大前研一メソッド 2021年11月16日

オフィス空室率が、危険水域の10%に向かってじわじわと上昇中

オフィス空室率が、危険水域と言われる10%に向かってじわじわと上昇を続けています。このまま受給のバランスが崩れ、「借り手が減少」→「賃料が低下」→「景気が悪化」という負のスパイラルに本格的に突入していくのか、BBT大学院・大前研一学長に聞きました。

大前研一(BB大学院 学長 / BOND大学教授 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集部

大手企業が、都内に置くオフィス面積を次々と削減

Zホールディングス傘下のヤフーは、2021年11月までに都内にあるオフィスを約4割縮小する。縮小するのは都心の2拠点で、本社を置く「紀尾井タワー」(東京都千代田区)の20階分のうち7階分のフロアと、「赤坂kタワー」(港区)の5階分のフロアすべて。計約3万平方メートルを賃借契約の満了を機に返上する。これら返上する分の賃借料は、年間数十億円になるとみられる。

ヤフーは新型コロナウイルスの感染拡大を受け、緊急事態宣言が出された2020年4月以降、全国の拠点での出社率を1割程度に抑えてテレワークを進めてきた。

コロナ収束後の柔軟な働き方を見据えて、「現在のオフィス面積を維持する必要はない」と考える企業は多い。会計事務所などを運営するデロイトトーマツグループも、今夏、東京駅前のビルに入るオフィスの2フロアを返却した。

また、従業員2000人を超えるモバイルゲーム開発配信のディー・エヌ・エー(DeNA)も、渋谷区の「渋谷ヒカリエ」を解約し、近隣の渋谷スクランブルスクエアのシェアオフィスWeWorkに本社機能を移した。平均30%程度の出社率を想定したもの。

わがBBT(ビジネス・ブレークスルー)も麹町(千代田区)に持っていた2フロアのうちの1フロアを返した。ズーム環境に慣れてくると、今後、この傾向はどんどん広がっていくだろう。

都心5区のオフィス空室率は6%超

オフィスビル仲介大手の三鬼商事は、都心5区(千代田、港、中央、新宿、渋谷)の1フロアの面積が100坪以上のオフィスビルを対象に、毎月、空室率を調査している。

同調査によると、2021年10月の平均空室率は6.47%と2014年5月(6.52%)以来、7年5カ月ぶりの高水準を記録している。悪化は20カ月連続で、月次調査が始まった2002年以降で最長となっている。供給過剰の目安となる5%も9カ月連続で超えている。

【資料1】
オフィスマーケットデータ


かつて2008年のリーマン・ショックの余波で、2011~2012年に空室率が10%に近づいたことがあった。10%の手前で戻り、アベノミクスの恩恵を受けた企業の業績の伸びを背景に、空室率は下がり続け、2020年2月には1.49%という低水準になっていた。

コロナ禍前には働き方改革の推進でレンタルオフィス、シェアオフィスなどが増加し、都心部のオフィスはすぐに埋まる状況だった。それが今回、10%に向けて急激に上昇している。

シンクタンクの日本総研が2020年5月、「都内の従業者の1割がテレワークを実施すると、都心部のオフィス空室率は15%に跳ね上がる」という試算を発表した。

【資料2】
テレワーク化でオフィス需要が大幅減に(jri.co.jp)


実は5%を超えると賃料が下落するが、10%を超えると賃料はもうほとんど暴落して超危機的な状態になり、経済もどんなにテコ入れをしてもガシャンと凹むことになってしまう。

バブル崩壊後の1990年代には10%に達して、新築ビルの価格がマイナスになったこともある。今後、空室率が15%、20%と上昇すると、80年代にロンドン、ニューヨーク、ヒューストン、メルボルンなどで起きた「物件がタダでも売れなくなる」という修羅場が起きかねない。

今後、企業の働き方が劇的に変わる。都心の空室率は、経済全体に激甚な影響を及ぼすので、注意して見続けていきたい。

※この記事は、「大前研一のニュース時評」 2021年9月4日を基に編集したものです。

大前研一

プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学教授。