業界ウォッチ 2020年10月13日

教員ちょっと気になる「オフィス空室率・賃料」

今週は「オフィス空室率・賃料」を取り上げてご紹介いたします。

先日、仲介大手の三鬼商事が9月の東京都心5区(千代田、中央、港、新宿、渋谷)のオフィスビルの平均空室率に関するデータを発表しました。同発表によると、9月の都心5区平均空室率は、3.43%と前月から0.36ポイントの上昇となっています。平均空室率の上昇は7カ月連続となります。

 確かに、新型コロナ感染拡大後のリモートワーク・在宅勤務を実施する企業が増加し、渋谷区に集まっていたIT企業などを中心にオフィスの縮小・移転といった動きを見せています。都心部にオフィスを構えて高い賃料を払い続ける意義や、オフィス不要論が出るなどの指摘がありましたが、実際に統計にも現われるようになってきました。

それでは、空室率の上昇は、東京の都心部だけなのでしょうか。大阪、名古屋の都市中心部でも同じ動きを示しているのでしょうか。また、東京都心部の中でも、区によって空室率の上昇の違いがあるのでしょうか。空室率だけでなく、オフィス賃料にも変化が表れているのでしょうか。実際に数字を見て確認したいと思います。


教員ちょっと気になる「オフィス空室率・賃料」

 まず3大都市の中心部である、東京都心部(東京ビジネス地区)、大阪中心部(大阪ビジネス地区)、名古屋中心部(名古屋)の平均空室率の推移を見てみます。東京ビジネス地区は、2005年1月時点で6.01%でしたが、以降空室率は低下トレンドで08年1月時点の2.55%にまで低下します。

以降上昇トレンドとなり、リーマンショックを経て10年6月頃から9%前後で推移するようになります。12年6月に9.4%と空室率のピークを迎えた後、再び低下傾向へと転じます。新型コロナ感染拡大前の20年2月には1.49%と空室率最低値となりますが、以降上昇となり20年9月に3.43%となっています。

 大阪ビジネス地区、名古屋ビジネス地区も、空室率の数値自体は東京より高くなっているものの、概ね似たようなトレンドとなっています。どちらもリーマンショック前に低い空室率となり、その後リーマンショックで空室率が最高値となります。以降、空室率が低下トレンドとなり、コロナショック前に最低値となった後、上昇トレンドとなっています。

次に、東京ビジネス地区(都心5区)内で、空室率にどのような違いがあるか見てみます。コロナショック後、20年9月時点で空室率4%を超えたのは、渋谷区(4.48%)と港区(4.33%)でした。一方、同9月時点で、最も低いのは千代田区(2.38%)でした。

次に、同じく都心5区のうち、賃料の高い千代田区、港区、渋谷区のオフィス賃料の推移を見てみます。いずれの区もオフィス賃料は、リーマンショック前の08年前半に一度ピークを迎え、リーマンショック以降低下トレンドとなっています。13年後半から14年前半で底を打ち、以降再び上昇トレンドとなっています。コロナショック後の賃料下落に転じるのは、空室率と異なり少し時間差が生じています。渋谷区は、20年4月(2.55万円/坪)をピークに下落しています。千代田区は20年6月(2.47万円/坪)、港区は20年7月(2.35万円/坪)をピークに下落しています。

こうしてみると、コロナショック以降、東京だけでなく、大阪や名古屋でも都市中心部でのオフィス空室率が上昇していることが分かります。また、都内の中でもIT系ベンチャーが集積していたとされる渋谷や、港区の空室率が高くなっていることが分かります。


オフィスの空室率の上昇、高止まり現象は、リーマンショック後数年続いていた状況を考えると、今回のコロナショックでも、空室率の上昇がもうしばらく続くことが考えられそうですね。