大前研一メソッド 2022年12月20日

敵基地攻撃ミサイル約1千基を米から購入へ

missile defense North Korea US

大前研一(BBT大学大学院 学長 / BOND大学教授 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集

日本政府は、2022年12月、国家安全保障会議及び閣議において国家安全保障に関する基本方針である『国家安全保障戦略』『国家防衛戦略』『防衛力整備計画』を決定しました。
国家安全保障戦略について——内閣官房

日本は専守防衛の国から、敵国の基地に対する先制攻撃(反撃)能力を持つ国へと方針を大きく転換したわけです。専守防衛では日本国民を本当に守れないのか。BBT大学院・大前研一学長に聞きました。

日本の専守防衛能力はイスラエルやウクライナに劣る

ミサイル攻撃に対して、イスラエルは「Iron Dome」と呼ばれる“鉄の傘”で、迎撃する。ミサイル攻撃に対して9割を迎撃する高い能力を保有すると言われる。ロシアのミサイル攻撃に対するウクライナの迎撃能力も8割と言われる。

ミサイル攻撃に対する日本の迎撃能力はどうだろう。Jアラートの精度が一つの指標になる。

2022年11月3日午前のミサイル発射で、政府は7時50分、宮城、新潟、山形の3県を対象にJアラートを発信した。しかし、2回目のJアラートでは、「7時48分に日本列島上空を通過」と発信した。これではミサイルが日本列島上空を通過した2分後に1回目のJアラートが出たことになる。実は政府が察知したのはミサイルとは別の飛翔体で、その飛翔体も「日本列島を通過していない」と後に訂正されている。その混乱ぶりも含めて、Jアラートがまともに機能していないことが明らかになった。

Jアラートの精度の低さから類推すると、残念ながら攻撃ミサイルの迎撃は難しい。迎撃できないとしたら、どうするのか。

防空壕を検討するも、断念したのか

政府が大真面目に期待を寄せていたのが「防空壕」だった。2021年4月時点で、国内のコンクリート製の緊急一時避難施設は5万1994カ所で、そのうち地下施設は1278カ所。これではまだ足りない。政府はとくに地下施設の指定を重点的に推進する方針だという。

ロシアから雨あられとミサイル攻撃を受けたわりにウクライナで死者が少なかったのは、防空壕のおかげだと言われている。幸いにも北朝鮮はロシアほど多くのミサイルを保有していないし、日本よりも米韓の軍隊を相手にしなければならない。1週間もすれば北朝鮮が保有するミサイルを撃ち尽くすだろう。そこまで耐えれば米国が前面に出てきて、北朝鮮はTHE ENDだ。

それでも死者が出ることは避けられないだろうし、防空壕での生活は厳しいものになる。地震大国である日本は食糧や水などの備えが進んでいる部分もある。75年前の空襲から進歩がなくてため息が出るが、これが日本の安全保障の実態である。

冒頭の3文書の中に防空壕に関する記述が見当たらないのは、防空壕を断念したためなのだろうか。

令和5年度防衛予算で「トマホーク」1千基による反撃能力

イスラエルやウクライナと違い、ミサイルの迎撃から日本国民を守ることは残念ながら難しい。防空壕もない。どうしたら日本国民を守ることができるのか。軍事的には、攻撃ミサイルが日本に向けて発射される前に先制攻撃することが有力なオプションになる。

しかし、日本は憲法9条の制約があって先制攻撃ができない。そこで自民党が新たに使い始めたのが「反撃能力」という新語である。「相手の攻撃に対して反撃するのは自衛権の行使であり、国際法上も認められている。攻撃されることがわかっていて先に反撃するのは、先制攻撃ではなく、防衛のための反撃であり、憲法上問題ない」という理屈である。

自民党はこれまでも伸び縮み式のゴムのように憲法解釈を変えてきた。「自衛隊」しかり、「集団的自衛権」しかり。今回も自民党のお家芸で、「反撃能力」という名のもとに、実質的な「先制攻撃」を可能にしようとしているわけだ。

どのような場合に反撃能力の行使を認めるのかという議論は必要だが、先に攻撃する以外に北朝鮮のミサイル攻撃を止める方法はない。自民党長老には専守防衛論者が少なくないが、その中でこうした議論が出てきたことは一歩前進ととらえたい。

ただし、憲法解釈を変えるだけでは不十分である。そもそも日本は反撃能力を軍事的に持っていないのだ。

日本政府は、2020年、「12(ひとに)式地対艦誘導弾」能力向上型の開発を決定した。従来型の射程は約200km。仮に、九州に配備するにしても約1000km先にある北朝鮮のミサイル基地に届かない。しかも、九州から発射したミサイルが韓国上空を通過することは韓国からの反発が予想される。韓国上空を通過させないためには、本州のどこかに配備しなければならない。長射程化は必須となる。

開発中の能力向上型は、射程1000km超、最終的には極超音速誘導弾を開発して2000km〜3000kmを目指すという。

しかし製造メーカーは、MRJ計画に失敗し、新型ロケット「H3」の開発を遅延させている三菱重工業。北朝鮮の動きを察知していざ反撃しようにも、「飛ばすミサイルがなかった」という事態は十分に考えられる。

防衛省は、国産ミサイルが間に合わないリスクを理解している。米国から巡航ミサイル「トマホーク」を購入する。トマホークは1991年の湾岸戦争で初めて実戦で使用された30年以上前のミサイルだが、2000km飛ぶので、北朝鮮に対する反撃能力としては十分だ。私もトマホークの購入には賛成だ。トマホーク一基約2億円で約1000基を購入すべく2113億円を令和5年度予算案に防衛省が計上した。最悪の事態を想定して備えることに賛成したい。

※この記事は、『プレジデント』2022年12月30日号、『大前研一ライブ』2022年12月18日放映、同2022年12月11日放映 を基に編集したものです。

大前研一

プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学教授。