業界ウォッチ 2022年12月20日

【データから読み解く】自治体DX市場

今回は「自治体DX市場」を取り上げてご紹介いたします。

近年DX(デジタルトランスフォーメーション)が日本企業の重要課題として指摘されていますが、企業だけでなく行政・自治体においてもDXの必要性が高まっており、この分野での取組が増えてきています。

古くは電子政府として行政・自治体のシステム導入が進められてきましたが、最近では基幹システム・業務系システムだけでなく、スマホアプリなどを用いたり、スタートアップ企業と連携したりするなどの取組が増えています。行政・自治体側にDXを推進・担当する組織や、外部門人材を登用するなどの動きも出ていますが、その一方で、行政・自治体職員側にDXへの理解が不足しているなどの課題も指摘されています。

それでは、こうした自治体のDXへの投資額はどのくらいの規模で、今後どの位伸びるのでしょうか。他の業界・他の分野と比べて自治体のDX投資は、どの位の規模感なのでしょうか。自治体DXに関連するサービス(ソリューション)の市場規模は、どの位の規模感でどのように推移していくと予想されているのでしょうか。

また、自治体DXの中でも、現状どのような取り組みが進んでいて、どのような分野での取り組みが遅れているのでしょうか。
実際に数字を見て確認したいと思います。
municipality Digital Transformation

まず、投資金額で見た分野別の国内DX市場(富士キメラ総研調べ)を見てみます。2020年度で投資額が最も大きい分野は「交通/運輸」で2780億円となっており、2030年度には1.27兆円(4.6倍)になると予想されています。次いで、「戦略/基盤」(20年2500億円→30年7446億円、3倍)、「金融」(20年1887億円→30年6211億円、3.1倍)、製造(20年1620億円→30年5450億円、3.4倍)と続きます。

「自治体」2020年度409億円でしたが2030年度には4900億円と12倍に拡大することが予想されています。

次に自治体向けソリューション市場の推移(矢野経済研究所調べ)を見てみます。2019年度は6645億円で、以降2022年度まで6000億円台後半でほぼ横ばいで推移しています。その翌年の2023年度(7445億円)から上昇トレンドとなり、2025年度には9177億円と1兆円近くにまで拡大することが予想されています。

ただし、翌2026年度には6040億円と大きく落ち込むことが予想されています。この落込みは、政府が定めた自治体システム標準化(ガバメントクラウドを活用した標準準拠システムへの移行)を2025年度までに移行するという方針があるため、その対応が終了した翌2026年には、需要が落ち込むことが要因となっています。

自治体DXへの取組状況(内容)を見てみると、「本格導入」、「実証実験・部分導入」及び「計画段階」という回答が最も多かった分野は、「申請書等のオンライン化」で92.1%となっています。次いで、「文書のデジタル化」(78.7)、「RPAによる定型的業務自動化」(64.4%)と続きます。「導入予定なし」の回答が最も多かったのは、「中小企業のIoT化・AI導入支援」(73.0%)で、次いで「RESASを使った地域産業分析」(60.9%)となっています。

今後導入が増えることが予想される「計画段階」の割合が大きい分野をみると「申請書等のオンライン化」(44.2%)がトップで、次いで「文書のデジタル化」(30.3%)、「APIによるデータ連携」(30.3%)と続きます。

こうしてみると、自治体DX市場は2025年度までは成長が見込まれ、自治体のDX投資という観点では2030年ごろまで急拡大することが見込まれます。また伸びる業務分野は「申請書等のオンライン化」、「文書のデジタル化」、「APIによるデータ連携」であることが分かります。このような自治体DXや行政・政府のDXを推進するスタートアップ・テクノロジー関連企業はGovtech 企業と呼ばれ、最近注目を集めています。

一方、税金・財政支出による自治体DX市場の拡大は、財政負担が拡大することでもあり、社会的には望ましくないとも考えられます。自治体業務には似たような業務も多くあり、国が主導して同じシステムにすれば、自治体IT/システム分野におけるベンダーロックイン・サイバーゼネコン化・コスト高といった問題が解消されているとの指摘もあります。

企業がこの分野のビジネスに取り組む場合は、自治体の財政支出削減への寄与、自治体の人手不足の補完といった社会課題解決的な視点や、自治体システム・基盤と連携した付加価値高い住民向けサービスを提供するなどの企画・アイデアが求められます。高い志と、構想力が求められる事業だと言えそうですね。

出典:
富士キメラ総研プレスリリース
矢野経済研究所プレスリリース
株式会社シード・プランニング運営メディア「デジタル行政」記事
「自治体DX「申請書・手続き・届け出のオンライン化」の実施率約5割弱【RIETI調査】」