大前研一メソッド 2019年6月10日

前期赤字転落のRIZAPはⅤ字回復できるのか?



大前研一(BBT大学大学院 学長 / BOND大学名誉教授 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集部

フィットネスジムなどを展開するRIZAP(ライザップ)グループが5月15日に2019年3月期の連結決算を発表しました。それによると、純損益が193億円の赤字でした。

【資料1】「2019年決算説明会資料」(最終アクセス:2019年6月10日)
https://ssl4.eir-parts.net/doc/2928/ir_material_for_fiscal_ym/64630/00.pdf

前年は90億円の黒字でしたが、急速なM&A(合併・買収)で抱えた子会社の業績不振とその構造改革に絡む損失が膨らんだ結果です。

2019年5月30日には業務の主軸としてきた美容・ダイエット事業を発展させた形で、ヘルスケア市場に本格参入すると発表しました。具体的には、既に提携している全国183の医療機関と連携し、医師がライザップの各店舗を巡回して、客にアドバイスする施策を始めるというものです。

【資料2】
赤字ライザップが本業拡大しヘルスケアに本格参入 日刊スポーツ(最終アクセス:2019年6月10日)
https://www.nikkansports.com/general/nikkan/news/201905300000527.html


RIZAPはⅤ字回復できるのか、BBT大学院・大前研一学長に聞きました。

M&Aで事業規模を急拡大したものの、経営の力不足失速

ここ2~3年、RIZAPは美容ヘルスケア分野以外にも、アパレル、インテリア、雑貨、音響機器、出版、ゴルフ、英会話、料理教室などのライフスタイル分野、プラットフォーム分野のさまざまな業種の企業を積極的に買収した。2018年4月からはサッカーチームの湘南ベルマーレの運営にも乗り出している。

しかし、傘下に収めたCD販売のワンダーコーポレーションなどの再建に手間取り、業績が低迷した。

実質的に儲かっているのは、「結果にコミットする」のキャッチフレーズでおなじみ、大幅な体重減と体形改善を実現させる本業のフィットネス事業だけ。この中心的な事業の儲けで気が大きくなって、M&Aで事業規模を急拡大させたものの、これだけの事業をマネージしていく能力がRIZAPの中核部隊にはなかったことが露呈したのだ。

この会社は基本的に、美容ヘルスケア商品の販売などトレーニング関連だけにコミットすればよかったと思う。また、ゴルフ事業の場合、AI(人工知能)を駆使し、グリップからスイングまで細かく教えられると思うが、逆に、そのノウハウを真似するのも簡単なので株式市場は「リスク事業」と見るだろう。

グループを再編し、成長事業へ経営資源を集中

同社は2018年秋に新規のM&Aを凍結し、不振子会社の売却、店舗閉鎖など構造改革を行ってきた。さらに、2019年4月1日付でグループを再編し、中核子会社10社を選んで、その傘下に他の子会社を据える体制に移行した。

【資料3】全グループ会社を中核子会社10社の傘下に集約:「2019年決算説明会資料」p.41
https://ssl4.eir-parts.net/doc/2928/ir_material_for_fiscal_ym/64630/00.pdf

これにより、瀬戸健社長は「緊急性の高い構造改革は完遂し、膿は出しきった。今期は成長事業へ経営資源を集中して黒字化し、来期にはV字回復させたい」と強調している。しかし、私にはまだまだのような気がする。

本業である美容ヘルスケア事業の競争優位性を今後も発展・維持できるのか?

というのも、本業である“減量”事業についても、心配なことがあるからだ。この事業はまだノウハウが確立していない。優秀なインストラクターがいたときには効果が出るものの、その優秀なインストラクターはやはり給料に対する不満が出てくるはずだ。その人たちが社外に出ていくと、客も一緒についていってしまう可能性が高い。

もしノウハウが確立して、どんなインストラクターでもできることになると、今度はそのノウハウが同業他社にパクられてしまうだろう。非常に悩ましい事業なのだ。

芸能人を「結果にコミット」させておなかを引っ込めさせたが、その後、リバウンドした芸能人が複数いるといわれる。そういう点も考えると、本業そのものが、いまのようなやり方で持続できるのか、心配になってくる。

同社の本業を発展・維持できたら、素晴らしいことだと私は思う。ヘルスケア市場に本格参入し、減量数字だけでなく、わかりやすい“健康数字”を客に示し、減量数字と併せて健康数字の改善という方向性で「結果にコミット」するのが良いだろう。

※この記事は『夕刊フジ 大前研一のニュース時評 2019年6月1日』を基に編集したものです。

大前研一

プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学名誉教授。