大前研一メソッド 2022年6月21日

5,6年後に日本の1人当たりGDPは、韓国と台湾に抜かれる

GDP

大前研一(BBT大学大学院 学長 / BOND大学教授 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集部

日本の1人当たりGDPは、2020年時点では3万9890ドル(約452万円)と、韓国を25%、台湾を42%上回っていました。しかし、その後の数値を試算すると、2025年までに韓国は年6%増、台湾は年8.4%増であるのに対し、日本は年2%と伸びが鈍化しています。

このままいけば、日本の1人当たりGDPは、2027年に韓国、2028年には台湾に抜かれるのは間違いないとBBT大学院・大前研一学長は予測します。日本の1人当たりのGDPが韓国や台湾に抜かれていくために、日本人の給料も、韓国や台湾に抜かれていっているのです。

1人当たり名目GDPは、国民全体の1年間の付加価値を総人口で割った数値のことで、労働生産性、平均労働時間、就業率で説明できる。つまり、日本は韓国と台湾に比べ、労働生産性が著しく低いのだ。

たとえば、行政面では、韓国や台湾が行政手続きの電子化を進めているのに対し、日本はいまだに押印やサインを必要とするなどアナログ中心である。

新型コロナウイルス対策でも、台湾ではデジタル担当大臣のオードリー・タン氏が「マスクマップ」や「ワクチン接種の予約システム」を開発するなどして迅速に対応しているのに、日本はマスクや給付金を配るのにも手間取っている。

では企業はどうかというと、韓国も台湾も新型コロナウイルスのパンデミックが起こる以前から多くの企業がテレワークを取り入れ、仕事の効率化を図っていた。一方、日本はコロナ禍でテレワークが普及したものの、緊急事態宣言が解除されると、また元に戻りつつある。

1人当たりGDPが低いままということは、富を創出できていないことであり、給料の原資が乏しいということである。3年前には平均賃金で韓国に抜かれてしまっている。このように、1人当たりGDPが低いということは、給料が低さに直結する話なのである。

日本人の給料が上がらない理由は、大きく2つある。

日本人の給料が上がらない理由その1:労働生産性が低い

1つは「労働生産性の低さ」だ。

日本の1人当たり労働生産性は、OECD(経済協力開発機構)37カ国中26位(2019年)と、G7のなかで50年以上も最下位を続けている。

とくに間接業務でDXの導入が遅れているのが、致命的だと言っていい。

たとえば、生産性を向上させて賃上げをしたとしよう。これは難しいことではない。DXツールやロボットなどを活用して、それまで100人で行っていた仕事を10人で行うようにすればいいだけの話だ。

この場合、問題は余った90人をどうするかだ。ドイツなら会社は躊躇なく外に出す。そして、出された人には国が責任を持って再教育を施し、戦力化するのである。

ところが、日本では正規労働者は解雇規制で守られているため、簡単にリストラすることができないのだ。無理やりやればできないことはないが、そうすると今度は「悪徳経営者」「血も涙もないのか」と叩かれるので、手をつけにくいのである。

だからといってリストラしなければ、DXで生産性を向上させても、効果は大して出ないということになってしまうのだ。

日本の労働市場が未成熟というのも、労働生産性が上がらない要因のひとつになっている。社員を解雇する際のハードルが高い解雇規制が諸悪の根源であることはもちろんだが、それに加え、日本にはリストラされた人たちが学び直すためのリカレントやリスキリングといった学び直しの機会や場所が用意されていないのも問題だ。

職業安定所(ハローワーク)は、雇用保険に入っている人を対象としているため、失業保険を受給していないアルバイトやパートの人は、公共職業訓練を受けることができない。

また、職業訓練校のプログラムを見ると、左官工や溶接工といった19〜20世紀の工業化社会を想定した科目がいまだに主流で、デジタル主導の21世紀型の教育がなされていない。これではスキルを身につけても、再就職に苦労するのは目に見えている。

それから、DXを進めようにも、日本企業にはそれを進められるIT人材が足りない。一般企業では年功序列でしか給料が上がらないため、優秀なIT人材はどうしてもIT業界に集中してしまうのだ。

日本人の給料が上がらない理由その2:終身雇用

日本人の給料が上がらないもうひとつの理由として「転職をせず、最初に入った会社で定年まで勤めあげる」というスタイルが長らく働き方のスタンダードになっていたことが挙げられる。

米国では、高い給料を求めて労働者が移動するのは当たり前のことである。別の業種のほうがいい給料を払ってくれるとわかれば、学び直して必要なスキルを獲得し、これまでとは違う仕事に就くのも珍しくはない。高給を求めて海外に移住するケースもある。

そうすると企業も、優秀な人材が欲しければそれに見合う給料を支払わなければならなくなる。高い給料を払うには生産性を上げなければならないから、DXもどんどん導入するわけである。

ところが、日本の労働者は給料が低くても転職をしようとしない。日本にも、32歳の平均年収が2000万円というキーエンスのような給料の高い会社も存在するのだ。海外であれば入社希望者が殺到するだろう。だが、日本ではそんな話は寡聞にして存じ上げない。それでいて、同じ会社の中なら同期よりボーナスが10万円低いだけで、夜も寝られないほど悔しがるというのだから、日本人というのは実に不思議なメンタリティの持ち主と言うほかない。

大学を出たばかりのIT技術者でも、優秀なら1年目から1000万円以上の年収が支払われるというのが、世界の常識なのである。日本では新卒IT技術者の初任給は一律24万円で、それでも人が採用できるというのは、こちらのほうが異常だと言わざるを得ない。

転職をしないというのは、自らリスクをとって起業もしないということだ。これでは、ユニコーン企業が日本に生まれないのも仕方がない。

※この記事は、PRESIDENT Online https://president.jp/articles/-/58608、『大前研一ライブ』 2022年6月19日放送 を基に編集したものです。

大前研一

プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学教授。