業界ウォッチ 2020年6月29日

教員のちょっと気になる「コロナ禍における地方移住への意識変化」



執筆:谷口賢吾(BBT大学大学院 講師)

今週は「コロナ禍における地方移住への意識変化」を取り上げてご紹介いたします。

先日(6月21日)、内閣府による「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」結果が公表されました。

同調査は、緊急事態宣言が全面解除された5月25日~6月5日の間にインターネットで実施したもので、15歳以上を対象に約1万人(1万128人)から回答を得ています。生活意識の変化や、生活行動の変化、将来の生活意識・行動の変化など、幅広い項目について調査を実施しています。

この中で、「地方移住への関心の変化」について注目をしてみたいと思います。

コロナ禍によってテレワークが広まり、通勤の負担が減っただけではなく、「都心に住まなくても良いのではないか」、「テレワークなら地方で働いていても変わらないのではないか」といった声を耳にする機会が増えました。

確かに、テレワークであれば、通勤不要なので、通勤負担を減らすための都心居住の必要がなくなるという考え方は理解できます。それでは、本当に地方移住への関心が高まったのでしょうか。学生であれば、地方で就職しても良いと考えるようになったのでしょうか。実際に数字で確認したいと思います。

まず、年代別の「地方移住への関心」の変化を見てみます。最も地方移住に対する「関心が高くなった」年代は20代で22.1%でした。次いで30代(20.0%)、40代(15.2%)と続きます。最も低かったのは、50代以上で10.2%となっています。

最も高かった20代を居住地域別でみると、地方移住への「関心が高くなった」のは東京23区が最も高く35.4%、次いで東京圏(1都3県)が27.7%、大阪・名古屋圏(大阪府、京都府、兵庫県、奈良県、愛知県、三重県、岐阜県)が15.2%となっています。

次に、テレワーク経験がある人と、そうでない人で地方移住への関心に違いがあるかどうか見てみます。テレワークを実施していない「通常通り勤務」の人は、地方移住への「関心が高くなった」人が2.5%、「関心がやや高くなった」人が7.5%で、合わせて10%となっています。

一方、テレワーク経験がある人を見ると、地方移住への「関心が高くなった」人が6.3%、「関心がやや高くなった」人が18.3%で、合わせると24.6%となっています。

次に、学生に、将来進路として、東京圏での就職を志向するか、それ以外の地方での就職を志向するか意識の変化を見てみます。

「地方都市での就職志向が高まった」との回答が最も多かったのは、「東京圏出身の東京圏以外居住」の学生で22.2%となっています。次いで「地方出身の東京圏以外居住」の学生が21.1%、「地方出身の東京圏居住」の学生が15.5%、「東京圏出身の東京圏居住」の学生が4.5%となっています。

既に東京圏以外に居住している学生は、地方での就職志向が高まっていますが、東京圏に居住している学生は、地方での就職への関心が低いことが分かります。

こうしてみると、都心居住の20代、テレワーク経験者は地方移住意向が高く、東京圏以外(地方)に居住する学生は地方での就職意向が高くなったことが分かります。一方、50代以上の高齢層、テレワークをしていない層は地方移住への関心が低く、東京圏に居住する学生も地方での就職に関心が低いことが分かります。

かつてインターネットが広まりだした90年代後半から2000年代前半頃に「地方でも仕事ができる時代」として地方への人口移動が期待された時期もありました。しかし、2010年代のコロナ前の状況を見ると、結局都心部に人が集中する傾向が強まっていました。

さて、今回のコロナ禍を契機として、今度は地方に人がシフトするのでしょうか。現時点では、まだ見通すことは難しいですが、ことはそう単純ではなさそうに思います。とはいえ、大都市集中の是非を見直し、地方居住のあり方を含めて、いろいろ試してみる良い機会だとも言えます。「変わるかどうか」を予想するより、「変える」という意識を持って行動するかどうかが重要だと言えるかもしれませんね。

執筆:谷口賢吾(たにぐち けんご)

ビジネス・ブレークスルー大学、同大学院 専任講師
地域開発シンクタンクにて国の産業立地政策および地方都市の産業振興政策策定に携わる。
1998年より(株)大前・アンド・アソシエーツに参画。
2002年より(株)ビジネス・ブレークスルー、執行役員。
BBT総合研究所の責任者兼チーフ・アナリスト、「向研会」事務局長を兼ねる。
2006年よりビジネス・ブレークスルー大学院大学講師を兼任。
同秋に独立、新規事業立ち上げ支援コンサルティング、リサーチ業務に従事。

<著書>
「企業における『成功する新規事業開発』育成マニュアル」共著(日本能率協会総合研究所)
「図解「21世紀型ビジネス」のすべてがわかる本」(PHP研究所)