大前研一メソッド 2020年6月29日

「いきなり!ステーキ」、運転資金枯渇の危機を乗り切れるか?



大前研一(BBT大学大学院 学長 / BOND大学教授 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集部

「いきなり!ステーキ」「ペッパーランチ」などのレストランチェーンを運営する「ペッパーフードサービス」の財務が急速に悪化しています。銀行から融資も引き出すことができないだけでなく、元本返済も猶予してもらえないほど、同社の経営は深刻な状況になっているのでは、とBBT大学院・大前研一学長は推察します。

流動比率が低く、運転資金が枯渇するおそれ

同社の直近の決算短信を見ると、 純資産は6億円に満たず、総資産に対する純資産の比率である自己資本比率が2%と危険水準にある。流動性比率を見てみよう。

【換金性の高い項目に絞った流動資産】47億55百万円=【現預金】24億69百万円 +【売掛金】22億86百万円

【流動負債】108億51百万円=【買掛金】65億62百万円+【1年内返済予定の長期借入金】32億81百万円+【未払金】10億8百万円

現預金と売掛金を加えても手元資金は47億円ほどしかなく、買掛金65億62百万円を賄うことができず、18億円足りない計算である。運転資金が枯渇するおそれがあり、最低でも約61億円の資金調達が必要である。

【資料】2019年12月期 決算短信(最終アクセス:2020年6月29日)
https://www.pepper-fs.co.jp/_img/ir/lib/2020/PFS20200214A.pdf

債務超過を回避できているのか不明であるが、同社は5月15日に予定していた2020年12月期第1四半期決算発表を延期し、延期後の発表日は未定としている

食材の供給元である「エスフーズ」の村上真之助社長個人から20億円を借り入れる異常事態

同社は2020年6月1日、食材の供給元である「エスフーズ」の村上真之助社長を個人から20億円借り入れたと発表した。

「いきなり!ステーキ」は安くてうまいというフレコミだったが、価格を少しずつ上げていって、「あれっ!? これなら、もっといい店があるよね」という風に思われてしまった。急速な店舗拡大という判断ミスもある。

2019年から既存店の売り上げの下降が目立つようになり、これに新型コロナの影響が重なった。「いきなり!ステーキ」は「いきなりダウン」ということになった。2019年末に493店だった国内店は2020年5月末には414店にまで減った。2020年6月も閉店が進んでいる。

それでも、少し異常だと思われるのは、肉の仕入れ元に行き、「調子が悪いんで、カネを貸してください」とやったこと。普通なら、銀行などに行くところなのに、銀行から融資も引き出すことができないだけでなく、元本返済も猶予してもらえないということは、この会社の経営は銀行などに正面から行けない深刻な状況になっているのでは、と推察される。

ただ、「大赤字でおかしくなった」という情報はいまのところ入ってきていない。比較的安定して推移している「ペッパーランチ」事業の行方も注目される。同社は「ペッパーランチ」事業を分社化し、2020年6月1日に新設した子会社「JP」に移した。同社がJPを売却するという観測記事をマスコミ各社が報じている。村上社長への返済期日は2020年7月末に迫っており、ペッパーフードサービスあるいはJPを身売りする可能性が高い。

※この記事は、『大前研一のニュース時評』誌 2020年6月21日を基に編集したものです。

大前研一

プロフィール マサチューセッツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長。ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学教授。