大前研一メソッド 2019年10月28日

アマゾン森林火災 -地球温暖化の責任は森林開発を進める途上国? それとも先進国?



大前研一(BBT大学大学院 学長 / BOND大学名誉教授 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集部

日本だけでなく、世界中で異常気象と気象災害が発生しています。世界の年平均気温が100年当たり約0.7度のペースで上昇していることが観測されており、異常気象を引き起こしていると考えられています。平均気温を上昇させている原因の1つに南米アマゾンの熱帯雨林の火災があります。この森林火災は人為的であり、先進国から問題視されています。BBT大学院・大前研一学長に聞きました。

ブラジル大統領はアマゾン森林火災の消火活動に消極的だった

ブラジルの経済発展を訴えて国民から支持されたボルソナロ大統領は、アマゾンを「重要な経済資源」と位置づけて農地開拓やインフラ整備のための森林開発を積極的に容認してきた。伐採や焼き畑によってアマゾンの森林は以前から減少傾向にあったが、ボルソナロ大統領の開発ポリシーによってそれが加速し、人為的な森林火災を助長した――。

こうした見方もあって、「記録的な数の火災を消し止める能力はブラジル政府にはない」と消火作業に消極的だったボルソナロ大統領に国際的な批判が高まってきた。

フランスのエマニュエル・マクロン大統領は「アマゾンの森林火災は国際的危機」という認識を示して、19年8月末にフランスで開催されたG7でもテーマに取り上げた。消火対策支援金としてG7諸国で2200万ドル(約23億円)を拠出することで合意。

しかしボルソナロ大統領はこれを拒絶し、「アマゾンを『助ける』というG7の国々の『同盟』は、我々を植民地か、誰のものでもない土地であるかのように扱う意図を隠している」と批判した。

そんなボルソナロ大統領だったが、「消火活動に真剣に取り組まなければ南米関税同盟との自由貿易協定(FTA)を批准しない」とEUから脅されたり、ブラジル製品の輸入規制や不買運動を求める声が広がると徐々に態度を軟化。使い道をブラジル政府が決めるなどの条件付きでG7各国からの支援を受け入れることを表明した。

消火活動にようやく本腰を入れて軍を投入、違法な伐採や焼き畑の取り締まりも強化した。またボリビアやコロンビアなどアマゾンを抱える7カ国の首脳らが協議して、大規模火災に対処するネットワークを構築したり、違法伐採の監視や森林再生などで協力していく協定を結んだ。

アマゾン森林破壊が進むと再生不能になり砂漠化?

しかし、当事者たちだけでアマゾンの森林破壊を食い止めるのは難しいだろう。いくら欧州を中心とした国際社会が「アマゾンは地球全体の酸素の20%を供給する『地球の肺』、世界最大の熱帯雨林を守れ」と叫んだところで、そこで暮らす人々にとってアマゾンは「酸素の供給源」よりも「生きる糧」、ボルソナロ大統領が言う「経済資源」なのである。国際社会では批判されているボルソナロ大統領も、国内の支持率はおおむね良好で、大統領と同じように外国からの干渉に反発を覚える国民は少なくない。森林保護を国内政治だけで解決するのは非常に難しいのだ。

自然には再生能力があるから、焼け野原から若芽が芽吹いて、いつの日か森林は蘇る。高温多湿の熱帯雨林であれば、再生スピードも早い。

しかし森林火災や開発によってアマゾンの熱帯雨林は「破壊」が進行している。世界の科学者たちが心配しているのは、熱帯雨林の破壊が進んで再生不能の臨界点を超えてしまうことだ。世界最大のサハラ砂漠はかつて広大な森林地帯だった。アマゾンの破壊がこれ以上進行するとサバンナ化、さらには砂漠化するサイクルに突入する恐れがあるという研究報告もあるのだ。

燃え続けるアマゾンの森林火災を地球温暖化の観点から懸念する声も多い。アマゾンの熱帯雨林は地球の酸素の供給源であるとともに二酸化炭素の吸収源であり、これを焼失することは地球温暖化につながるという見方だ。しかし、これは科学的とは言えない。

アマゾン森林火災の根底には南北対立の問題

確かに森林の草木は二酸化炭素を吸って光合成を行い、酸素を放出する。しかし、同時に呼吸によって酸素を取り込み、二酸化炭素を吐き出している。草木が盛んに光合成している若い森林ならまだしも、アマゾンのような古い森林では光合成と呼吸がほぼ釣り合っているので、「酸素と二酸化炭素の増減はゼロ」と研究者が発言している。

ただし、火災によって二酸化炭素や炭素の微粉(ブラックカーボン)が大量に放出される。ブラックカーボンは太陽放射熱を吸収するために、地球温暖化の一因になるといわれている。

世界の年平均気温が100年当たり約0.7度のペースで上昇していることは科学的に確かめられている。しかし、19年も世界各地で熱波や豪雨などの異常気象が観測されているが、そうした異常気象、気候変動と地球温暖化の因果関係は、いまだに解明されてはいない。たとえば地球自体の周期的な変化が気候変動の要因ならば、いくら温暖化対策をしても異常気象はなくならない。

それでも地球温暖化が人為的なものであり、二酸化炭素などの温室効果ガスを削減する温暖化対策に早急に取り組む必要がある、という考え方は欧州を筆頭に国際社会の主流になっている。

対して、「地球温暖化の責任は先進国にある。温室効果削減を我々に押しつけるのは先進国のエゴ。俺たちにも成長する権利がある」というのが途上国の言い分だ。アマゾンの森林火災をめぐる温度差の根底にもこの対立がある。

※この記事は、『プレジデント』誌2019年10月18日号を基に編集したものです。

大前研一

プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学名誉教授。