大前研一メソッド 2019年10月14日

最新鋭のミサイル防空網をドローンが無力に?



大前研一(BBT大学大学院 学長 / BOND大学名誉教授 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集部



2019年10月1日の中国建国70周年軍事パレードには米国本土を射程に収める大陸間弾道弾(ICBM)などとともに、最新型の軍事ドローン(小型無人機)が登場しました。9月10日付の軍系専門紙・中国国防報は、2050年までにAI独自の判断により無人機が作戦を展開するようになるという米側の分析を紹介。そのうえで「多数の無人機が蜂の群れのように目標を襲う手法が未来の重要な攻撃形態になる」と指摘しました。なぜドローン攻撃がそれほどまでに有効なのか、BBT大学院・大前研一学長に聞きました。

【資料】中国建国70周年軍事パレードに最新型ドローン登場、「未来の重要な攻撃形態」と専門紙(最終アクセス:2019年10月14日)
https://www.recordchina.co.jp/b749012-s0-c10-d0059.html

サウジアラビアの石油施設をドローンが攻撃

2019年9月14日、サウジアラビア東部の国営石油会社「サウジアラムコ」の施設2カ所が18機のレーダー破壊用自爆ドローンと巡航ミサイル7発を組み合わせた攻撃にあったと発表した。攻撃を受けて出火し、原油生産量のおよそ半分に当たる日量約570万バレルの生産が中断に追い込まれた。内戦中の隣国イエメンの反政府武装組織フーシ派が犯行声明を出した。

一方、サウジアラビア国防省は9月18日、攻撃に使用されたとする無人機や巡航ミサイルの破片を公開、フーシ派ではなく、イランが関与した証拠だと主張している。

サウジアラビアは数十億ドルも費やして、高高度からの攻撃に備える最新鋭の防空システムを導入しているが、今回のドローンと巡航ミサイルを組み合わせた攻撃は、レーダーによる検知やミサイル迎撃ができなかった。今回のドローン攻撃は、世界の軍事バランスに大きな影響を及ぼす重要な出来事だ。

日本では、北朝鮮などの弾道ミサイルを迎撃するため、秋田市と山口県萩市とに米国が開発した「イージス・アショア」(陸上配備型イージス・システム)の配備が予定されている(現地ではまだ承認されていない)。イージス・アショアはミサイルを検知できる。

ところがドローンが高度5~500メートルという「低空」で飛んできたら、レーダーは検知できない。今後、ステルス化(機体を敵のレーダーに捕捉されにくくする)の技術も上がってくるだろう。萩のイージス・アショアも簡単に叩くことができる。これは、非常事態だ。

米国は北朝鮮の脅威をあおって、日本にイージス・アショアを買えと迫っている。韓国にも弾道弾迎撃ミサイルシステムのTHAAD(サード)を買えと言っている。だが、ドローンが出てきたら、イージス・アショアもTHAADもあまり関係がなくなる。

フーシ派は記者会見を行い、サウジアラビアの石油施設への攻撃の詳細を明らかにした。それによれば、フーシ派が使用したドローン(サンマード3)の航続距離は1500~1700キロメートルであり、4つに分裂する高精度の弾頭と偽装・欺瞞機器を装備しているという。もっと伸びるだろう。しかも、1機が200万円程度と安い。(1発約300万ドルの迎撃ミサイルで対抗するのは費用対効果の面で全く割が合わない)。イエメンのフーシ派にしろ、イランのイスラム革命防衛隊にしろ、若干、知識があれば、簡単に組み立てられ、使いこなすことができる。

廉価でありながら防御にしにくいドローンはとてつもない脅威

世界中にミサイル防衛システムができ上がっているのに、それが通用しない兵器が、デリケートな施設をことごとく壊してしまう。ここは軍事的に極めて大きな変更を要求されることになる。高額なミサイル、およびその防衛システムなど無用になるかもしれない。

ということで、今回のサウジへのドローン攻撃は、いままでの常識をすべて壊してしまうぐらいのすごい出来事だ。しかも、軍隊でなく、素人の学生でも何人か集まれば、ドローンを使うことができる。

昨年夏、ベネズエラでドローンによるニコラス・マドゥロ大統領暗殺未遂事件が起こった。ネットで購入した市販のドローンに爆弾を搭載し、軍事式典に参加する大統領を狙ったものだ。プログラミングが悪くて失敗したが、兵士は負傷した。

また、世界最大のドローンメーカーDJIを有する中国はドローンの技術が発達していて、夜空に1000機のドローンがLED(発光ダイオード)の光で建国70周年を祝う絵文字を描くパフォーマンスを披露した。これを軍事的にプログラミングしたら、1000機を一斉に動かして、分かれて攻撃することができる。もし中国との戦争が起きたら一方的に、通常のレーダーに映りにくい安価な自爆ドローンによって重要インフラは炎上するだろう。

普遍化している技術を使って廉価で防御しにくい。とてつもない脅威だ。

【資料】世界の原油供給の2割を脅かすドローン攻撃 アラビア半島全土に広がる大規模爆撃の脅威(最終アクセス:2019年10月14日)
https://www.rieti.go.jp/jp/papers/contribution/fuji-kazuhiko/126.html?ref=rss

※この記事は、『大前研一のニュース時評』2019年9月29日を基に編集したものです。

大前研一

プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学名誉教授。