大前研一メソッド 2022年3月22日

戦時下、ロシア国民の生活はどうなっている?

Russian ruble

戦時下、ロシア国民の生活はどうなっている?

米国の政治学者でコンサルティング会社米ユーラシア・グループ社のイアン・ブレマー氏によると、ロシアの国内総生産(GDP)は米ニューヨーク州よりも小さく、低迷するロシア経済は欧米からの制裁により今後1年間で10%以上縮小する可能性が高いと言います。加えて、ロシアの金融システムは崩壊の危機にひんしている状況です。

戦時下、ロシア国民の生活はどうなっているのか、BBT大学院・大前研一学長に聞きました。

大前研一(BBT大学大学院 学長 / BOND大学教授 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集部

クレジットカードが国内外で使えない

ロシアのウクライナ侵攻を受け、国際金融システムからロシアを排除する動きが広がっている。その中の1つ、米国のクレジットカード大手のVASAとマスターカードがロシアにおける業務を停止したことは、ロシアの一般国民に対して大きな影響を及ぼしている。

これにより、ロシア国外の金融機関が発行したカードであっても、加盟店やATM(現金自動預払機)でのクレジットカードやデビットカードの利用ができなくなる。

ロシアではキャッシュレス決済の比率は上昇しており、最近の調査では約6割ともいわれている。そのうち、VISAとマスターが占める比率は約7割と高い。カード決済が当たり前だったのに、利用できなくなるわけである。

そのため、現金が必要になってくるが、キャッシュを家に置いていると物騒なので、結局、ATMに行って都度、現金を引き出さなければならない。しかし、カードが利用できないATMもあって、現金を取り出すことができない。利用できるATMには何時間も並ぶことになる。したがって、結構、一般市民の間では混乱が広がっている。

影響は、ロシアからの海外旅行先にも及んでいる。AP通信によると、ロシア人に人気のタイのリゾート地、プーケット、パタヤ、クラビなどでは観光に訪れたロシア人6500人以上が立ち往生している。ルーブルやクレジットカードが使えなくなり、帰国ができなくなっているのだ。

ロシアの最大手の銀行のズベルバンクなどは、ロシアの決済システム「MIR(ミール)」と、中国の「銀聯(ユニオンペイ)」を利用したカード発行を検討しているが、普及にはかなり時間がかかるだろう。

インフレを見越して、金持ちはルーブルを自動車に換金

これに加え、スーパーではいろいろな食材を買い急ぐ動きも目立ち、独立系新聞「ノーバヤ・ガゼータ」によると、モスクワの大型スーパーチェーン「アシャン」では砂糖、塩、小麦粉などについて、1人が買える量を制限し始めた。

また、マクドナルド、コカ・コーラ、スターバックスコーヒー、ナイキといった米国を代表する企業や、スウェーデンの家具販売大手イケア、同カジュアル衣料大手ヘネス・アンド・マウリッツ(H&M)、フランスの高級ブランドのエルメスなどもロシアでのビジネスの一時停止をしている。

ロシアの国民にとって、身の回りから海外企業の製品やサービスがどんどん消えている状態である。ロシアは穀物の自給率が高く、すぐに食糧不足になる可能性は低いものの、この混乱に乗じて、転売で利益を得ようという者も現れている。

インフレが加速して、通貨ルーブルの価値が早くも3分の1に暴落している。今後、モノの価格はものすごく高くなる可能性も高い。そこでルーブルを早めにモノに替えておきたいということになる。カネがある人はクルマを買いに走り、クルマがバカみたいに売れるという不思議な現象も起きている。

ということで、テレビなどであまり伝えられていなくても、ロシアの市民もスーパーの空っぽの棚を見ながらかなりパニックに陥っている。

ウクライナ侵攻に関しては「東部などでロシア人がイジめられているのを阻止するための作戦として、ゼレンスキー政権の征伐をやっている——」。このプーチンの”フェイクニュース”を信じる国民が過半数、という調査もある。まだまだプーチン支持の人たちも多い。特に高齢者はプーチン支持が多い。

情報統制というのはそういうことである。日本も戦時中は「米英鬼畜」と叫んで、「ああいう奴らの言うことを聞いていたら、この国は滅びる」と思わされていたのと同じことがロシアで起きている。

※この記事は、『大前研一のニュース時評』 2022年3月20日号、『大前研一ライブ』 2022年3月20日放映を基に編集したものです。

大前研一

プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学教授。