業界ウォッチ 2023年3月28日

【データから読み解く】欧州テックエコシステム投資動向

今回は「欧州テックエコシステム投資動向」を取り上げてご紹介いたします。

先日(3月上旬)、日本経済新聞で「フランス発「フレンチテック」10年で変貌 ユニコーンは日本の4倍」という記事が紹介されました。フランスのスタートアップ振興策が成果をあげているという内容です。また、昨年秋にドイツの首都ベルリンがスタートアップの集積地として注目を浴びているという記事も紹介されています。

直近ではシリコンバレー銀行(SVB)の破綻などで、スタートアップに逆風の傾向が見られますが、長期でみると欧州にもスタートアップのエコシステムが構築されているようです。

それでは、欧州のスタートアップエコシステムはどのような投資動向になっているのでしょうか。欧州ではどの国への投資が大きいのでしょうか。また都市・地域別でみた場合にどの都市への投資が大きくなっているのでしょうか。

実際に数字を見て確認したいと思います。
tech ecosystem

まず、欧州へのテクノロジースタートアップ投資の動向を見てみたいと思います。2018年は271億ドルで、2019年~2020年と400億ドル前後で推移しましたが、2021年に大幅に伸びて1036億ドルと、1000億ドルを超える規模に達しています。翌2022年は845億ドルと2021年よりは減少していますが、それでも2020年と比べると倍以上の投資額となっています。

次に、欧州の国別の投資額(2018年~2022年の合計)を見てみます。最も大きかったのは英国(UK)で1026億ドルとなっています。次いでドイツ(Germany)が475億ドルとなっており、以降フランス(France、412億ドル)、スウェーデン(Sweden、208億ドル)、オランダ(Netherlands、129億ドル)、スペイン(Spain、105億ドル)、スイス(Switzerland、104億ドル)と続きます。

また、欧州の都市・地域(ハブ)別の投資額(2018年~2022年の合計)を見てみます。最も投資額が大きいのはロンドン(London、英国)で、714億ドルとなっています。次いで大きいのはパリ(Paris、フランス)が271億ドルとなっています。以降、ベルリン(Berlin、ドイツ、259億ドル)、ストックホルム(Stockholm、スウェーデン、174億ドル)、ミュンヘン(Munich、ドイツ、95億ドル)、アムステルダム(Amsterdam、オランダ、85億ドル)、バルセロナ(Barcelona、スペイン、46億ドル)、マドリード(Madrid、スペイン、40億ドル)と続きます。

こうしてみると、欧州への投資は、コロナ禍後の2021年に投資流入が大きくなっていることが分かります。国別見ると、英国が圧倒的に多く、ドイツ、フランスがそれに続き、この3カ国の存在感が大きいことが分かります。

また都市・地域(ハブ)別でみると、国別の投資額の大きさと同様の傾向で、ロンドン(英国)、パリ(フランス)、ベルリン(ドイツ)が上位3位に入っています。4位がストックホルム(スウェーデン)となっており、国別でみてもスウェーデンが4位と、同様の傾向が見て取れます。

同じ国から上位20に複数ランク入りしている都市・地域(ハブ)は、ドイツ(ベルリン、ミュンヘン、ハーゲン)、スペイン(バルセロナ、マドリード)、フィンランド(ヘルシンキ、オスロ)が上げられます。

日本でも岸田政権が「スタートアップ育成5か年計画」策定するなど、スタートアップ支援を強化しようとしていますが、欧州の動向を見るとスタートアップ支援は、1~2カ所の都市(ハブ)で集中的に支援を強化した方が、投資資金を呼び込むという観点からは効果が高いものと考えられます。

日本では、スタートアップ支援など各種の施策が「地方へのバラマキ」施策となりがちですが、そうではなくしっかりと都市・地域・エコシステムを、見定めていく必要がありそうですね。

出典:Atomico “State of European Tech 2022”