業界ウォッチ 2020年4月13日

教員のちょっと気になる「国内・世界の遠隔医療市場」



執筆:谷口賢吾(BBT大学大学院 講師)

今週は「国内・世界の遠隔医療市場」を取り上げてご紹介します。

先日(4/7)に、新型コロナウイルスの影響を受けて、日本でも7都府県を対象に緊急事態宣言が発令されました。感染者数の爆発的増大、医療現場の崩壊を食い止めるために、自宅待機要請がなされています。それに伴い、約108兆円規模の経済対策なども示されました。

医療現場での新型コロナウイルスの感染を防ぐために、政府(厚生労働省)は、受診歴がない「初診」患者に対しても、スマホなどのビデオ通過機能を使った「オンライン診療」を認めることを発表しました。

「オンライン診療」などを含めた「遠隔医療」は、インターネットが広がり始めた当初から注目されていた分野ですが、医療関連の規制が多く、部分的にしかできないサービスも多く、期待されている割には、なかなか広まらなかった分野だと言えます。それが、今回の新型コロナ禍によって、一気に規制緩和を進めることになりました。

それでは、国内の遠隔医療市場規模は、どの位の規模で、どのように伸びると予想されているのでしょうか。世界では、どの位の市場規模で、どの位伸びると予想されているのでしょうか。また、遠隔医療に関連するスタートアップにどの位の投資が集まっているのでしょうか。実際に数字を見て確認してみたいと思います。

まず、国内遠隔医療の市場規模を見てみます。矢野経済研究所が発表(2017年)した調査結果によると、15年は122.7億円でしたが、そこから増加トレンドで19年には199億円になると予測されています。また、必ずしも遠隔医療ではないのですが、野村総合研究所が「デジタルヘルスケア」市場として診療・治療の市場規模を予測しています。同調査によると19年は120億円でそこから市場がおおきく伸びることが予想されており25年には567億円規模になると予測されています。いずれにしても、新型コロナが発生する前の予測でも市場が大きく成長するという予測だったことが分かります。

次に世界の遠隔医療の市場規模を見てみます。調査会社グランドビューリサーチの発表によると、16年は249億ドルでそこから増加トレンドで、19年には414億ドル、27年には1551億ドルにまで急拡大することが予想されています。こちらは20年4月に発表しているので、新型コロナの影響を加味した市場規模予測となっています。

また、遠隔医療のスタートアップへの投資動向を見てみると、15年に16.5億ドルで、18年には48億ドルへと拡大し、19年は32.8億ドルとなっています。増減はあるものの、概ね増加トレンドとなっています。投資件数で見ても、15年は183件でしたが、19年には244件へと拡大しています。

こうしてみると、新型コロナウイルス感染拡大前でも、遠隔医療市場が伸びることが予想されていましたが、今回の医療崩壊のリスクを機に、大きく伸びることが予想されます。遠隔医療関連スタートアップへの投資も、現在のベンチャー投資動向からすると、一時的に落ち込むかもしれませんが、市場の拡大を想定すると、新型コロナ終息後伸びてくる可能市がありそうです。

遠隔医療は、医師の視点からするとリスクが高いなどの問題があるかもしれません。
しかし、世の中の流れをみると、遠隔医療市場拡大の方向で進みそうだと言えそうですね。

執筆:谷口賢吾(たにぐち けんご)

ビジネス・ブレークスルー大学、同大学院 専任講師
地域開発シンクタンクにて国の産業立地政策および地方都市の産業振興政策策定に携わる。
1998年より(株)大前・アンド・アソシエーツに参画。
2002年より(株)ビジネス・ブレークスルー、執行役員。
BBT総合研究所の責任者兼チーフ・アナリスト、「向研会」事務局長を兼ねる。
2006年よりビジネス・ブレークスルー大学院大学講師を兼任。
同秋に独立、新規事業立ち上げ支援コンサルティング、リサーチ業務に従事。

<著書>
「企業における『成功する新規事業開発』育成マニュアル」共著(日本能率協会総合研究所)
「図解「21世紀型ビジネス」のすべてがわかる本」(PHP研究所)