業界ウォッチ 2021年9月7日

【データから読み解く】空飛ぶクルマ市場規模と成長可能性

今回は「空飛ぶクルマ市場」を取り上げてご紹介いたします。

最近、空飛ぶクルマに関する報道をよく見かけるようになりました。先日、日本航空が、独ボロコプター社が開発した機体を用いて、2025年から三重県での旅客輸送サービスを開始するとの報道もありました。

少し前までは空飛ぶクルマはSFの世界で、まだ夢の技術という状況でしたが、この1~2年で、空飛ぶクルマの機体開発、輸送サービスの実現化の見通しが立ってきたようで、世界的にも同市場への期待・注目が集まっているようです。

それでは、空飛ぶクルマ市場はどの位の規模で、どの位伸びると予想されているのでしょうか。どの国、地域の市場が大きいのでしょうか。また、空飛ぶクルマの輸送サービスにはどのような種類があるのでしょうか。日本国内では、どのくらいの市場規模になる見通しなのでしょうか。実際に数字を見て確認したいと思います。

まず、世界の空飛ぶクルマ市場規模の予測を見てみます。米モルガンスタンレーの推計によると、2020年には73.7億ドルでしたが、そこから増加トレンドで2030年には約3200億ドル、2040年には約1兆5000億ドルに達すると予測しています。国別・地域別で最も大きい市場は中国で、2020年に24億ドル、2030年に約1500億ドル、2040年に4300億ドルに達すると予想されています。次いで大きいのは米国で、20年が20億ドル、30年が564億ドル、40年が約3300億ドルとなっています。

なお、空飛ぶクルマの市場規模推計を公表している会社は多数ありますが、市場定義や範囲の設定、推計時期によってかなりばらつきがあります。この中で、モルガンスタンレー社の推計値が最も大きな値となっています。(他社よりも一桁近く大きくなっている)

従って、規模そのものを他社の推計と比較するよりも、同じ調査結果の中で、市場の伸び率や、国・地域別の規模間の違いをみる方が、意味のある解読となります。

次に、空飛ぶクルマの旅客輸送サービス市場を見てみます。こちらは独ローランドベルガー社の推計値です。同推計結果によると、2030年は10億ドルでしたが、2040年には160億ドル、2050年には900億ドルとなっています。このうち、輸送経路別で見ると、2050年でエアポートシャトルが450億ドル、都市間輸送が360億ドル、シティタクシーが90億ドルとなっています。

その次に、国内の空飛ぶクルマ市場を見てみます。こちらはPwCコンサルティングによる推計です。同推計によると、2025年は数百億円程度ですが、2030年で約7000億円、2040年で約2.5兆円となっています。その内訳を見ると、2040年で物資輸送サービスが全体の54%、旅客輸送サービスが27%、物資輸送機体が11%、旅客輸送機体が5%、その他(周辺サービスを含む)が3%となっています。

こうしてみると、2020年代はさほど大きくはない市場でも、2030年以降に市場が相当大きくなると予想されていることが分かります。
また、用途として旅客輸送では都市内移動手段としてのシティタクシーよりも、空港へのシャトル用途としてのエアポートシャトルや、都市間輸送などの比較的距離の長い用途が多いことが分かります。また、PwCの調査からは、機体開発そのものよりも、輸送サービスの市場が大きいこと、旅客輸送サービスよりも、物資輸送サービスが大きいことが分かります。

安全面、法制度などクリアするべき課題は大きいと思いますが、VC投資資金などの流入が伸びているとの調査もあり、今後も期待できる分野といえるのではないでしょか。
新たな乗り物が普及することによって、どのようなニーズが掘り起こされ、どのようにライフスタイルや、都市の姿が変わるのか、今のうち考えてみるのも良さそうですね。

出典:
“Are Flying Cars Preparing for Takeoff?”
“The high-flying industry: Urban Air Mobility takes off”
“空飛ぶクルマ”の産業形成に向けて―地域での産業形成の核となる「インテグレーター」への期待―”