業界ウォッチ 2019年7月29日

教員のちょっと気になる「国内電子書籍市場」



執筆:谷口賢吾(BBT大学大学院 講師)

今週は「国内電子書籍市場」を取り上げてご紹介いたします。

先日、インプレス総合研究所が電子書籍市場に関する調査結果を公表しました。同調査結果によると、2018年の電子書籍市場規模は2826億円と対前年比26.1%増と推計されています。一方、電子雑誌市場規模は、296億円と対前年比6.0%減と推計されています。電子書籍と電子雑誌を合わせた電子出版市場は3122億円となっています。

電子書籍は、Kindleの登場で当初話題になりましたが、最近では話題というより定着しつつあるように感じます。

それでは本当に電子書籍は広まっているのでしょうか。電子書籍でコミックと普通の書籍で伸び方に違いがあるのでしょうか。年代別・性別で見ると、利用率に違いがあるのでしょうか。また、利用している電子書籍サービス・アプリは何が多いのでしょうか。実際に数字を見て確認したいと思います。



まず、電子出版(電子書籍+電子雑誌)市場規模の推移(2011~23年)を見てみます。‘11年の651億円から増加トレンドで、’18年に3122億円、2023年には4610億円にまで拡大することが予想されています。このうち電子雑誌は、’11年(22億円)から‘17年(315億円)まで増加トレンド出来ましたが、’18年(296億円)で初めてマイナスとなり、以降微減トレンドで‘21年以降は280億円で横ばいとなることが予想されています。

一方、電子書籍は、‘11年(629億円)から’23年(4330億円)まで増加トレンドが続いています。その電子書籍の中でも、「コミック」と、それ以外の「文字もの等」を分けてみると、どちらも増加トレンドとなっています。’18年で「コミック」が2387億円、「文字もの等」が439億円と、「コミック」が電子書籍の約84%を占めていることが分かります。

次に、年齢・性別の電子書籍利用率を見てみます。利用率全体では、男性では30代(52.4%)が最も高く、次いで20代(51.5%)、40代(46.3%)の順となっています。女性は20代(52.2%)が最も高く、次いで10代(50.5%)、30代(50.2%)がほぼ同じ利用率となっています。有料・無料の利用率の違いを見ると、男女ともに「無料のみ」の利用率が高い年代は10代で、「有料」の利用率では30代が最も高くなっています。

利用している電子書籍サービス・アプリを見ると、「Kindleストア」(24.2%)が最も高く、次いで「LINEマンガ」(23.3%)、「楽天Kobo電子書籍ストア」(12.4%)、「少年ジャンプ+」(12.0%)と続きます。

このように見てみると、電子書籍市場はコミックがけん引しており、お金を払って読んでいるのは20~40代が中心ということが分かります。10代が無料アプリでコミックを読むというのは納得ですが、20~40代が電子書籍でコミック有料版を購入しているとも考えられます。かつてコミックを読んでいた世代が、お金を稼ぐようになってコミックを省スペース化できる電子版で大人買いして読んでいるということなのかもしれませんね。

執筆:谷口賢吾(たにぐち けんご)

ビジネス・ブレークスルー大学、同大学院 専任講師
地域開発シンクタンクにて国の産業立地政策および地方都市の産業振興政策策定に携わる。
1998年より(株)大前・アンド・アソシエーツに参画。
2002年より(株)ビジネス・ブレークスルー、執行役員。
BBT総合研究所の責任者兼チーフ・アナリスト、「向研会」事務局長を兼ねる。
2006年よりビジネス・ブレークスルー大学院大学講師を兼任。
同秋に独立、新規事業立ち上げ支援コンサルティング、リサーチ業務に従事。

<著書>
「企業における『成功する新規事業開発』育成マニュアル」共著(日本能率協会総合研究所)
「図解「21世紀型ビジネス」のすべてがわかる本」(PHP研究所)