業界ウォッチ 2019年10月14日

教員のちょっと気になる「消費税(付加価値税)の国際比較」



執筆:谷口賢吾(BBT大学大学院 講師)

今週は「消費税(付加価値税)の国際比較」を取り上げてご紹介いたします。

今年の10月1日から消費税が10%に引き上げられ、食料品などに対しては8%の軽減税率の適用が開始されました。実際にどのくらいの経済的な影響があったのかは、もう少し様子を見る必要がありそうです。

ですが、報道等を見ると、経産省が主導するキャッシュレス還元ポイントや、対応レジの導入など、小売りの現場では混乱したところもあるようです。ネットでは、コンビニ等での店内飲食を申告せずに8%の税率で購入するイートイン脱税が話題となっています。

こうした、食料品に対する軽減税率制度ですが、世界的にはどうなっているのでしょうか。そもそも消費税率(海外では付加価値税)がどの程度なのでしょうか。食料品に対する税率がどのくらいで、国によって何らかの特徴があるのでしょうか。実際に数字を見て確認してみたいと思います。



税制は、国・地域によって異なり、一律横並びで見るのが難しいことが多いのですが、財務省がHPで「消費税など(消費課税)に関する資料」として国際比較したデータを公開してありますので、これをもと数字を見てみます。

まず、消費税率・付加価値税率を国際比較でみてみます。EU加盟国は、EU指令により付加価値税標準税率最低15%以上となっていますが、20%以上の国が多くなっています。最も高いのはハンガリーで27%、次いでデンマーク(25%)、スウェーデン(25%)、フィンランド(24%)、ギリシャ(24%)と続きます。EU加盟国ではルクセンブルクが17%と最も低くなっています。EU以外のOECD加盟国で見ると、ノルウェーが25%と最も高く、次いでアイスランド(24%)、チリ(19%)と続きます。この中で最も低いのはカナダの5%となっています。アジア・ASEANでみると中国が13%と最も高く、次いでフィリピンが12%となっています。この中で最も低いのは台湾の5%となっています。

次に、食料品に対する適用税率を見てみます。EU加盟国で見ると、最も高いのはデンマークで25%、次いでラトビア(21%)、リトアニア(21%)、エストニア(20%)と続きます。一方、アイルランド、イギリスは0%となっています。EU以外のOECD加盟国で見ると、チリが19%と最も高く、次いでノルウェー(15%)、ニュージーランド(15%)と続きます。一方、イスラエル、メキシコ、豪州では0%、韓国は食料品が非課税対象となっています。アジア・ASEANで見ると、中国が9%、シンガポールが7%、ベトナムが5%となっていますが、それ以外の国・地域では食料品が非課税対象となっています。

消費税・付加価値税率と食料品に対する適用税率に差が無い国は、デンマーク、バルト三国、チリ、ニュージーランド、シンガポールで、それ以外は食料品に対して低い税率・もしくは非課税としていることが分かります。特にアジアでは、食料品に対して非課税としている国が多いことが分かります。一方、先進国であるEU加盟国では、イギリス、アイルランド、ルクセンブルクといった金融の強い国の食料品に対する税率が低いことが分かります。

こうしてみると、税率・数字上では日本の消費税率、軽減税率は特殊なものではないということが分かります。ですが、税制は国・地域によって導入された背景が異なり、制度も全く横並びで比較できるものとは限らないため、その中身を精査する必要があります。

海外の付加価値税・食料品に対する適用税率の運用がどうなのか、日本に適した税制はどうなのか、しっかり見極めていくことが必要になりそうですね。

執筆:谷口賢吾(たにぐち けんご)

ビジネス・ブレークスルー大学、同大学院 専任講師
地域開発シンクタンクにて国の産業立地政策および地方都市の産業振興政策策定に携わる。
1998年より(株)大前・アンド・アソシエーツに参画。
2002年より(株)ビジネス・ブレークスルー、執行役員。
BBT総合研究所の責任者兼チーフ・アナリスト、「向研会」事務局長を兼ねる。
2006年よりビジネス・ブレークスルー大学院大学講師を兼任。
同秋に独立、新規事業立ち上げ支援コンサルティング、リサーチ業務に従事。

<著書>
「企業における『成功する新規事業開発』育成マニュアル」共著(日本能率協会総合研究所)
「図解「21世紀型ビジネス」のすべてがわかる本」(PHP研究所)