業界ウォッチ 2021年10月5日

【データから読み解く】世界のフィンテック・ベンチャー投資動向

今年に入り、決済分野のベンチャー企業や、暗号資産・ブロックチェーン(NFT含む)や、スマホ少額投資、スマホ専用銀行など、フィンテックに関する報道を見かけることが多くなりました。


前回NFTについてお伝えしましたが、米大手決済のペイパルによる後払い決済(BNPL: Buy Now Pay Later)ベンチャーのPaidyの買収や、米グーグルによる日本のスマホ決済会社pringの買収など、フィンテック分野では投資活動が活発になっているようです。もちろん、日本国内だけでなく、世界各地でこの動きが起きているようです。


それでは、フィンテック・ベンチャーへの投資がどのくらい伸びているのでしょうか。主なフィンテック分野のユニコーン企業として、どの国のどのような企業がいて、時価総額はどの位の規模になっているのでしょうか。また、どういう分野のフィンテック企業がいるのでしょうか。実際に数字を見て確認したいと思います。

まず、フィンテック・ベンチャーへの投資動向を見てみます。2018年から四半期ベースで投資動向を見ると、18年第一四半期(Q1)は130億ドル、18年Q2で219億ドルと大きく伸びますが、18年Q3で89億ドルへと落ち込みます、以降100億ドル前後で推移しますが、21年に入りQ1で224億ドル、Q2で約300億ドルと大きくのびています。投資件数をみると、18年から20年にかけて概ね700~800件前後で推移していましたが、21年に入り1000件近くに大きく伸びています。このように投資額、件数の推移をみても、今年に入ってからのフィンテック投資が大きく伸びていることが分かります。

次に、世界の主なフィンテック・ユニコーン企業の時価総額(ここでは上場企業、未公開企業等を含む)を見てみます。最も大きいのは米決済ベンチャー大手のPayPalで3370億ドルとなっています。次いで、中国の金融会社アントグループで3210億ドル、米Squareが1160億ドル、オランダのAdyenが960億ドル、米Stripeが950億ドルと続きます。

時価総額上位企業の国を見ると、フィンテックが盛んな米国、中国の他に、上記オランダのAdyen(決済)や、スウェーデンのKlarna(460億ドル、決済)、ブラジルのNubank(300億ドル、バンキング)、豪州のAfterpay(290億ドル、レンディング)、韓国のKakaoBank(280億ドル、レンディング)、カナダのNubei(230億ドル、決済)、ニュージーランドのXero(220億ドル、会計)といった企業が入っています。

また、手掛けているフィンテック領域・カテゴリーを見ると、「決済」カテゴリーが最も多くなっていますが、この他に「バンキング」、「レンディング」、「投資」、「暗号資産」、「会計」といった分野の企業が上位に入っていることが分かります。

こうしてみると、フィンテック投資は21年に入ってから活発化してきており、米国や中国だけでなく、世界各地に広がっていることが分かります。また、フィンテック・ユニコーン企業が手掛けているカテゴリー領域で見ても、「決済」だけでなく、「バンキング」、「レンディング」、「投資」など広がりを見せていることが分かります。

背景には、何があるのでしょうか。社会的な背景としては、コロナ後のEC取引の増加、キャッシュレス化の流れ、脱クレジットカード(手数料回避、カードを持てない人のEC利用)の動き、スマホ取引の増加(小額決済・小額投資など、金融サービスを利用する人の増加)などが考えられそうです。技術面では、ブロックチェーンといった技術以外に、銀行機能のオープン化・異業種参入促進といった動きが相まって生じているものと考えられます。

技術進化に加え、スマホ取引の浸透、金融サービスを利用する人達の裾野の拡大(金融包摂、ファイナンシャル・インクルージョン)、そして今後予想される、中央銀行発行のデジタル通貨の導入を考えると、しばらくはフィンテック動向に注目すると良さそうですね。

出典:
KPMG ”Pulse of Fintech H1’21”

FintechLive “Fintech Unicorns of the 21st Century”