大前研一メソッド 2021年8月3日

2022年3月に韓国大統領選。対日、対北朝鮮政策は変わる?


韓国では文在寅大統領の任期が残り10カ月となり、2022年3月の大統領選が注目を集めています。

与党「共に民主党」から弁護士で京畿道知事の李在明(イ・ジェミョン)、最大野党「国民の力」から前検事総長の尹錫悦(ユンソクヨル)などがすでに立候補を表明しており、このまま行けば政治経験の乏しい検事と弁護士が政権を争うことになります。

これまで200回ほど韓国を訪れ、財閥をはじめ多くの経営者と付き合った経験を持つBBT大学院・大前研一学長に聞きました。

大前研一(BBT大学大学院 学長 / BOND大学教授 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集部

韓国人が最も嫌っているのは、実は日本よりも自国の政府

韓国の大統領は、政権末期になると反日的な言動が目立ってくる。国民の支持を得るには、反日姿勢を見せるのが確実で手っ取り早い。この恒例行事に日本はいちいち反応しなくていいと、これまでも述べてきたが、その考えに変わりはない。

金大中以降に育った40代より下の世代は、日本人が想像するほど、反日感情が強いわけではない。それ以前の世代がこだわる嫌日、侮日というよりも、日本がもはや眼中になく、世界を見ているのだ。

韓国にはもちろん日本が嫌いな人もいる。その原因の1つが学校教育である。朝鮮出兵をした豊臣秀吉、征韓論の西郷隆盛、朝鮮半島を併合した伊藤博文が「三悪人」、と依然として教えられている。逆に、その伊藤博文を暗殺した安重根は国民的ヒーローだ。

しかし韓国人が酔っ払って本音で話し出すと、最も嫌っているのは自分たちの政府だとわかる。韓国人の友人に「朝鮮半島は古代から数百の王朝があって、庶民はずっと苦しめられてきた。そうした支配者への恨みは深くて、その最後が日本」と説明されて、なるほどと納得したことがある。

この自国嫌いは「ヘル朝鮮」という言葉に表れている。「こんな国、クソくらえ」というニュアンスだ。過酷な受験戦争を勝ち抜いて一流大学を卒業し、財閥企業に就職したエリートたちでも、40代になるとIT時代に育った若い世代に競争で負けてしまう。50代、60代は出世してラクできると思っていたのに肩たたきにあう。

欧州の企業のように中高年社員を再教育する仕組みはない。年金も少ないから、退職後に(公共交通費が無料なので)フードデリバリー配達員のようなアルバイトで生活する元エリートたちが発した言葉が「ヘル朝鮮」だ。

北朝鮮との統一は対等ではなく、植民地化を韓国は狙う

文在寅は、学生のころから祖国統一が悲願だった。人口が5000万人の韓国と2500万人の北朝鮮が1つになれば、現在より経済も存在感も大きな国になると計算している。もちろん軍事費の重圧も軽くなるし、うまくいけば核保有国にもなれる。

だが、韓国の一般国民は祖国統一にあまり興味がない。「あんな貧しい国と一緒になったら、東ドイツを助けた西ドイツみたいに自分たちの負担が増えるだけだ」とむしろ嫌がっている。「誰かが負担するなら、それは分断を招いた米国や日本だ」と考える人も多い。

韓国の財界人の一部は、内心ではもっとえげつないことを考えている。すぐに統一するのでなく、韓国がコントロールできる傀儡政権を置いて、北朝鮮の人たちを工場で安い労働力として働かせる。これを10年、20年続けて経済格差が縮まった暁に統一する。それまで“植民地化”して搾取しようという考えだ。

自分たちがやらなければ中国が植民地化するに決まっている。だから「北朝鮮は統一して自分たちのモノ」と自他ともにわかるようにしなければいけない、という程度の統一願望なのだ。文在寅が金正恩と話し合っているが、経済人の頭はすでに金王朝亡き後の植民地化を考えている、と言ってもいい。

そのように自分たちの政府や同胞を信じられない国民が、どうにか一致団結できそうなのが反日感情だと考えて、政権は反日を必要以上に煽るのだ。文在寅の後任は反日を一転させるのか、最大野党「国民の力」の新党首に就任した李俊錫(イ・ジュンソク)の今後の動きも含めて、2022年3月の大統領選に注目したい。

※この記事は、『プレジデント』誌 2021年8月13日号を基に編集したものです。

大前研一

プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学教授。