業界ウォッチ 2020年10月20日

教員ちょっと気になる「超富裕層の数・純資産の動き」

執筆:谷口賢吾(BBT大学大学院 講師)

今週は「超富裕層の数・純資産の動き」を取り上げてご紹介いたします。

先日、米調査会社のウェルスXが世界の超富裕層の動向についてまとめた「World Ultra Wealth Report 2020」を公表しました。今回の調査では、2019年の超富裕層の動きに加えて、2020年のコロナ禍の超富裕層の数や純資産動きをまとめています。


 同調査によると、世界の超富裕層数は、2019年末と比べて、20年3月末時点で-18%でしたが、20年8月末には同19年末比-3%にまで改善しています。純資産で見ても、20年3月末時点では19年末比で-28%でしたが、20年8月末時点では同19年末比-9%に改善しています。



 確かに新型コロナ感染拡大後、世界の経済活動が停滞したため、世界の超富裕層も影響を受けたことが想定できますが、20年3月末から20年8月末にかけて回復傾向にあるようです。
それでは、地域別に見るとどの地域の回復度合いが速いのでしょうか。どの地域の回復が遅れているのでしょうか。実際に数字を見て確認したいと思います。

教員ちょっと気になる「超富裕層の数・純資産の動き」

 まず超富裕層の数の動きを見てみます。19年末から20年3月末にかけて最も落ち込みが大きかったのは、北米および太平洋地域で19年末比-23%となっています。次いで欧州の-19%と続きます。最も落ち込み率が小さかったのは中東で対19年末比-10%となっています。


これが20年8月末になると変わってきます。最も落ち込みが大きかったのは太平洋地域で対19年末比-11%、次いで中南米-9%と続きます。一方、最も落ち込みが小さかったのは、北米およびアジアで対19年末比-1%となっています。

次に超富裕層の保有する純資産額の動きを見てみます。19年末から20年3月末にかけて最も落ち込みが大きかったのはアジア地域で、19年末比-31%となっています。次いで北米の-29%と続きます。


これが20年8月末になると、最も落ち込みが大きかったのはアジア・欧州・太平洋地域で対19年末比-13%となっています。一方、最も落ち込みが小さかったのは北米で対19年末比-3%となっています。次いでアフリカが対19年末比-4%と続きます。

こうしてみると、新型コロナの影響で20年3月末頃には、どの地域も超富裕層の数・純資産額が大きく落ち込んでいることが分かります。その後、20年末8月にかけての回復状況で、各地に差が表れています。特に、北米地域は20年8月末時点で概ねコロナ前の水準近くにまで回復していることが分かります。

北米の超富裕層の回復状況は、株式相場の上昇が要因ともいわれています。


米国では、依然としてコロナ感染者数世界トップで、失業者数・失業率の水準も高い状況ですが、その一方で、超富裕層は株高の恩恵でコロナ前の水準に回復しつつあります。こうした状況は、「K字回復」を示す一例とも言えそうです。


また、富裕層ビジネスを考える際には、こうした新型コロナ感染拡大後の地域ごとの富裕層の状況を見ることも参考になりそうですね。