業界ウォッチ 2020年8月10日

教員のちょっと気になる「うがい薬」



執筆:谷口賢吾(BBT大学大学院 講師)

今週は「うがい薬」を取り上げてご紹介いたします。

先日(8月4日)、大阪府の吉村洋文知事が新型コロナウイルスの感染防止策にポビドンヨードを配合したうがい薬の使用を呼びかけたことから、ドラッグストアのうがい薬が売切れたり、ネット上で高値転売されたりするなどの現象が生じ、大きな話題となりました。

この「うがい薬」騒動を受けて、記者会見の元となった研究結果の方法論への疑問や、発表の仕方など、様々な批判や批判への反論など、論議が起こっています。

確かに、「うがい薬」や「ポビドンヨード」が新型コロナの感染防止に効果があると言えるのかどうかは、一般人には分からない点も多くあります。

それでは、「うがい薬」の市場規模はこれまでどのように推移していたのでしょうか。その内、ポビドンヨード配合のうがい薬の市場はどのように推移していたのでしょうか。直近の「うがい薬」や「ポビドンヨード配合うがい薬」の市場データは、なかなか専門機関でないと取得できませんが、これまでの過去のトレンドを、厚生労働省の「薬事工業生産動態統計調査」からその推移を数字で確認したいと思います。

まず、国内の「うがい薬」の市場規模(生産・輸入金額)の推移を、2008年から2018年(入手可能な最新データ)で見てみます。

08年は約97億円規模でしたが、翌年09年は「新型インフルエンザ」の流行により、199億円へと一気に拡大しました。翌10年は急速に落ち込み76億円となり、そこから13年(57億円)まで減少トレンドとなっています。以降は、増減しつつも概ね横這い傾向となっています。

次に、医療用医薬品、一般用医薬品別のうがい薬市場動向(生産+輸入金額)見てみます。

医療用医薬品うがい薬は、08年に約27億円でしたが、09年に42.5億円と跳ね上がり、翌10年には約23億円へと落ち込みました。以降微増トレンドで推移し18年には47.4億円となっています。一般用医薬品うがい薬は、08年は71億円でしたが、09年に約157億円と大幅に増加し、翌10年には53億円へと大きく落ち込みました。以降、14年(25億円)まで減少トレンドで推移しています。その後、増減しながら、横ばい傾向で18年は約26億円となっています。

また、「ポビドンヨード」配合うがい薬の市場動向(生産+輸入金額)を見てみると、08年は約14億円でしたが、09年に約27億円と大幅に増加し、翌10年には約8億円と3分の1以下にまで落ち込んでいます。以降14年(14.3億円)まで増加トレンドで推移しています。その後は増減が激しくなり、18年は輸入品(約2億円)を含めて約21億円となっています。

こうしてみると、09年に流行した「新型インフルエンザ」で、「うがい薬」需要が大きく伸びたものの、翌年に大きく落ち込み、それ以降は減少もしくは横ばい傾向となっていることが分かります。

今年は、「新型コロナウイルス」の影響で、大きく伸びることが予想されます。

別の調査ですが、インテージヘルスケアの調査(※)では、1月27日週からうがい薬(市販薬)が対前年比で245%伸びており、今回の大阪府知事の発表の前から、新型コロナ感染症対策として、うがい薬が伸びていることも分かります。

様々な情報に一時的に過剰にするのではなく、一般的な感染症対策としての「うがい」と、そのための「うがい薬」と見ていくことが大切なのかもしれませんね。

※2020年1月度 市販薬(OTC)市場 薬効別ランキング
https://www.intage-healthcare.co.jp/news/release/d20200227/

執筆:谷口賢吾(たにぐち けんご)

ビジネス・ブレークスルー大学、同大学院 専任講師
地域開発シンクタンクにて国の産業立地政策および地方都市の産業振興政策策定に携わる。
1998年より(株)大前・アンド・アソシエーツに参画。
2002年より(株)ビジネス・ブレークスルー、執行役員。
BBT総合研究所の責任者兼チーフ・アナリスト、「向研会」事務局長を兼ねる。
2006年よりビジネス・ブレークスルー大学院大学講師を兼任。
同秋に独立、新規事業立ち上げ支援コンサルティング、リサーチ業務に従事。

<著書>
「企業における『成功する新規事業開発』育成マニュアル」共著(日本能率協会総合研究所)
「図解「21世紀型ビジネス」のすべてがわかる本」(PHP研究所)