大前研一メソッド 2020年2月17日

アマゾンに売り上げ劣勢の楽天、「送料無料」で迷走



大前研一(BBT大学大学院 学長 / BOND大学教授 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集部

楽天は2020年12月、ネット通販サイト「楽天市場」の1店舗で税込み3980円以上を購入した場合(沖縄県や離島を除く)、2020年3月18日から出店者の負担で送料を一律無料とする方針を出店者に通知しました。楽天の方針に対して一部の出店者は反発し、2020年1月には出店者の任意団体「楽天ユニオン」は公正取引委員会に調査を要請しました。

公取委は「無料化は出店者側に不当な負担を強いる可能性がある」との見方を強めており、2月10日には独占禁止法違反(優越的地位の乱用)容疑で楽天本社を立ち入り検査しました。楽天は独禁法違反にあたるのか、BBT大学院・大前研一学長に聞きます。

“場所貸し”に過ぎない楽天は、「送料無料」を出店者に強要できるのか

楽天の三木谷浩史会長兼社長は2020年2月13日、2019年12月期の決算説明会で、同年3月18日から送料を無料とする方針について「誤解を招く」として、「送料込み」という表現に改める考えを示した。3980円以上は「送料込み」で3979円以下は「送料含まず」という奇妙な価格設定になる。「(楽天市場に出店する)店舗側が価格を調整できずにコストが上がるという誤解があった。店舗に対しては、中長期で大きな損失が出ないように小売価格を調整していいということを周知徹底したい。『送料無料』の方が利用者には響きがいいが、誤解のないようにする」と質疑応答の中で回答した。時代の流れは送料無料だとし「当局が消費者の行動まで正確に理解し、判断しているかは疑問」とも述べた。

3月18日から導入予定の送料無料化は、出店テナントで構成される楽天ユニオンが「一方的な店舗への負担の押しつけ」と反対を表明し、公取委に「優越的な立場を乱用した一方的な規約の変更で、独禁法違反にあたる」として調査を要請した。公取委は事情聴取を始めている。また、日経新聞の報道によると、楽天から2019年12月に相談を受けた公取委は、「独禁法違反の恐れがある」と回答していたことが分かった。

三木谷氏は、送料の無料化によって新規顧客やリピーターが増え、「流通総額で十数%上がると確信している」と語っていたが、反発する出店者は「客単価が下がり、個別発送が増えて利益が減る」と主張する。「楽天は自分の懐を痛めず、流通業者との交渉も立場が弱い出店者に負わせている」という意見も根強い。公取委は「売上に寄与するかどうかは未知数で、結果的に出店者に不利益を及ぼす恐れもある」と判断しているようである。

この議論の背景には、楽天とアマゾンのビジネスモデルの違いがある。アマゾンは多くの商品を自分で購入して巨大倉庫に入れて在庫管理し、自分たちで流通業者に依頼するなど出荷管理もしている。もちろん出店者に対する支払いサイト(売掛金が支払われるまでの期間)などを長くして実質的にはいまだ購入したとは言えない商品もあるだろうが、基本的には「買い取り」制だ。だから「2000円以上買ってくれた人には送料無料」といったことは、自分たちの裁量の範囲で自由にできる。

一方、楽天は「場所貸し」をして中小の出店者を支えてきた。自ら商品を買って出荷しているわけではなく、出店者が在庫の管理をして出荷している。楽天は“展示場”に過ぎない。この場合、送料については当然、出店者の方に決める権利がある。

それをアマゾンに煽られ、「送料無料にしないとウチは負ける。アマゾンは2000円だから、楽天市場は倍近い3980円だったらいいのではないか」と言い出した。

アマゾンの送料無料に売り上げ劣勢の楽天は、出店者の送料負担で挽回したい

アマゾンと楽天ではビジネスモデルが違う。悔しいのだったら、楽天は出店者から全部商品を仕入れ、それで自分の力で物流倉庫を造るしかない。それをしないで、いきなり出店者に「送料無料にしろ」と言う。これが混乱の原因だ。

出店者の側も「一方的に送料負担を我々に押しつけるのは、赤字が増えるばかり」と反対するだけではこれまた知恵がない。「では、自分たちはこういうことをやりたい」と主張しないといけない。

「だったら、出店者は楽天ではなくアマゾンで売ってもらうようにすればいいだろ」という声も出てくるだろう。しかし、アマゾンでは儲からない。アマゾンの買い入れ価格は低いからだ。

その辺の違いがわからずに議論しても仕方がない。すでに日本では、アマゾンの方が楽天よりも売り上げも大きく、三木谷氏もアマゾンとのギャップを何とか埋めたいと焦っている。

ビジネスモデルの違いがここまで顕著に出てきているのに、これを「無料化」ということで全部乗り越えようとする三木谷氏の考え方は無理があると思う。在庫責任とか物流倉庫管理責任などを楽天と出店者のどちらが負うのか再定義をするのかどうかまで含めて議論を展開すれば、お互い納得する解決策が出てくるだろう。

※この記事は、『夕刊フジ 大前研一のニュース時評』2020年2月9日を基に編集したものです。

大前研一

プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学教授。