業界ウォッチ 2019年9月2日

教員のちょっと気になる「国民生活に関する世論調査」



執筆:谷口賢吾(BBT大学大学院 講師)

今週は「国民生活に関する世論調査」を取り上げてご紹介いたします。

先日(8月30日)、内閣府が「国民生活に関する世論調査」の結果を公表しました。同調査結果によると、現在の生活の満足度について「資産・貯蓄」の面で「不満」(不満とやや不満の合計)と回答した人が54.3%と、前年調査と比べて2.1ポイントの増加となりました。

今年の6月上旬の金融庁レポートで「老後2000万円不足」が話題となったこともあり、「将来の備えに対する関心が高まったのではないか」との内閣府の担当者のコメントがあったとの報道もありました。ちなみに、金融庁レポートは6月3日公開のもので、今回の世論調査調査時期は6月13日~6月30日となっています。

それでは、資産・貯蓄に対する生活の満足度・不満は長期的に見てどのように推移しているのでしょうか。また日頃生活する上での悩み・不安は、お金に関するものが多いのでしょうか。今後の生活で力点を置きたいことは「お金」に関することなのでしょうか。実際に世論調査結果の数字を見て確認したいと思います。

まず「所得・収入」、「資産・貯蓄」、「耐久消費財」、「食生活」、「住生活」、「自己啓発・能力向上」、「レジャ-・余暇生活」のそれぞれの面で「現在の生活の満足度」がどのように推移しているのか見てみます。

お金に関する項目としては「所得・収入」「資産・貯蓄」があげられます。これらについて「不満」と回答している人の割合は、「資産・貯蓄」が「所得・収入」を上回って最も高くなっています。’08年以降は「不満」が減る傾向にありましたが、’18~’19年で再び「不満」が増える結果となっています。

次に、「日常生活での悩みや不安の内容」を見てみると、最も高く出ているのが「老後の生活設計」で、次いで「自分の健康」、「家族の健康」、「今後の収入や資産の見通し」、「現在の収入や資産」と続きます。

この中で特にお金に関連する不安項目として「今後の収入や資産の見通し」、「現在の収入や資産」があげられますが、いずれも90年代後半に大幅に伸びており、2010年以降は増減しつつも横ばいトレンドとなっていますが、’17年以降は3年連続して増加しており、お金に関する不安が上昇トレンドとなっていることがわかります。

ちなみに、年代別では「今後の収入や資産の見通し」に対する不安が高いのは30代(54.5%)、40代(53.9%)でした。「老後の生活設計」に不安が高いのは40代(64.2%)、50代(71%)、60代(64.3%)となっています。

続いて、今後の生活の力点を、年齢・年代別に見てみます。「資産・貯蓄」に力点を置いているのは、20~50代と幅が広く、「所得・収入」に力点を置いているのは20~30代が中心となっています。「健康」については30代以降すべての年代で50%を超えて力点を置くとしており、60代以降では70%を超えています。

こうしてみると、「老後2000万円不足」が話題になっているものの、実際に「資産・貯蓄」を生活の力点に置くのは30~40代で、50~60代は「老後の生活設計」の不安があるものの「資産・貯蓄」よりも「健康」に力点を置いていることがわかります。

生活者の「不安」解消に事業機会を見出すとしたら、このあたりにヒントがあるかもしれませんね。

執筆:谷口賢吾(たにぐち けんご)

ビジネス・ブレークスルー大学、同大学院 専任講師
地域開発シンクタンクにて国の産業立地政策および地方都市の産業振興政策策定に携わる。
1998年より(株)大前・アンド・アソシエーツに参画。
2002年より(株)ビジネス・ブレークスルー、執行役員。
BBT総合研究所の責任者兼チーフ・アナリスト、「向研会」事務局長を兼ねる。
2006年よりビジネス・ブレークスルー大学院大学講師を兼任。
同秋に独立、新規事業立ち上げ支援コンサルティング、リサーチ業務に従事。

<著書>
「企業における『成功する新規事業開発』育成マニュアル」共著(日本能率協会総合研究所)
「図解「21世紀型ビジネス」のすべてがわかる本」(PHP研究所)