大前研一メソッド 2018年12月7日

ルノーの「日産子会社化シナリオ」はまだ生きているのか?~日産の43%大株主ルノーの立場は依然として強い



大前研一(BBT大学大学院 学長 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集部

フランス自動車大手ルノーは11月20日、東京地検特捜部が最高経営責任者(CEO)兼会長のカルロス・ゴーン容疑者を逮捕したことを受け、ナンバー2のティエリー・ボロレ最高執行責任者(COO)が暫定トップになったと発表しました。

大前研一学長は2018年3月頃、「ルノーは、ゴーン氏をCEOに再任する4年間の期間中に日産を完全経営統合した後、ボロレ氏を後継者として育成するシナリオを持っているのではないだろうか」と予想していました。

ルノーの「日産子会社化シナリオ」は生きているのでしょうか?それともルノーは同シナリオを断念するのでしょうか?大前研一学長に聞きます。

▼参考:大前研一LIVEコンサルティング(逮捕のゴーン会長を解任)
https://www.youtube.com/watch?v=-LMn6KreXRY&feature=youtu.be

「日産とルノーの完全統合」の密約がゴーン氏の続投の交換条件だった?

金融商品取引法違反容疑で逮捕され、日産自動車、三菱自動車の会長職を解任されたカルロス・ゴーン容疑者について、私は2018年6月1日号『週刊ポスト』で「ゴーン氏のルノー会長職の任期は今年までだったのに、2022年まで延びた。その後、ゴーン氏はフランス政府寄りに傾き始めた。この裏には、フランスのマクロン大統領との間で、資本提携している日産とルノーの完全統合に関する密約があったのではないか」と指摘した。これが今回の事件の重要なポイントだ。

ルノーは第二次世界大戦後に国営化され、現在も仏政府が15%の株を保有して、人事権など経営の重要な意思決定に介入している。日産もルノー株を15%保有しているが、これには議決権がない。

一方、ルノーは日産株を43.7%保有している(43.4%という説もある)ため、完全統合した場合、日産と三菱自動車はルノーの子会社にされ、事実上、仏政府の影響下に置かれてしまう。

マクロン大統領は野心家で、ナポレオンみたいなエンペラーになることを考えている。実際、大統領就任式はエリゼ宮ではなくベルサイユ宮殿で行っている。日本やドイツ、米国、そして将来的には中国にも1000万台クラスを生産する自動車会社があるのに、仏にはない。これが頭痛のタネだが、ルノーが日産を傘下に収めれば1000万台を超える。そのためには完全統合しかない。

これがマクロン大統領のシナリオだ。ゴーン前会長は自分の人事と引き換えに完全統合を進めたという可能性が非常に高い。

日産の43%大株主であるルノーの立場は依然として強い

日産の幹部は、「ルノーの子会社になることは避けなくてはならない」ということで、今回の“クーデター”を起こしたわけだ。ただし、ここから先は、ものすごく難しい交渉になってくる。

ゴーン前会長とともに側近のグレッグ・ケリー容疑者も代表取締役を解任された。これは日産の取締役会でできた。しかし、次の段階、彼らに取締役を降りてもらうには臨時株主総会を招集する必要がある。

こういう場合、普通はプロキシーファイト(委任状争奪戦)になるのだが、先に触れたようにルノーは日産株を43%保有している。こういう大きな会社では、80%以上は票を集められないものだ。43%は80%の人からしか委任状が集まらなかった場合、すでに50%を超える。つまり、ルノーが賛成しなければ、ゴーン、ケリー両名のクビは取れない。

日産の西川(さいかわ)廣人社長が考えているシナリオは、取締役の2人を降ろし、ルノー株をあと10%買って25%にする。25%持つと日本の会社法では40%以上持っていても当該会社に対する議決権がなくなる。それでルノーの影響を排除しようというわけだ。ただし、このことを取締役会で決めるには、ルノー側の取締役がマイノリティーになっている瞬間が必要になる。これは難しい。

今の日産にとって、ルノーと提携しているメリットはほとんどない。逆に、ルノーの利益の半分は日産に依存している。ルノーの現預金は約2兆円あるので、日産をいきなり完全子会社することは難しいにしても、出資比率を50%以上に引き上げて日産を子会社化する、あるいは出資比率を3分の2以上に引き上げる日産に対するTOB(株式公開買い付け)はあり得る。

日産がルノーの子会社になるのを阻止するためにはどうしたらよいのだろうか。ルノーに対して、最大株主として今回の事件の監督責任を問うことが必要だ。最後には、ルノーの送り込んだ経営陣に対して訴訟を起こすことも考えられる。

それぞれ極めて難しい交渉になるが、ここはルノーの監督責任と送り込んだCEOの不祥事、マクロン大統領との密約の有無、これらを白日の下に晒していくことが必要になってくるだろう。

大前研一

プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学名誉教授。