大前研一メソッド 2019年7月1日

いずれ空き家となる実家、その使い道を考える



大前研一(BBT大学大学院 学長 / BOND大学名誉教授 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集部

茨城県日立市と地元の茨城大学工学部が連携して、市内の古い空き家を学生向けのシェアハウスに改修しました。このプロジェクトは大学側が市に提案、市は200万円の予算を計上して費用を補助しました。

学生が物件を探し、所有者の同意を得て、築45年の木造2階建ての家を建築業者の指導の下、リフォームしました。この春から男子学生が生活を始めています。市にとっては人口減少で増加する空き家対策の糸口になり、学生にとっては1万円以下の低賃料で住めるという双方にとってのメリットがあり、一石二鳥です。

【資料】
シェアハウスで空き家再生 市と茨城大、学生に低賃料(最終アクセス:2019年7月1日)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO45009440Q9A520C1CR0000/

日立製作所などの工場が並ぶ同市は、高度経済成長期に住んだ人たちが高齢化して空き家も増加、現在では市内だけで3000戸近い空き家があります。上記は小さいニュースですが、「こうした動きをもっと全国的に広げる必要がある」とBBT大学院・大前研一学長は言います。

「空き家問題」の背景に、世帯数の減少+日本人の新築志向(≒総住宅数の増加)

「平成30年住宅・土地統計調査結果」(総務省統計局)によると、空き家数は846万戸と,平成25年 と比べ,26万戸(3.2%)増加している。空き家率(総住宅数に占める空き家の割合)は,13.6%と0.1ポイント上昇し,過去最高を記録しました。

【資料】
平成30年住宅・土地統計調査 住宅数概数集計 結果の要約 (最終アクセス:2019年7月1日)
http://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2018/pdf/g_youyaku.pdf

野村総合研究所によると、世帯数の減少と総住宅数の増加に伴って、2033年の空き家数は2167万戸、空き家率は30.4%に増える見通しである。

【資料】
2030年の住宅市場 p.13(最終アクセス:2019年7月1日)
https://www.nri.com/-/media/Corporate/jp/Files/PDF/knowledge/report/cc/mediaforum/2016/forum236.pdf

「空き家問題」は日本人の新築志向も影響している。国土交通省の「既存住宅シェアの国際比較」によると、住宅流通量の中で中古住宅は米国、英国とも80%以上なのに、日本はわずか15%弱だ。また、住宅投資に占めるリフォームの割合はフランスが53%、ドイツ73%、英国55%なのに対し、日本は28%だ。

日本では新築した家にそのままずっと住み続ける割合が高い。英仏では200年前の古い家を購入してリフォームし、そこに何年か住んだ後、また別の中古住宅に移転してリフォームする。日本ではそうした習慣がないので、いつか空き家になって朽ち果ててしまうのだ。

【資料】
既存住宅流通シェアの国際比較 p.6
住宅投資に占めるリフォーム投資の割合の国際比較 p.8(最終アクセス:2019年7月1日)
http://www.mlit.go.jp/common/001156033.pdf

空き家を「民泊」として有効活用し、訪日外国人の宿泊の受け皿にせよ

訪日外国人が年間3000万人の時代なのに、欧州諸国に比べて日本は宿泊施設が圧倒的に足りない。これを解決するには空き家を利用し、有料で宿泊させる「民泊」を加速させなければならない。世界で一番、宿が不足しているのに、日本はほとんど民泊を活かしていない。

自宅の空き部屋を有料で貸したい人と安く泊まりたい旅行客を結びつける米国のウェブサイト「Airbnb」(エアビーアンドビー)は、世界で急速に普及しているが、日本では伸び悩んでいる。

2018年6月、住宅宿泊事業法(民泊新法)が施行されたが、営業日数が制限されたり、消防関連や鍵の受け渡しなど手続きの煩雑さもあって、まだまだ「規制しよう」という考え方が前面に出ている。空き家の多い日本は、考えを転換しないといけない。

既存の旅館やホテルだけでは、訪日外国人の2000万人までしか対応できない。大企業が大きなホテルを造っているが、それでも間に合わない。1000万人分ぐらいの宿泊施設が足りない。では、この1000万人がどうしているかというと、かろうじて泊まれる3~4人向けの民泊に10人ぐらいが宿泊しているのが現状だ。これは特に中国の人に多い。

この状況を正常化するには、空き家のリフォームと法の整備しかない。空き家に価値を見いだして有効活用できれば、大きな経済効果を生み出すことにつながるのだ。

※この記事は、『夕刊フジ 大前研一のニュース時評 2019年6月8日』を基に編集したものです。

大前研一

プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学名誉教授。