大前研一メソッド 2019年4月19日

航空機王国=米国への信頼が揺らぐ~ボーイング「737MAX8」の運航再開の目途立たず



大前研一(BBT大学大学院 学長 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集部

2019年3月にエチオピア航空の旅客機ボーイング「737MAX8」が墜落し157人が死亡した事故を巡り、ケニア人乗客の遺族が米ボーイング社をシカゴの裁判所に提訴しました。

2018年10月にインドネシアのライオン航空の同型機が起こした墜落事故でも、すでに数十人の遺族がボーイングを提訴しています。

米航空各社は、同機を夏季の運航スケジュールから外すと発表しました。米連邦航空局(FAA)による運航許可の目途が立たないため、欠便の予定が当初計画から延びています。

ボーイング社はFAAによる737MAXの運航停止を受けて3月半ばから同機の出荷を止めています。

同機の墜落事故について大前研一学長が解説します。

ボーイング、制御システムの誤作動をようやく認める

米ボーイング社のデニス・ミューレンバーグ最高経営責任者(CEO)は4月4日、新型機「737MAX8」が2018年10月にインドネシア、さらに2019年3月にエチオピアで起こした墜落事故について、「機体の失速を防ぐための自動的に機首を下げる装置が、不正確な情報で起動した」と明らかにし、制御システムに誤作動が起きたことを認めた。

事故当初から、私は1994年に名古屋空港で発生し、264人が死去した中華航空の「エアバスA300」の事故に非常に似ていると指摘した。いずれも、パイロットが浮上させようとしたら、自動制御システムが働いて逆に機首を下げてしまった。パイロットと機械が“ケンカ”を始めたわけだ。

今回の場合、機体の左右に取り付けた位置センサーが機体の角度に関して誤ったシグナルを送って、機首を下げるプログラムが起動した。それに対し、パイロットは懸命に再浮上しようとしたが、ますます機械は反対に向かった。それが墜落につながった。

自動化は本来、パイロットを助けるためのものだが、パイロットとコンピューターの判断が異なると、こういうことも起こってくる。

ボーイング社は1994年の時点で、エアバスの事故を受けて、安全設計を取り入れていなけれなければいけなかったはずなのに、それができていなかったのは大きな問題である。

人間の行動が正しいのか、機械の判断が正しいのか?

原子力開発に関わっていたこともあって、私は航空機の事故とその原因をほとんど覚えている。航空機事故の発生メカニズムを分析することは、原子力発電所の事故を防ぐうえで、参考になることが多いからだ。原子炉の事故も100例以上あるが、それも全部頭に入れていないといけない。それでも東京電力福島第一原子力発電所は津波の前に起きた地震で外部電源を喪失していたうえに、発動すべき非常用電源が津波で水没して炉心溶融が起きた。

どんな事故も、多くは人間と機械の“ケンカ”だ。「明らかにコンピューターにプログラムされていることが間違っている」となったときには、人間の判断でオーバーライド(優先)しなくてはいけない。訓練を受けたパイロットならば、自動制御がなくても運航できるはずだ。おかしくなってきたら、余計なことをせずにパイロットの手動操縦に任せることだ。

人間の行動が間違えていて、機械が正しかったという上記とは逆の場合もある。

79年に起きた米ペンシルベニア州のスリーマイル島の原発事故は、給水ポンプの故障などに運転員がパニックになって、非常用炉心冷却装置が自動で止まるのに手動に替えるなどの誤操作が重なって冷却材喪失事故に発展し、炉心溶融(メルトダウン)を起こした。こちらは人間の行動が間違っていた。

今後、自動運転車の世の中になったとき、この問題はパニック状態の人間が何をするか、という点において非常に示唆に富む。

ミューレンバーグCEOは事故当初、「われわれは安全性を確認し、同機の設計や製造に携わる人々も信頼している。認証を経て就航してからMAXファミリーは何十万回もの飛行を終えている」と同機の安全性を強調し続けていた。

ボーイング社は不誠実なところがある会社だと思う。今回も当初、ボーイング社は「安全性を確信している」と言い張った。安全設計に対する基本的な哲学が抜けていたのだ。

また、FAAもトランプ大統領も、すぐには運航を停止させなかった。政治的理由で大きな判断ミスをしたFAAに対する信頼も地に落ちたといえる。

大前研一

プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学名誉教授。