大前研一メソッド 2020年4月6日

外資系やIT系に転職する若手公務員が増加中



大前研一(BBT大学大学院 学長 / BOND大学教授 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集部

人材大手エン・ジャパンの転職サイトへの国家公務員と地方公務員の登録者数(教師や警察官などを除く)は2019年10~12月期は1万2379人で、前年同期に比べて22%増加したということです。2017年に集計方法などを変えたために単純比較はできませんが、登録者数としては2000年にエン・ジャパンがサービスを開始して以降で最高の数字となりました。

エン・ジャパンによると全体の登録数は3~4%増にとどまっており、公務員の登録者の増加は鮮明と言えます。実際に離職者数は増加しています。人事院によると、定年退職や任期満了を除く国家公務員(一般職)の離職者数は3年連続で増加しました。18年度は前年度比252人増の8893人でした。

同転職サイトに登録している公務員を年代別でみると、20代が前年同期比33%増の7244人と急増しました。外資系コンサルタントやITベンチャーに転職する例が多いと言います。若手公務員が民間に転職する流れは続くのでしょうか。BBT大学院・大前研一学長に聞きました。

【資料】転職希望の公務員が急増 外資やITへ流れる20代――日本経済新聞(最終アクセス2020年4月6日)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO56810020U0A310C2EA1000/

近畿財務局職員の自殺が、公務員離れに拍車か?

慶応大大学院の岩本隆特任教授の調査を上記の日本経済新聞記事は紹介しており、霞が関で働く国家公務員の残業時間は月平均100時間と民間の14.6時間の約7倍長い。精神疾患による休業者の比率も3倍高かった。中央省庁では若手を中心に国会対応で長時間拘束されることなどが長時間労働の原因となっている。

公文書の改ざんを上司に強要されて心身を病んだ末、公務員が自ら命を絶った事件も公務員離れを加速させるだろう。自殺した近畿財務局の上席国有財産管理官・赤木俊夫氏の遺書が発表されたことで、離職者の増加はさらに拍車がかかるだろう。赤木氏は、森友学園に関する財務省決算文書改竄(かいざん)に関与した後、苦痛と過労で鬱病を発症し、自殺に追い込まれた。

絶対服従の環境の中、部下のほうに全部責任を押しつけて当時の理財局長だった佐川宣寿氏は知らん顔である。麻生太郎財務相も安倍晋三首相も知らん顔である。こういった経緯を見たら、離職者が増えるのは当然だと思う。

【資料】自殺した近畿財務局職員の遺書 森友問題(最終アクセス2020年4月6日)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020031801182&g=soc

悪化する日本の財政状況では、公務員の年金も雇用も危うい

米国のコンサルティング会社「マッキンゼー・アンド・カンパニー」の日本支社長時代、私は公務員出身の人材を何人も採用した。採用した経験から、この人たちのいいところは、公務員の試験を受けるため、大学に入った後もずっと勉強をしていたことである。遊ぶことが目的で大学に進学してくる連中とは大違いである。

そういう意味で、私も随分と公務員出身の人材を採用し、仕事面でも助けられた。現在でも、優秀な人たちは引っ張りだこではないだろうか。

公務員になるメリットは年金額が高い点だといわれるが、民間でも年金が充実しているところはある。そう考えると、公務員のメリットは少ないのではないだろうか。メリットがあるとするならば解雇されないということぐらいだ。

しかし、2010年に財政危機に陥ったギリシャでは、公務員は3分の1が解雇された。日本の政府総債務残高の対GDP比は230%以上と世界一で現在も膨らみ続けている。この数字は財政破綻したスーダンやギリシャやベネズエラを上回る。日本の財政状況をみたら、3分の1ぐらい解雇しても間に合わない。

そういう意味で、公務員は「ギリシャで行われた公務員の解雇は明日のわが身」と覚悟しておいたほうがいい。

※この記事は、『大前研一のニュースの時評』 2020年3月29日 を基に編集したものです。

大前研一

プロフィール マサチューセッツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学教授。