三権分立」も機能していない。捜査、逮捕、判決まで全部、共産党政権がコントロールしている。それが中国の現実だ。

香港も含め、中国では反政府的とされるジャーナリスト、弁護士、作家、ブロガー、反体制派、請願デモをした人たちならびにその家族に対して、超法規的な殺害、拉致、厳しい環境下への拘束、拷問が行われている。ネットの検閲やサイトのブロッキング、集会の権利、結社の自由の侵害、信教の自由に対する厳しい制限、移動の自由に対する重大な制限など枚挙にいとまがない。

大前研一

プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学名誉教授。