大前研一メソッド 2021年12月21日

2022年、GAFAMの先頭集団から抜け出る、抜け落ちる企業は?

2022年、GAFAMの先頭集団から抜け出る、抜け落ちる企業は?

2021年最後の号となる本コラムでは、GAFAMの経営を一望し、最も強みとおもしろみがある企業はどこかをBBT大学院・大前研一学長に聞きました。これまでは一括りで語られることが多かったGAFAMですが、水面下ではひと塊の先頭集団から徐々に上位と下位に分かれていく兆候が現れつつあると大前学長は指摘します。GAFAMの個々の企業について、見ていきましょう。

大前研一(BB大学院 学長 / BOND大学教授 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集部

メタ(フェイスブック):ザッカーバーグ氏は夢遊病的者のようにさまざまなことを考える

マーク・ザッカーバーグ氏はハーバード大学の学生時代にフェイスブックを立ち上げたが、他人のアイデアを盗んだと訴訟を起こされている。似たようなSNSで先行している企業もあった。いつの間にか先頭に走り出て、SNSの代表格になった理由は、彼自身も説明できないだろう。自分がコントロールできない企業をつくってしまったのだ。

フェイスブックはユーザー数が28億人以上でSNSでは世界トップだ。シェアが高く儲けすぎるから、情報を恣意的にコントロールしているのではないか、と叩かれている。

元社員のフランシス・ハウゲン氏が米国議会と英国議会の公聴会で「ユーザーへの悪影響を認識しながら、利益優先で安全対策を怠った」と告発した。しかし一方では、「ザッカーバーグ氏自身も犠牲者かもしれない」と話している。彼はすべてをコントロールできないが、ほかにコントロールする人間はいない。彼女のような社員が会社を変えたいと言っても、この“ザッカーバーグ&カンパニー”は耳を貸さずに、「株主の期待に応えるため」と前進してしまうのだ。

ザッカーバーグ氏は夢遊病者のようにさまざまなことを考える。2019年に発表した仮想通貨「リブラ(Libra)」もその1つだ。ドル、ユーロ、円など既存の通貨を交ぜた加重平均のようなデジタル通貨をつくる構想だ。

彼の頭のなかでは、アマゾンやグーグルに対抗する自分なりの戦略だ。ユーザーはデジタル通貨をフェイスブックの財布に預ければ、他のサイトでも買い物ができる。アマゾンが強くても、「自分たちがお客さんの財布を握っていればアマゾンより優位な立場になれる」という幻想が、ある朝目覚めたら出てきたのだろう。

ところが、リブラはG7の財務相・中央銀行総裁会議でやり玉にあげられ、ザッカーバーグ氏は公聴会に呼ばれてサンドバッグ状態になった。内容を見直し、2020年に「ディエム(Diem)」に名称を変更し、本部もスイスに移した。当初は2020年発行の計画だったのが、まだスタートの見通しは立っていないし、実質的には休業状態に追い込まれている。

彼は状況が悪化すると、名前を変える癖がある。フェイスブックからメタへの社名変更は、フェイスブックの名が悪の象徴になったから、生まれ変わるつもりなのだろう。これまでのSNS中心ではなく、バーチャル空間で勝負する。ハイパー金余りのなかで“宇宙遊泳”していると、非現実世界(メタバース)にいく幻想に至るのだろう。

アマゾン:ジェフ・ベゾス氏の事業上の浮気と私生活上の浮気は治らない?

アマゾンのジェフ・ベゾス氏も奇抜な事業家だ。1994年の創業時から、AtoZでなんでもそろう「世界最大の小売業」をめざしたビジョン型の経営者だ。実際に、世界最大売り上げの小売業者ウォルマートでさえ“アマゾン恐怖症”になるほど、小売業で大きな力をもつに至った。

ベゾス氏も宇宙遊泳をしているが、経営者としてはやるべきことはすべてやっている。

Eコマースは3つの要素がそろわなければ成功しない。第1の要素がアイボール・トラフィック(目の交通)。多くの人がウェブサイトに来て見てくれるということだ。

第2が顧客の財布を握ること。アマゾンにクレジットカードを登録した人は、ほかのサイトを利用したがらない。20年以上前に論争を呼んだシングル・サインオン(SSO。1つのIDとパスワードを入力して、複数のウェブサービスやアプリケーションにログインする仕組み)だ。だから、多くの企業が「アマゾンで売りたい」と集まってくる。

第3がロジスティクス。アマゾンは米国全土で通常は翌日配達、プライム会員は即日や数時間後に届ける仕組みができている。

だが、GAFAM経営者によくあるのは、経営は非常にしっかりしているが、成功と間尺に合わない多額の金を手に入れると浮気しはじめる点だ。事業上の浮気と私生活上の浮気があって、事業上の浮気相手に選ばれやすいのが宇宙ビジネスだ。

ベゾス氏は、2021年7月に自分が保有する宇宙開発企業ブルーオリジンのロケットに搭乗し、4分ほど無重力状態を経験した。だが、有人飛行ではイーロン・マスク氏が創業したスペースXに大きく水をあけられている。ベゾス氏はマスク氏と違って自分でロケットを設計できるエンジニアではないから、いずれ事業をコントロールできなくなり、経営から手を引くかもしれない。

アマゾンの事業で、収益源の1つとなったのが、クラウドサービスのAWS(アマゾン・ウェブ・サービス)だ。「AWSはすごい」ともてはやす人は少なくないが、私に言わせたら、次の展開はあまり期待できない。同様のサービスは他社がすぐ真似できるし、マイクロソフトやIBMあたりも、遅ればせながら力を入れて台頭してくることも考えられる。

アップル:安全性が肝の自動運転EVに本格参入を果たせるか?

アップルの創業者スティーブ・ジョブズは、英雄のまま人生を終えることができた。彼も不安定なところがあって、何か言い出すと社内は混乱した。私はジョブズに会ったことがある。1985年にアップルから追い出された時だった。

彼からCEOを引き継いだティム・クック氏は、実に安定した経営者だ。彼を選んだことは大正解だった。iPhoneは「新機種が出るたびにつまらなくなる」と評価されるものの、会社の収益は目覚ましい。

アップルは自社開発のiOSとmacOSなどでパソコン、スマホ、タブレット、腕時計などの製品を固めてきた。新たに取り組んでいるのは、自社OSを心臓部とする完全自動運転の「アップルカー」だ。

試作車はすでにあり、2024年の量産化を計画していると言われている。製造については、iPhoneの8割以上を受注した台湾の鴻海(フォックスコン・テクノロジー・グループ)、カナダの自動車部品メーカーのマグナ・インターナショナルと韓国のLGによる合弁会社などが名乗りを上げている。

ファブレス企業(生産施設を自社で持たない企業)のアップルは、発注先への要求が厳しい。初期のiPodやiPhoneでは、世界最強の部品サプライヤーをそろえていた。きめ細かい調査で最強の部隊をつくり、レベルを引き上げていくのがアップル流だ。ただしコストが折り合わないと、情け容赦なく、中国企業などに切り替えてしまうところもある。

アジアの製造業を熟知するアップルは、テスラに負けないほどEVで成功する可能性がある。1台10万円前後のスマートフォンに比べ、自動運転EVは少なくとも10倍以上の価格になる。成長戦略として参入せざるをえないのかもしれないが、安全性が肝であるモビリティ業界に本格参入したときに誰がアップルを経営するのか、という疑問も残る。

アルファベット(グーグル):自動運転と検索を起点として、地球とサイバー空間を支配へ

つまり、いまは膨大な数のサイトが、グーグルの大きな手のひらで踊らされているわけだ。アマゾンはみんなの財布を握るのに30年近くかけたのに、グーグルは短期間で近いところまでいける。すなわち、グーグルにクレジットカードを1回登録すれば、検索でヒットしたサイトで予約や買い物ができる、前述のシングル・サインオンだ。Eコマースからレストランやホテル予約まで、AtoZになんでもグーグル上で行うことができるようになる。

そして、グーグルマップを運用するアルファベットは、傘下のウェイモという会社で自動運転技術の研究を進めている。ストリートビューの撮影で世界中の地図をデータ化し、実際に自動運転で撮影してきたのだ。

アルファベットはこれから“検索即購買”のEコマースと、自動運転の2分野でさらに強くなると予想できる。

マイクロソフト:ユーザー企業の業務に深く立ち入っていけるか?

最後に、マイクロソフトはGAFAMの中で最も安定している。裏返すと、おもしろみがない。基本的にはウィンドウズとオフィスに代表されるように、デスクトップ・チャンピオンだ。

しかし、ユーザーとの間にポータル的なつながりはない。無味乾燥なビジネスユースであり、近年もワードやエクセルなどの「オフィス365」(現マイクロソフト365)がサブスクリプション・モデル(年額・月額の継続購入モデル)で収益を上げたこと以外に大きな変化はない。スマホでも、iOSとアンドロイドに並ぶOS開発には成功していない。巨大産業であるモビリティ分野にも本格的な参入はしていない。

得意なビジネスシーンには、開発テーマは山のようにあるはずだ。例えばセールスフォース・ドットコムが提供しているCRM(顧客関係管理)などのクラウド・サービスのほか、会計ソフト、電子契約サービスなどは、マイクロソフトが一元的に提供してもおかしくない。あるいは、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を用いた間接業務の効率化ツールも、マイクロソフトがまとめて提供すれば、デスクトップ・コンサルティングとしての役割を担えるだろう。

デスクトップにあるものはすべてカバーできるのに、ユーザー企業の業務に立ち入った形で手を出さないのは不思議だ。リソースはリンクトインを買収した時のように買収で集めてもいい。無味乾燥なビジネスユースだけになっているのはもったいない。

以上、GAFAMの経営を一望してみて、最も強みとおもしろみがあるのは、グーグルのアルファベットだ。他社の経営者が“宇宙遊泳”や“現実逃避”をしているなかで、インド出身のCEOサンダー・ピチャイ率いるアルファベットが“次の動き”をしたときには、自動運転と検索を起点として、地球とサイバー空間はグーグルに支配されることになるだろう。

※この記事は、『プレジデント』誌 2021年12月31日を基に編集したものです。

大前研一

プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学教授。