大前研一メソッド 2022年9月20日

都知事選で旧統一教会との関係を疑われた大前研一

poster board of the Governor of Tokyo in Japan

大前研一(BBT大学大学院 学長 / BOND大学教授 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集

自民党議員たちはなぜ、旧統一教会とつながりを持つのでしょうか。

旧統一教会と最初に接触するのは、選挙の応援が多いとBBT大学院・大前研一学長は指摘します。ポスター貼りや電話かけの手伝いなど、選挙にはどうしても人海戦術の部分があります。応援団がない政治家(特に自民党)は、旧統一教会の力を借りなければ選挙を戦えないという現実があります。“新事実”であるかのように報道されていますが、実際は1960年代から続く公然の秘密だと大前学長は言います。

自民党の旧統一教会汚染は、“組織ぐるみ”とみなされて当然

2022年8月10日、予定より約1カ月前倒しの内閣改造によって、第2次岸田内閣が発足した。

しかし、第2次岸田内閣の支持率は発足以来低下し続けている。最大の理由は、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題だ。内閣改造の狙いの一つは、旧統一教会をめぐる報道を打ち消すことだと言われたが、新閣僚と旧統一教会との関わりが相次いで発覚し、逆効果となった。

岸田文雄首相は同年7月以来「組織的な関わりはない」「社会的に問題とされる団体との関係は、各議員が丁寧に説明していくことが大事だと思う」と発言している。しかし、例えば企業不祥事で社内の80人以上が関与していたら“組織ぐるみ”と言われるのがふつうだ。組織的関わりを否定して、正面から解決に当たらない岸田首相の姿勢が不信感を抱かせている。

旧統一教会は、安倍元首相にとって岸信介氏からつづく“ファミリー宗教”

議員と旧統一教会の関わりについて、最近の報道では“新事実”であるかのように報じられているが、政界では公然の秘密だった。

旧統一教会と最初に接触するのは、選挙の応援が多い。ポスター貼りや電話かけの手伝いから始まり、苦戦している候補者は、派閥の長から信者の票を割り振ってもらう場合もある。選挙にはどうしても人海戦術の部分があり、応援団がない政治家(特に自民党)は、旧統一教会の力を借りなければ選挙を戦えないのだ。

旧統一教会が問題となったのは、同年7月8日に起こった安倍晋三元首相の銃撃事件がきっかけだ。山上徹也容疑者は犯行動機として、安倍元首相と旧統一教会の関係を語ったと報じられた。自分の家庭を壊した旧統一教会は、岸信介元首相が日本に招いたのだから、孫の安倍元首相を狙った、というのである。

当初は、旧統一教会の韓鶴子(ハンハクチャ)総裁を狙っていたが、2021年9月、関連団体の天宙平和連合(UPF)の集会に安倍元首相が寄せたビデオメッセージを見てターゲットを切り替えたという。

山上容疑者の凶行は許されないことだ。しかし旧統一教会が、安倍元首相にとって祖父・岸信介氏からつづく岸家、安倍家の“ファミリー宗教”だったのは確かだ。

東西冷戦前、「反共産主義」を掲げる「国際勝共連合」で結びつく

旧統一教会は文鮮明(ムンソンミョン)氏が1954年に韓国で創設し、日本では1959年頃から布教が始まった。

文鮮明氏は1968年、「国際勝共連合」を韓国と日本それぞれに創設した。名前のとおり、反共産主義を掲げる政治団体だ。当時は東西冷戦の時代であり、日本では日米安保をめぐって学生運動や新左翼の活動が盛んだった時期だ。1960年安保改定を進めた岸信介氏は反共親米だから、勝共連合とは「反共」で結びついたと見られている。

しかし、文鮮明氏は二枚舌だった。日本の保守層と手を組む裏で、韓国では反日思想を語っていた。日本に支配された36年間の恨みを晴らすため、日本を食いものにするというのだ。日本の信者から霊感商法などで財産を巻き上げる。合同結婚式で韓国人男性と日本人女性を結婚させ、日本人女性に奉仕させる。反日どころか、日本人を侮辱する「侮日」の思想が色濃かった。

実際、霊感商法によって崩壊した家庭、集団結婚した韓国人男性からDVを受けた女性などの被害者が出て、駆け込み寺となった弁護士たちもいる。

1991年に東西冷戦が終結し、共産主義の勢力が弱まっても、岸家、安倍家と旧統一教会の関係はつづいた。

自民党内で旧統一教会と関係が深い議員が安倍派(清和会)に多いのは、祖父以来のファミリービジネスとして安倍元首相が日本側の窓口を務め、いわば旧統一教会の“日本総領事”だったからだ。実弟の岸信夫氏は、旧統一教会に選挙を手伝ってもらったと早々に認めた。

選挙ポスター貼り、自民党候補者は旧統一教会頼み

実は私自身も、過去に旧統一教会との関係を疑われたことがある。1995年に都知事選に立候補したときのことだ。私は初出馬だったが、自分の選挙ポスターを一日で約1万8000カ所に貼った。

すると、国会議員時代の石原慎太郎氏が、自民党の集まりで「大前は統一教会にポスター貼りを頼んだに違いない」と言ったと伝わってきた。私は石原氏のところへ飛んでいき、なぜデタラメを言ったのかと問い詰めた。すると彼は、自分が最初の選挙(1968年)で旧統一教会の世話になったから「同じだろうと思った」と白状した。私は経営コンサルタントだから、宗教団体ではなくて、軽貨物運送の「赤帽」に依頼して代金を払って貼ってもらったのだ。

ところが、後日TBSの「筑紫哲也 NEWS23」に他の候補者と出演すると、「大前さんは“在日朝鮮人”だという噂がある」と言われた。石原氏の「統一教会が協力した」というデマに尾ひれがつき、私自身が在日朝鮮人だという話になっていたのだ。

私は母親に電話して、終戦時に陸軍大尉となっていた父の軍人恩給証書をファクシミリで送るよう頼んだ。仲がよかった東京都の自民党員のところへ持っていき、「自民党がデマを流している。これを見ろ」と証書を出し、相手は「すぐにやめさせます」と約束してくれて噂は消えていった。しかし、1度流れたデマの影響は大きく、都知事選の敗因の1つとなってしまった。

自民党には、選挙のときに頼れる団体や支持層がほとんどいない。公明党にとっての創価学会、日本共産党にとっての「しんぶん赤旗」読者といった熱心な応援団がいないのだ。日本会議や仏教各派、創価学会以外の新興宗教と手を組む機会はあっても、選挙のときに動員力がある応援団でいてくれるほどの組織化はできていない。だから、自民党は「勝共連合」という看板を掲げた旧統一教会が接近しやすかった。

岸田首相や自民党は、組織的つながりを認め、霊感商法や合同結婚式で人々を苦しめている団体とは「金輪際、関係を断つ」と明言し実行しなくてはいけない。自民党の議員が言い訳を続ける限り、内閣支持率はますます低下していくだろう。

※この記事は、『プレジデント』誌 2022年9月30日号 を基に編集したものです。

大前研一

プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学教授。