大前研一メソッド 2023年9月26日

電動キックボードの規制を急がないと、交通事故は増える

e-scooter electric scooter

大前研一(BBT大学大学院 学長 / BOND大学教授 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集部

フランスのパリは2023年9月1日、電動キックボードのレンタルサービスを禁止しました。パリは電動キックボードのシェアリングサービスを2018年に受け入れた先行事例でしたが、現在は電動キックボードを規制する方向です。

日本では不可解なことに、2023年7月から規制を緩和する逆の方向に向かっています。東京・池袋の歩道で2023年9月6日、電動キックボードによるひき逃げ事故が発生し、歩行者が胸の骨を折る重傷を負い、運転者は道路交通法違反で逮捕されました。

電動キックボードによる交通事故が増える前に、規制強化を急ぐ必要があるとBBT大学院・大前研一学長は指摘します。

電動キックボード導入の先行都市パリは、シェアリングサービスを禁止

電動キックボードの規制緩和で、街の交通が混乱に陥っている。善良な市民が安全に街を往来できるよう、できるだけ早く現行ルールを見直すべきだ。

電動キックボードに規制緩和をもたらした改正道路交通法は、2023年7月1日から施行されている。従来、電動キックボードの走行は車道に限られ、運転には自動車の運転免許証所持やヘルメットの装着が必須だった。

しかし法改正によって、国土交通省が定める規格を満たした電動キックボードであれば、運転には免許が不要に。制限速度は時速30kmから同20km(歩道は同6km)に規制強化されたものの、16歳以上であれば誰でも電動キックボードの運転が可能になった。ヘルメットの装着は罰則なしの努力義務と化し、歩道でさえ走行可能となり、電動キックボードの普及に大きく与するような法改正である。

街中を見渡すと、交通法規に反した電動キックボードの乗り方をしている利用者がかなり目立つ。事実、都内では2023年7月だけで352件もの交通違反が取り締まりを受けた。電動キックボードが関係する人身事故はすでに8件も起きており、これでは冒頭に紹介したような悲劇的な事故がさらに増えるのも時間の問題だ。

法改正の背景には、電動キックボードのシェアリングサービスを提供する企業「Luup」のロビー活動がある。

シェアサイクルのように、小型モビリティのシェアリングサービスを認めて車の利用を減らすこと自体は、社会にとって良いことである。しかし、安全とのバランスを欠いた形で電動モビリティのシェアリングサービスを推し進めると、反発を招いてかえって普及が妨げられる。

実際、2023年4月にパリで実施された住民投票では、約9割という多数の住民が電動キックボードのシェアリングサービスに「反対」の意思を示した。パリ市当局は禁止をただちに発効せず、現行の認可が切れる2023年8月末まで運営を許可していた。

パリは2018年に欧州で初めて電動キックボードのシェアリングサービスを受け入れた都市で、社会的実験の先行事例である。日本は、パリという格好の先行事例があるにもかかわらず、規制緩和に突っ走っている。正気の沙汰ではない。

運転免許とヘルメット装着を必須にすべき

では、どうすれば電動キックボードの安全性を担保できるのか。自動車の交通ルールを知らない人が運転すると危険なので、まずは運転免許を必須にするべきである。

冒頭で紹介したひき逃げ事故により容疑で逮捕された運転者は「ルールを完全には理解しておらず、歩道を走行して良いか知らなかった」と話したという。

ヘルメットの装着も任意ではなく、バイクに準じて義務化するべきだ。

免許は道路交通法を学ぶという点で、50cc以下の原動機付自転車を運転できる原付免許さえ持っていればよい。それなら16歳から運転できる。そして、実際の運転も原付に準じるべきだ。

法改正して以来、歩道での運転が目につくが、冒頭で紹介したように、特に高齢者に衝突したら悲惨な事故につながる。また、一方通行の道路を(自転車と同じように)反対側から入ってくるが、これも危ない。歩行者にとってはハッとさせられる危険な走行になる。走行ルールを自転車並みに緩和してしまうと、酒気帯び運転等に対する規制が曖昧なので、むしろバイク並みに規則を厳格化し、法令遵守を徹底させるべきだった。

例えば、自動車の危険運転致死傷罪は、幼い姉妹が命を落とした東名高速の飲酒運転事故がきっかけで制定された。同様の事故が起きてからでは遅い。さらなる大事故が起こってからではなく、未然に防ぐために、早急な見直しが必要だ。

※この記事は、『プレジデント』誌 2023年9月1日号 を基に編集したものです。

大前研一

プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学教授。