業界ウォッチ 2018年9月10日

教員のちょっと気になる「アニメ制作会社の売上高と年収」



執筆:谷口賢吾(BBT大学大学院 講師)

今回は、「アニメ制作会社の売上高と年収」を取り上げてご紹介いたします。

アニメ(アニメーション)と聞くと、どのようなイメージを持つでしょうか。子供向けと思う人もいれば、オタク向けのものと思う人もいるかもしれません。近年では、日本の主要なコンテンツ産業という見方をする人もいるかもしれません。

先日(8月10日)帝国データバンクが「アニメ制作企業の経営実態調査」結果を公表しましたが、それによると対象企業255社の2017年の収入高合計が2037億円となり、初めて2000億円台を突破し、過去最高を記録したそうです。

確かに、アニメ産業はコンテンツ産業として成長しているように思われますが、アニメ制作会社にどのくらいの恩恵がもたらされているのか、アニメ制作会社で働くアニメーターは恩恵を得られているのか、実際に数字で確認してみたいと思います。

まず、アニメ産業全体(※1)の市場規模の推移を見てみたいと思います。2002年の1.1兆円から2008年まで増加し続け、2009年に一度落ち込んだのち、横這いとなりましたが、2013年以降は急増し、2016年には2兆円台を突破しています。

それに比べて、アニメ制作会社の売上合計は1000億円台前半~2000億円程度となっています(※2)。アニメ産業全体に対する制作会社売上合計の割合は、2002年に12%でしたが、2004~2005年で17%台まで上昇しました。その後は下降し概ね11~12%台で横ばいとなっています。

それでは、アニメ制作会社で働くアニメーターの年収は、どのくらいなのか見てみたいと思います。少し古い数字ですが2013年で332.8万円という調査結果があります。(※3)

これを、他の職種と比較してみると、全産業・全職種の平均年収が491万円に比べると低い水準にあることが分かります。

職種平均年収だけ見ると、アニメーターよりも低い職種がいくつか存在していることが分かります。低い順では、ミシン縫製工(208万円)、洋裁工(232万円)、ビル清掃員(241万円)、スーパー店チェッカー(251万円)と年収200万円台が並んでいます。

ちなみに、アニメーターと同程度の年収の職種では、製材工(334万円)、タクシー運転手(332万円)、福祉施設介護員(330万円)などがあります。

このようにみると、アニメ産業全体が伸びている割には、さほどアニメ制作会社への恩恵が無いように見えます。アニメーターの年収も、全体平均よりも低い水準で、タクシー運転手や福祉介護職員と同レベルだということも分かりました。

成長するアニメ産業の中で、アニメ制作会社が成長していきたいのであれば、収入源の多様化や、給料を上げて人材を確保するなど、経営視点でアニメを捉えていくことが必要になるのではないでしょうか。

※1:TV・映画・ビデオ・動画配信などのコンテンツ市場、アニメ関連商品、アニメ関連音楽、海外向け、遊興(アニメ作品を使用したパチンコ・パチスロ台の出荷高)、ライブエンタテイメント(アニソンライブ、2.5次元ミュージカル、展示会等)などが含まれる。
※2:一般社団法人日本動画協会の推計値のため、帝国データバンクの調査結果とは数字が異なる。
※3:一般社団法人日本アニメーター・演出協会「アニメーション制作者 実態調査 報告書2015」

執筆:谷口賢吾(たにぐち けんご)

ビジネス・ブレークスルー大学、同大学院 専任講師
地域開発シンクタンクにて国の産業立地政策および地方都市の産業振興政策策定に携わる。
1998年より(株)大前・アンド・アソシエーツに参画。
2002年より(株)ビジネス・ブレークスルー、執行役員。
BBT総合研究所の責任者兼チーフ・アナリスト、「向研会」事務局長を兼ねる。
2006年よりビジネス・ブレークスルー大学院大学講師を兼任。
同秋に独立、新規事業立ち上げ支援コンサルティング、リサーチ業務に従事。

<著書>
「企業における『成功する新規事業開発』育成マニュアル」共著(日本能率協会総合研究所)
「図解「21世紀型ビジネス」のすべてがわかる本」(PHP研究所)